フェイスブックのカンファレンス「コネクト2021」で、「メタバース」内の自身のアバターを紹介するマーク・ザッカーバーグ。
- グーグルは2015年にブランドの再構築を行い、「ルーン」、「ネスト」、「ウェイモ」といった野心的なプロジェクトへ投資した。
- しかし、それらのプロジェクトの多くは、停止されたり、資金を無駄にしたり、グーグルに再吸収されたりしている。
- フェイスブック、つまり現在の「Meta」は、同じ運命をたどらないようにしなくてはならない。
かつてフェイスブック(Facebook)として知られていた「Meta(メタ)」は、メタバースで大きな賭けに出た。
だから、社名を変更したのだ。現在のインターネットを引き継ぐものに事業を拡大するという意味を込めて。そもそも「フェイスブック」という社名は、複数のプロジェクトやアプリを擁する同社には合わないとマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOは述べていた。
このような動きを覚えている人もいるだろう。グーグル(Google)が2015年に、各事業をより効率的に運営できるよう再編した方法と同じだからだ。
持株会社のアルファベット(Alphabet)を設立し、事業はグーグルと未来的な技術に特化した「OtherBets(その他の取り組み)」の2つに分け、傘下に収めた。後者には、自動運転の「ウェイモ(Waymo)」や、太陽電池を搭載した熱気球でインターネットアクセスの変革を目指す「ルーン(Loon)」などが含まれていた。
しかし、6年が経過したがOtherBets部門で取り組んできたいくつかの「ムーンショット・プロジェクト」は、普及にはほど遠い状況だとCNBCが指摘している。将来性のあるプロジェクトもあれば、グーグルに吸収されたり、多額の資金を消費したり、別の事業体として独立したり、あるいは完全に停止したプロジェクトもある。
Metaは今、今後何年にもわたってメタバース事業に何十億ドルもの資金を投入しようとしているが、元ヘッジファンドマネージャーでエンパイア・フィナンシャル・リサーチ(Empire Financial Research)のCEO、ウィットニー・ティルソン(Whitney Tilson)は、「我々は、歴史が繰り返されようとしているところを目撃している」とInsiderに語っている。
キャッシュフローが、野心的なプロジェクトの真の成長を妨げられることも
ニュージーランドの空に浮かぶアルファベット傘下の「ルーン」の熱気球。
Google X
ティルソンは、グーグルの大きな失敗は、アルファベットで包括的な枠組みを作ってしまったことだと言う。野心的なプロジェクトは、アルファベットの潤沢な資金が利用できるような市場から切り離された環境に置くのではなく、独立した会社にするべきだった。
「これらのプロジェクトは、ほとんど監視されることなく無制限の資金を利用できたが、結局は何も達成できなかった。取締役会を有する独立企業のように、資金を獲得するためにマイルストーンを市場に示す必要がなかったからだ」とティルソンは述べている。
例えば、アルファベット傘下の「マカニ(Makani)」は、電動カイトで持続可能な風力エネルギーを生み出すことを目指していたが、「商業的に実現するまでの道のりは、予想よりもはるかに長く、リスクが高い」として、2020年初頭に活動を停止した。
「ルーン」も2021年初めに事業を停止した。グーグルのスピンオフ企業である「ウェイモ」では、2021年2月以降、CEOやCFOなど幹部が次々に辞任したとブルームバーグが報じている。自律走行車の普及が進まないことに不満を募らせたためだと見られている。
また、アルファベットのOtherBets部門から、検索エンジンを受け持つグーグル部門に戻されたプロジェクトもある。偽情報などのネット上の問題を解決するための技術インキュベーター「ジグソー(Jigsaw)」は2020年初頭に、スマートホームプロジェクトの「ネスト(Nest)」は2018年に、2019年にはサイバーセキュリティに取り組む「クロニクル(Chronicle)」がグーグルに再吸収されている。
アルファベットはこれらの「ムーンショットプロジェクト」にかなりの資金を投じてきた。ブルームバーグが5月に報じたように、グーグルの社名変更以来、OtherBets部門は32億ドル(約3600億円)もの資金を食いつぶし、243億ドル(約2兆7400億円)の営業損失を生じさせたという。アルファベット傘下の人工知能企業である「ディープマインド(Deepmind)」だけでも、2019年には6億4900万ドル(約730億円)の損失を計上しており、費用の大半はスタッフの人件費だとCNBCが報じている。
しかし、投資家たちはいかなる損失にも動じることはない。グーグルの市場価値は再編後に急上昇し、2015年以降の成長はベンチマークとなるS&P500指数を2倍以上も上回っている。
ティルソンは、メタバースプロジェクトの成果にかかわらず、Meta(旧フェイスブック)もグーグルと同じ道をたどるだろうと述べている。それは、両社のコアビジネスとデジタル広告分野での地位が非常に強固であるためだ。
ザッカーバーグをはじめとする同社の幹部たちは、メタバースが実現するまでには何年も、少なくとも10年はかかると見込んでいる。
しかし、ティルソンは、グーグルがすべきだったことをMetaもすべきだと述べている。それは、最も成功したビジネスに集中し、それに関連して注目される問題に対処し、「メタバースに年間100億ドルを浪費しない」ことだ。
「グーグルとフェイスブックは、どちらも世界最高のビジネスを行う代表的な企業だが、そのビジネスがあまりにも多くのキャッシュフローをもたらし、自己満足や資本配分のミス、帝国の建設につながるということもある」とティルソンは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)