※本記事は、2021年6月2日に掲載した記事を一部編集し、再掲したものです。
電動バイクGEV600(左)と電動キックボードLOM(右)。いずれも第一種原動機付自転車(いわゆる原付)扱いの車両だ。
撮影:武者良太
いま、日常的な交通手段として、ナンバー付き電動キックボードや電動バイクといった 新しいパーソナルモビリティが注目されている。
シェアリング型の電動キックボードではLuupが5月20日までに首都圏と大阪の一部地域でサービスを開始して話題だが、「手ごろな価格なら、いっそ買ってしまっても良い」と思っている人もいるかもしれない。
実は今、電動バイクでは本格的な製品が、現実味のある価格で手に入るようになり始めている。今回、試乗を紹介する2台は、いずれも15万円前後。実に、一般的な原付より安価で、給油が要らず、それでいて「電動」の面白さを凝縮したような特徴も持っている。
「電動バイクのある生活」を考える上で気になる2台の試乗レビューをお届けする。
「ラストワンマイル移動」が快適な本格電動キックボード「LOM」
筆者所有の電動キックボードLOM。入手してから約1カ月、オドメーターは60kmほどだ。
公道走行が可能な「電動キックボード」はまだニッチな存在だが、クラウドファンディング発ということで注目度が高いモデルの1つが、和歌山のモビリティベンチャー、glafitの「X-SCOOTER LOM」(以下、LOM)だ。2020年5月にMakuakeで“応援購入”(いわゆるクラウドファンディング)を実施し、サポート(支援者)1829人、応援購入金額は約1億5500万円。今後始まるであろう一般販売予定価格は1台14万9600円(税込)となっている。
道交法上は第一種原付(いわゆる原付)扱いとなる。そのため原付免許などが必要になるし、ナンバープレートの取得や自賠責保険の加入も必須だ。
交通量の少ない道路を走る分には、快適なモビリティだ。
筆者はMakuakeで初期の支援者として購入した一人だが、初めて乗ったとき、「これは新しいモビリティだ」と感じるポイントがいくつかあった。
まず、Bluetoothでペアリングしたスマホからアプリを使ってスイッチをオン&オフできること(つまり、キーが不要)。初対面から未来感がある。
そして、ハンドルを握りステップの上に立って走り出すと、車やバイクに乗っているときより、また歩いているときよりも高い視点で、新鮮な視界が目の前に広がる。加速力・減速力は安定感あるもので、低重心&車両の軽さから左右への倒し込みでコーナリングもピタっと決まる。小さなサーキットでジムカーナごっこがしたくなるほど、乗り味が面白い。
LEDヘッドライトが備わるフロント周り。路面のショックを吸収するサスペンションはない代わりに、ボリュームのあるタイヤで安定感を確保する設計。
フロントホイールは12インチ。モーターを内蔵するリアホイールは10インチと、前輪・後輪でサイズが違い、いずれもディスクブレーキを備えている。ハイパワーなモードにすれば、時速30km/hという原付一種の制限速度まで、数秒で到達する加速力があり、見かけによらず急坂でもぐいぐいと登っていく。
実のところ、バイク乗りからは「遅い」と言われがちな、50ccのホンダ・カブより、加速は鈍い。メーカーの話を聞くに、安全性を重視した加速セッティングとのことだ。確かに現在の状態でも、上り坂でフル加速をすると(重心の高さもあり)一瞬フロントタイヤが浮かび上がるほどで、パワー自体が不足しているわけではない。
駆動輪はリア。サイズを考えるとパワフルだと感じる加速力を見せる。
折りたたみ式のバーエンドミラーは、残念ながら視認性は良くない。後方確認は、必ず目視でも意識的に行う方が良いだろう。
車両全体を折りたたむとかなりコンパクトになる。車のトランクにも載せやすく、大型のコインロッカーにも収納できる。
乗り味の面白さに加えて、LOMのもう1つの特徴は「折りたためること」だ。
長いハンドルポストと、ハンドルバー(グリップ部分)が折りたためる構造になっており、この状態にするまでには1分ほど。バッテリー込み16.5kgほどの車重しかないおかげで、マンション住まいでも、自宅内に持って入れる。
片手で持ち上げるのが厳しい人には、オプションのハンドグリップをつけたことでリアタイヤを転がしてのハンドキャリーもしやすい。
一般的な折りたたみ自転車と比較しても、折りたたみ作業は簡単で、ストレスはない。
バッテリーは車両中央に装備する。大容量バッテリーも用意されている。バッテリーの充電時間はAC100Vで5時間ほど。
気になるバッテリーについては、カタログ数値上は、標準バッテリーで走行40km、大容量バッテリーで60kmの走行が可能。
実際はというと、体重90kgの筆者の場合で、アプリ上では22kmの走行が可能と表示された。公道走行時は常にハイパワーなモードにしているため、実際にはもっと短い距離でバッテリーが切れるものと思われる。ただ、あくまで近距離の移動用として捉えるなら、十分な性能だ。
環七、環八といった路肩が狭い幹線道路を走ると、スピードとあいまって強いストレスを感じる。夜に走行する際は、他の車両から視認してもらいやすいように反射素材を用いたジャケットやバッグが必要だとも感じている。
というのも、シートのない立ち乗りスタイルゆえに、長時間・長距離の移動は疲れやすい。サスペンションがなく、荒れた路面を走ると強めの振動も伝わってくる。加速セッティングから車の流れに乗れないため、交通量の多い幹線道路の走行も、あまり適さない。
向いてるのは、自転車で走るような「裏道」や「抜け道」だ。こうしたところを通って、少し先のコンビニまで、というような使い方の場合、LOMは楽しい乗り物になる。
編集部注:「X-SCOOTER LOM」は一部のユーザーから走行中にバッテリーの電源供給が切れる事象が報告されている。glafitは問題を認識しており、「下り坂において、一定条件で法定速度を大幅に超過した場合に、安全機構が働くケースがある」と説明。現在事象の確認を進めており、調査の上、別途報告するとしている。
電アシ自転車並みの価格が魅力。電動スクーター「GOCCIA GEV600」
バイク用品パーツメーカー大手プロト社が販売する電動バイクGEV600(本体価格16万2800円)。納車整備費用などを含んだ乗り出し価格は20万円程度と、お手ごろだ。
個性の強い電動キックボード「LOM」に対して、一方の「GOCCIA GEV600」は、ごくごく普通のスクーター的な乗り味を、電動アシスト自転車並みの価格(16万2800円)で実現している1台だ。
日常の移動のアシとして、電動アシスト自転車からステップアップしたい、という人向きの仕様になっている。
GEV600を取り扱う二輪販売店「ベネリ東京練馬」によると、購入希望者のほとんどは「今までバイクには乗っていなかった人」が多いという。独特のデザインや、自宅で充電できる電動バイクであること(もちろん手ごろな価格設定も)に魅力を感じているようで、半年前の店舗オープン以来、毎週1〜2台というハイペースで納車しているという。
国内販売は、大手バイク用品パーツメーカーのプロトが取り扱う。
デザインはイタリアのバイクブランド・ベネリが担当し、生産は中国。ただし、プロトが独自に日本向けにモーターなどのセッティングを作り込んでいる。このことが、安価な電動スクーターでも「ちゃんとした原付」レベルの乗り味になっていることの一因だと思われる。
フロントは制動力に優れるディスクブレーキ。リアは効き具合をコントロールしやすいドラムブレーキ。シートの後ろには広い荷台を備えている。
外観は「未来的なデザインの原付スクーター」そのもので、一見しただけでは電動モビリティとすら思えない。だから加速したときの静けさに、乗っている自分がまずびっくりする。重量56kgという、スクーターとしては軽量で扱いやすい点にも魅力を感じた。
エコモード時の加速力はゆっくりとしたものだが、パワーモードに変更するとガソリンエンジンの原付スクーターとさほど変わらないパワフルさで、スピードが上がっていく。路地を中心とした移動は快適そのものだ。
ブレーキのフィーリングは握り込んだ際の初期タッチはやや甘く、レバーを強く握り込むとしっかりと効いていく。
サスペンションのストローク量は多いが、試乗車は走行距離が短いためか、やや突き上げ感があった。
視認性の良いハンドル周り。股下のシート手前にフックがあり、コンビニ袋などを吊り下げられる実用装備もある。
バッテリーは着脱可能。車両に積んだ状態でも充電できる。バッテリー単体重量は約7.4kg。スペアバッテリーは4万9500円。
シート下に収まるバッテリーは30km/h定地走行時の走行可能距離は約70km(エコモード時/カタログ値)となかなか立派なもの。AC100Vでの充電時間は6~8時間だ。
車列をリードできるほどではないが、実用的で安心できるパワーを持つ。
GEV600に搭載されるモーターは定格600Wだが、最大出力は1300Wとなっている。原付の法定最高速度である30km/hまであっという間に到達するのは、このパワーのおかげだ。
カタログによれば、車体の性能としては最高で50km/hを出せるパワーがあるという。このパワフルさが、交通量の多い幹線道路を走る際の安心感や、坂道もぐいぐい登る登坂力につながっている。
適度に柔らかいシート、リラックスできるポジション、パワフルなモーターと長い航続距離。10km離れた場所でも気兼ねなく走っていける、日常の移動の足としてまったく不自由なく使える「電動スクーター」が、乗り出し20万円というのは、数年前には考えられなかったレベルだ。
「電動バイク」が走る日常は、もう身近な存在
大手二輪メーカー製でなくても、知見があれば、今や安心感のある作り込みと、本格的な乗り味は作れるようになった。今の電動バイク業界の状況を象徴するような2台だ。
この2車種を見ると分かるように、両者ともに、いわゆる大手二輪メーカーの製品ではない。ただし、LOMを開発したglafitには二輪メーカー・ヤマハの資本が入っているし、GEV600を取り扱うプロトも、二輪のバイク用品業界で長年の知見を持つ有名メーカーだ。
だからこそ、多くのガソリン車の原付より安価な価格でも、電動の面白さと公道を走る上で欠かせない安定性が両立できているともいえる。
電動バイクは、郵便配達などでもすでに使われており、法人利用が進んでいる。この2台のように価格が手ごろで、しっかり作られた車両であれば、「自分が日常のアシに使う」ことも現実的にイメージできるのではないだろうか。
ラストワンマイルをめぐる電動モビリティの世界は、すでにかなり身近なものになっている。