「ソフトバンクグループはまた嵐の中に突入した」と話す孫正義会長。ただ、その表情はまだ余裕がある。
出典:ソフトバンクグループ
「人生っておもしろいですね」
11月8日のソフトバンクグループ2021年度第2四半期決算で、孫正義会長はそう切り出した。そして、こう続けた。
「(5月12日の通期決算では)踏切の向こうでは夢がある、大いに成長したと申し上げた今日はその続編。真冬の嵐のど真ん中」
画面に現れたのは、枯れた草木が点在する雪原に嵐が巻き起こっている映像。これは、ソフトバンクグループの決算が絶不調であることを表しているが、表情には余裕がある。2021年度上期までの累計で、同社の純利益は3635億6900万円と、前年同期比で80.7%減となった。
実質6兆円の資産減=真冬の嵐
同社が保有する株式などで換算される「時価純資産(NAV)」。
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ただし、孫氏が「真冬の嵐」と表現したのは純利益についてではなく、当初から「会計上の利益より大事な指標」と表現してきた「NAV(時価純資産)」についてだ。
同日に公開されたプレゼンテーション資料によると、2021年6月末までは約27兆円あった同社のNAVは2021年9月末時点では約20.9兆円。6兆円超減っており、孫氏は「(会計上は)赤字ではないと慰めたいが、実質は大赤字」と表現している。
NAVの大幅減を生んだ背景には、中国当局によるハイテク企業への締め付けがある。特に「6兆円のうちのほとんど」(孫氏)は、中国IT大手・アリババの株価下落によるもの。
アリババの株価急落によって、アリババ株のNAVにおける構成比は一気に変化した。
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そのほか、6兆円の減少幅のうち1兆円程度はソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下、SVF)の投資先の影響によるものだ。
孫氏はSVFの内訳として、6月30日にアメリカで上場した配車サービスDiDi(滴滴出行)の大幅な株価下落や、同じく4月30日にアメリカで上場した韓国のECサイト・クーパン(Coupang)の上場後の反動的な値下がりをあげている。
嵐の中の芽は「SVF」「arm」「PayPay」
「嵐の中の芽」のスライド。孫氏は「青い芽は1個じゃなくて3個くらいあるんじゃないかと思っている」とも話す。
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そんな中でも、孫氏は「私には(嵐の中でも)青い芽が見えている」として、3つの成長要因を解説した。
1つ目はSVFの2号とソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドでの投資によるものだ。SVF 2とラテンアメリカの投資先は合計276社を超え、1号の計92社を軽く超えている。
これはSVF 2やラテンアメリカの投資戦略が、1件あたりの投資額を200億円程度に抑え「大振りするより、着実にヒットを出したい」(孫氏)方向性にシフトしたことによる。また、国や地域別、カテゴリーを多様化させることで、リスクを分散する狙いもある。
孫氏は新たな芽として「arm」と「PayPay」の2つを挙げた。
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2つ目は、イギリスの半導体企業「arm」のNVDIAへの売却だ。まだ売却は完了していないが、孫氏は「(売却が完了すれば)約5兆円の含み益が育ってきている」とほくそ笑む。
この含み益が実現するには、各国の規制当局の認可が必要だが、孫氏は「(規制当局による)審査が第2ステージに入っている。私自身は無事に通ると今でも思っている」と考えを述べている。
最後は、PayPayについてだ。PayPayは日本のQRコード決済アプリで「ほぼ覇権をとった」と言っても過言ではない存在だが、孫氏はアプリのダウンロード数に着目し「全カテゴリーある中で、PayPayは(ダウンロード数)1位。決済アプリが1位というのは他の国でほとんどない」とその価値を強調した。
また、「(直近で)粗利では黒字化したと報告を受けている」と明かし、早期での黒字化に意欲を見せた。ただし、PayPay自体の上場や株式価値の評価については一貫して「時期尚早かと思う」と言及するに留めた。
中国リスクを考慮しつつ、最大1兆円の自社株買いを実行
ソフトバンクグループは、最大1兆円・条件付きの自己株式取得を発表した。
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こうした状況下を孫氏は「(ソフトバンクグループの)株価が(孫氏の思う)本来の価値よりディスカウントされた状態」と評価し、取得金額1兆円を上限とした自己株式の取得を発表した。
取得期間は2021年11月9日から2022年11月8日までの1年間。ただし、条件付きで「財務方針、投資機会、NAVディスカウントなどを考慮のうえ実施」としており、「1年以内に完了しない場合もありうる」と孫氏は話していた。
質疑応答に答える孫氏。
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自己株買いは一般的に株価の上昇が期待されるが、一時的なものであるともされる。実際、当日の質疑では現状と同様に中国のテック企業にも投資を続ける方針の孫氏に「(市場は)中国リスクを懸念しているのではないか」と質問する声が上がった。
これに対し孫氏は「SVFの構成比でも中国の投資先は2割前後に抑えられている」「十分マネージできる範囲だと思う」と回答した。
孫氏は質疑応答の終わりに「嵐がきたら嵐がきたで、それもチャンス」「山あり谷あり。めげずに懲りずに、とことん頑張っていきたい」と語り、会見を締め括った。
(文・小林優多郎)