アバターがFacebookのメタバース「ホライズン・ワークルーム(Horizon Workrooms)」のチャートを見ているイラスト
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが、仮想世界への事業拡大計画の一環として社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表した後、 「メタバースとは何か?」 という疑問を持った人々がネットに殺到しグーグル検索数が急増した。「メタバース」という言葉が突如、注目されるようになったのだ。
この疑問に答えるのにぴったりの人物の一人が、 「メタバースのゴッド・マザー」 として知られているキャシー・ハックル(Cathy Hackl)だ。
ハックルは7年以上にわたって拡張現実(AR)と仮想現実(VR)の技術開発に携わり、これらがどうすればメタバースへの入り口になり得るのかを研究してきた。また、ウェアラブル空間コンピューターのマジックリープ(MagicLeap)やVRグラスのHTCバイブ(HTC Vive)などのブランドが、コンピューター世代により現実世界と並行して作られようとするデジタル領域で、どのように利益を得ることができるのかを模索してきた。
ハックルは現在、メタバースのコンサルティング会社「フューチャーズ・インテリジェンス・グループ(Futures Intelligence Group)」 のCEOを務めているが、最近になってNFTやメタバースの世界での個人のスキルアップをサポートする新しいオンラインスクール 「リパブリック・レルム・アカデミー(Republic Realm Academy) 」の主任講師となった。
このアカデミーは、ザッカーバーグが新しい社名を発表するかなり前から準備が進められていた。しかしハックルによると、1万人もの人材を雇用してメタバースの構築を目指すというザッカーバーグのビジョンは、この業界と業界の基盤を構築するために多くの人々が何年もかけて行ってきた仕事を、ある程度認めるものだという。
「これから何かが起きようとしていること、ニーズがあることは分かっていました。今回の発表によりメタバースへの動きが加速したことと、人々がメタバースとは何なのかを理解しようとすることで、その妥当性が立証されただけなのです」とハックルは述べている。
この新しいアカデミーは、6つのクラスを受講するために600〜1200ドルかかり、トークンのみ(トークン・ゲーテッド)で運営される。授業料はNFT(非代替性トークン)として販売される。
NFTとは、ブロックチェーン上に存在し、美術品や不動産、ゲームのアーティファクト(訳注:自分で作成・獲得したアイテムやアバターなど)といった、デジタル資産または現実世界の資産を唯一無二のものとして価値づけることのできるトークンである。
このトークンは、カリフォルニア大学バークレー校のトマゾ・ディ・バルトロ(Tommaso di Bartolo)や、ジョージア州立大学のエリザベス・ストリックラー(Elizabeth Strickler)といった一流大学の教員が教える学習プラットフォームへ、ユーザーアクセスポイントとして使うこともできる。トークンは、コースの参加者が実際に暗号通貨ウォレットを操作したり、NFTを管理するという経験を積むためにも役立つ。
ハックルによれば、このオンラインコースは技術的なトレーニングに重点を置くものではないという。各個人が最終的にブロックチェーンの開発者になるためのものではなく、メタバースで何が起きているのか、組織はどのようにメタバースに対し準備する必要があるのかについて、十分な情報を持ち帰ってもらうことが狙いだという。
メタバース熱は続くのか
フェイスブック以外にも、他の大企業がメタバースに参入する動きを見せている。ナイキは近年、メタバースに関連する特許を多く申請しており、現在では多くの従業員がメタバース関連の役職に就いている。
「ナイキが参入してきていること自体が、これは投機的なものではなく、本当に世の中がこの方向に向かっているのだという大きなメッセージを市場に送ることになります。最終的には、ビジョンを持ち、十分な情報に基づいた方法で会社を率いることができるリーダーを雇う必要があるでしょう」とハックルは指摘する。
ハックルはまた、マイクロソフト(Microsoft)、ゲーム企業のロボロックス(Robolox)やエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)による、メタバース参入への大きな一歩にも注目している。しかし、実際にはファッションブランドや美容ブランドが現在、業界をリードしているようだという。
「大手企業、それもフォーチュン50企業に挙がるような巨大企業が、ここ数カ月のうちに非常に興味深い発表をするでしょう」
リパブリック・レルム・アカデミーの主任講師でフューチャーズ・インテリジェンス・グループのCEOを務めるキャシー・ハックル。
Cathy Hackl
このコースの目的は、組織の中であれ外であれ、このような機会がやってきた場合に備えて個人が準備できるようにすることだ。ハックルは、このプログラムによって卒業生の人脈が形成されることを期待している。企業が仮想世界に進出するにつれて、このネットワークはますます価値が高まるだろう。
「私たちは、人々のギャップを埋めたり、大きなニーズがある分野での人々のスキルアップを支援することができると確信しています。企業は最終的にはメタバース戦略を持ち、将来的にメタバースのチームを持つようになるでしょうから」とハックルは指摘する。
ハックルは、10年後にメタバースがどうなるかはっきりと予測するのは難しいと考えている。我々が暮らしている今の世の中で10年という年月は、まだ重要な局面の中にあるからだ。そしてこれは、メタバースがまだ構築段階にあり、その将来は、6GからEDGEコンピューティングまで、さまざまな要因に左右されるためだ。
「メタバース内では、私たちは皆、いままさに世界を構築しているところなのです」 とハックルは言う。「いまこそ始めるべきタイミングです。クリエイターであれ、ブランドであれ、ビジネスであれ、今こそどのようにして構築を始めるべきか、その構成要素は何なのかを考え始めるべきです」
メタバースへの投資
投資を含め、メタバースに関わる方法はいくつかある。
どう投資するかは、本人のリスク許容度によるとハックルは言う。彼女はリスク分散した戦略をとることを勧めており、以下のような4つの分野にチャンスがあると強調している。
1. バーチャル不動産
ハックルの予想では、ディセントラランド(Decentraland)やサンドボックス(Sandbox)のようなメタバース内でのバーチャル不動産は、長く存在し続けるだろう。
2. ETF(上場投資信託)
ラウンドヒル・ボール・メタバースETF(Roundhill Ball Metaverse ETF)のような上場投資信託では、従来の分散型の方法でメタバースを体験できる。
3. デジタルアイテム
バーチャルのナイキのスニーカーやバーバリーのコートのようなデジタルファッションアイテムには、投資チャンスがあるかもしれない。直接アバターを売買するような話が、これから数年のうちにさらに増えるだろうとハックルは予測している。
4. クリプトパンクス(CryptoPunks)、クリプトキティーズ(CryptoKitties)などのプロフィール画像プロジェクト(PFP)
「私は投資としてプロフィール画像プロジェクト(PFP)を購入することもありますが、クラブやコミュニティに参加する機会を得るためにも購入します。
しかしそれだけでなく、知的財産、あるいは何か最終的に生み出されるものへの潜在的な投資だとも考えています。 これらに投資できる人であれば、収入を分散して投資できますし、さまざまな機会に目を向けることができます。そういう方法をとるべきだと思います」とハックルは言った。
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)