「サブスクリプション・ビジネスは非常に強力で魅力的。人々の関心を引くのも理解できる」とマーク・ランドルフは言う。
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1997年にマーク・ランドルフとリード・ヘイスティングスがネットフリックス(Netflix)を立ち上げてから1年が経ったころ、問題が発覚した。ビデオ宅配サービスというビジネスモデルが機能していないのだ。
ランドルフとヘイスティングスは方針を転換した。デジタル・ビデオ・ライブラリーのサブスクリプションをオプションとして顧客に提供することにしたのだ。
それから20年弱が経った今日、ネットフリックスは巨大エンターテインメント企業となり、オリジナル作品はアカデミー賞を受賞、有料会員は2億1300万人を超す。
ランドルフは、2002年に退任するまでネットフリックスの初代CEOとして、サブスクリプション・モデルの構築に尽力した。その後、多くの企業がそれを模倣し、コスメから料理まで、定期的に家庭に届けるサブスクサービスが拡大した。
サブスク管理プラットフォーム企業ズオラ(Zuora)が2021年前半に行ったオンライン調査によると、調査対象12カ国の成人のうち78%が何らかのサブスクサービスを利用していた。
また、IT業界リサーチ企業CBインサイツのデータによれば、2012年1月から2019年6月にかけてのサブスク事業の売上の伸びは、小売業種やS&P500企業の5倍に達した。
ランドルフは複数の企業の取締役を務め、ネットフリックス創業に関する著書も出版した。「That Will Never Work(それでは絶対うまくいかない)」というタイトルのポッドキャストのホストとして、起業家に事業成長のためのアドバイスもしている。多くの起業家が、ネットフリックスが大成功を収めたサブスクモデルを取り入れるために、ランドルフの助言を求める。
「サブスク事業には非常に強力で魅力的な面がありますから、人々の関心を引くのも理解できます」とランドルフは言う。
しかし、サブスクモデルは全ての事業にとってフィットする訳ではない。そこで、事業に適しているか否かを判断するための3つのポイントをランドルフが共有してくれた。
1. サブスクリプションによって製品が使いやすくなるか?
シンプルなポイントのように思えるが、創業者はサブスクモデルによって自社の製品が使いやすくなるかどうかをまず判断すべきだ、とランドルフは指摘する。
例えば、ランドルフとヘイスティングズがネットフリックスを立ち上げて1年もすると、倉庫には何千枚ものDVDが棚積みになった。そこで彼らは、顧客がDVDをレンタルするたびに支払いが発生する従来のレンタルビデオのビジネスモデルを見直し、月会費を支払えばオンラインで何枚でもレンタルできるオプションを提供することにした。
サブスクモデルを導入したことで、ネットフリックスと顧客の両者にとってサービスの利用が容易になった。顧客は観たい映画を有料でレンタルするかやめておこうかと考える必要がなくなり、延滞料金も発生しない。顧客の利用頻度が上がったことで、ネットフリックスはリテンションを高められた。
しかし、自動更新や商品の継続的な取引が不向きな事業もある。事業主の中には、サブスクモデルに合うよう提供する商品を変え、結果として評判を落としてしまうケースもあるという。
「サブスクモデルに合わせるために商品の価値を下げてしまったら本末転倒です。これはサブスクモデルへの移行における最大の過ちでしょう」とランドルフは語る。
2. 顧客が商品を必要とする頻度は? いくら支払う?
サブスクモデルは、顧客が継続的に欲する商品を提供するものでなければならない、とランドフルは言う。例えば、消費者が家を購入したら、少なくとも7年くらいは新しい家を購入しないだろう。
顧客が継続的に必要としたり欲したりする商品を扱っていると判断できたら、次に検討すべきは購入頻度だ、とランドルフは言う。創業からの期間によって、請求サイクルを週、月、四半期、年などに設定する。
ある程度成熟した事業なら、「キャッシュフローの面から年払いが理想です。前払いで受け取れる訳ですから」とランドルフは言う。
しかし、創業間もない企業にとって年払いはベストの選択肢ではないという。顧客がサービスを本当に利用しているかどうかを知る機会が1年に1度しかないからだ。
「解約がどのくらい発生しているかを月次で確認することは非常に重要です」とランドルフは述べる。
3. 複数の会員種別を提供すべきか?
サブスクモデルが適しているかどうかを判断するもうひとつの方法は、さまざまな種別のプランを検討することだ。
「これこそがサブスクモデル運営の肝です。会員種別は千差万別ですからね」とランドルフは言う。
まず、価格ごとに提供する機能を変更できる。例えば、会費が安い顧客には基本的なサービスのみにとどめ、それ以上の特典は提供しない。会費のレベルが1つ、2つ、3つと上がるごとに機能を追加していく、といった具合だ。
同様に、顧客に提供するプランの数をいくつにするかも調整できる。競争の激しいサブスク市場だが、プランの数を適切に調整すれば十分に差別化を図れる、としてランドルフは次のように続ける。
「仮に同じ市場、同じサービスでも、こうした変数を調整することで異なるポジションを獲得することは可能なのです」
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)