世界中が注目する電気自動車(EV)スタートアップ「リビアン(Rivian)」にアマゾンが大量発注した配送用バンの試作品。
Amazon
(※11月11日に上場、初日の株価値動きがあったため、一部情報を更新しました)
2019年、アマゾンは米電気自動車(EV)スタートアップのリビアン(Rivian)に配送用バン10万台を発注する計画を発表した。それはEV開発を手がける各社にとって画期的な事件だった。
世界を代表する巨大IT企業の一角が、フォード(Ford)やゼネラル・モーターズ(GM)ではなくスタートアップに賭ける判断を下したことは、EVの未来に対する「お墨つき」と評価された。
アマゾンからの大量受注はリビアンに安定した収入をもたらし、9月に納車を始めたばかりの消費者向けビジネス(電動ピックアップトラック『R1T』など)の起爆剤としての役割を果たすとみられる。
ただし、市場調査会社ニューコンストラクツ(New Constructs)はこの大量受注について、リビアンにとっては一見した感じほど好ましい契約ではないと指摘する。
同社の調査レポートは投資家に対し、11月第3週に予定されているリビアンの新規株式公開(IPO)とは距離を置いたほうがいいと警告。その理由として、アマゾンとの契約のせいでリビアンが過大評価されている可能性があることをあげている。
「EV市場は人気を集め、テスラの株価は上昇を続けて大きな利益を生んでいるものの、リビアン株に手を出したくなる誘惑には乗らないほうがいいと弊社は考えています」
ニューコンストラクツの調査レポートは、アマゾンとリビアンの(配送用EVバンの受発注に関する)契約がアマゾンに有利な内容に傾いていることに注目する。
同契約によれば、アマゾンにはリビアンから配送用バンを購入する義務がないにもかかわらず、リビアンは同車種を4年間他社に販売することができない。さらにその後も2年間、アマゾン側が不要とした場合以外は他社への販売禁止が続く。
なお、アマゾン側がバン10万台の購入前に契約を終了させる場合、あるいはアマゾンの購入台数が(契約に規定される)数量に至らずリビアン側が契約を終了させる場合は、アマゾンがリビアンの(配送用バンの)開発に投じた資金を一部弁済しなければならない。その際はリビアンが他社に販売することも可能になる。
この契約がある限り、リビアンは他の顧客との関係構築ができない。GMやフォード、EVスタートアップのカヌー(Canoo)といったライバルとの競合も不利になる。
「アマゾンとの契約における独占条項は、リビアンが市場シェアを獲得する能力を著しく阻害する可能性があります」(同調査レポート)
配送用EVバンの市場には参入が相次いでおり、待ったなしの厳しい状況だ。フォードはアメリカの商用車市場シェアの50%を握るパネルバン「トランジット(Transit)」のEV版を発表。
GMも米物流大手フェデックス(FedEx)向けを皮切りに、新型商用EVバン「EV600」を市場投入すると発表している。
リビアンにコメントを求めたが返答は得られなかった。
リビアンは今回の上場を通じて、競争が激化するEV市場でも最大の評価額を誇るスタートアップへと成長を遂げることになる。
同社は、目標株価を57〜62ドル(11月第1週には72〜74ドルに上方修正)としてきたが、11月9日(現地時間)に決定した発行・売出価格は、最終的に1株あたり78ドルまで引き上げられた。計画通り実現すれば時価総額はおよそ665億ドル(約7兆3200億円)に達する。
しかし、ニューコンストラクツの調査レポートは、(自動車市場における)経験値の不足やレガシー自動車メーカーとの競合がますます進むことを加味すると、リビアンの希望する評価額は妥当性を欠くと批判する。
リビアンが上場間もなく利益を計上し、テスラがデビューモデルを発表したあとの数年間に経験したような猛烈な勢いで売り上げを伸ばすと仮定しても、評価額は130億ドル(約1兆4300億円)前後がいいところだと、ニューコンストラクツは分析する。
「リビアンの上場が投資家に利益をもたらすとの見方に、当社は懐疑的なスタンスです。EV業界がいかに盛り上がっているとはいえ、それだけでリビアン株に手を出すのは推奨できません」
[原文:Rivian's clutch deal with Amazon could come back to bite the startup after its IPO, a report says]
(翻訳・編集:川村力)