タイミーのオフィスで取材に応じる守安COO。「完全フリーアドレスでまだ少し慣れません」と話す。
撮影:横山耕太郎
ディー・エヌ・エー(DeNA)の2代目社長を務めた守安功氏(48)が、ベンチャー企業・タイミーのCOOに就任した。
守安氏は、創業間もないDeNAに入社し南場智子氏の下で携帯電話ゲーム「モバゲー」を収益の柱に成長させた立役者だ。2017年には傘下の医療情報サイト「WELQ」が不正確な記事を掲載していたことから社会問題化。事態の収拾に追われた過去もある。
インターネットビジネスの最前線で走り続けてきた守安氏は、2021年2月に10年にわたって務めたDeNA社長からの退任を発表。
そして次なる挑戦の場として選んだのが、小川嶺社長(24)が立教大学在学中に起業したタイミーだった。
タイミーはスキマバイトのマッチングサービス。現在200万人のユーザーが登録し、創業4年目で約53億円を調達するなど勢いに乗る。
「コアとなる事業を拡大させる。そのために貢献したい」と語る守安氏に、なぜタイミーを選んだのか聞いた。
退任後のオファー続々、そのなかで感じた「可能性」
タイミー社長の小川氏。2021年9月に撮影。
撮影:横山耕太郎
「タイミーを選んだのは、サービスについての数値データを見て、まだまだ伸びる可能性を感じたからです」
守安氏はそう説明する。
守安氏とタイミー社長の小川氏が初めて会ったのは2021年3月のこと。DeNAの創業者のひとりで、渡辺雅之氏から、「面白い企業がある」と紹介されたという(渡辺氏はその後、8月にタイミーの社外取締役に就任した)。
小川氏からは会ったその日に、「タイミーに来てほしい」と打診されたという。
ただ守安さんのもとには、大企業からベンチャー企業まで、多くの企業からオファーが舞い込んでいた。加えて、経営者やVCからは起業も勧められたという。
「最後まで起業するか、企業で働くか迷っていました」
最終的にタイミーを選ぶ決め手になったのは、タイミーのデータを見る中で成長の可能性を感じたからだという。
「アルバイトを探しているユーザー側と、人材を募集するクライアント側がどのようにタイミーを使っているのか、そういったデータを詳しく見ました。市場の規模も含めて、純粋に見込みのあるサービスだと分かりました」
起業の道を選ばなかった理由については、「どちらかと言うとサービスをグロースさせる方が得意だから」と話す。
「DeNAで働いた20年間で、事業を作るゼロイチも、サービスのグロースも経験しました。
起業してゼロイチに挑戦するのも楽しいと思ったのですが、新しい事業の挑戦は失敗することも少なくない。それよりは、これまでの経験をいかしてサービスを成長させてみたいと。今はわくわくしています」
「インターネットど真ん中」のサービス
守安氏はDeNA社長退任後について、「数カ月間、国内の南の島を旅していました」と話す。
撮影:横山耕太郎
ただタイミーは人材のマッチングサービスで、ゲームなどDeNAが手掛ける事業とは全くの畑違いの分野だ。
抵抗はなかったのだろうか?
「人材業界は初めての分野。昔から興味があったわけではありませんが、タイミーに関しては私が勝負してきたような『インターネットど真ん中』のサービスだと認識しています」
守安氏は「インターネットど真ん中で勝負したかった」と話す。
「タイミーは営業部隊が求人を集めて紹介するようなこれまでのサービスではなく、インターネットを駆使して、ユーザーと仕事をマッチングさせるサービス。
今は『スキマバイト』をうたっていますが、より大きな市場も狙えると思っています」
WELQ騒動「反省をいかしたい」
守安氏は1999年、創業間もないDeNAにエンジニアとして入社した。
携帯電話向けゲームサイト「モバゲータウン」を手がけ、創業者の南場氏から社長の座を受け継いだが、社長としての10年間は決して平坦な道のりではなかった。
2017年の「WELQ騒動」では、DeNAが運営していたメディアが、医療に関するまとめ記事の作成を外部ライターに依頼。不正確な情報を含む大量の記事を掲載。メディアの在り方に多くの批判が集まり、当時運営していた9媒体の記事をすべて非公開にした。
「当時、私ができなかったことではありますが、成長スピードを重要視するだけではなく、どうコントロールするのかも問われています。
失敗を反省しながら、その経験を生かしていきたいと思っています」
また経営の多角化を進めたDeNAでの経験を踏まえ、守安氏は「コアとなる事業」を育てることが大事だとも話す。
「DeNAではスマホが普及し、モバゲーが存在感を失ってしまいました。社長時代はコア事業を作る苦しみがありました。
その意味では、タイミーはコア事業にはポテンシャルがある。コアを成長させることで、その周辺にも事業が生まれてくると感じています」
人材育成は「おこがましい」
shutterstock
DeNAと言えば、躍進するスタートアップの起業家を多く輩出している「人材輩出企業」としても知られている。
SHOWROOM社長の前田裕二氏(2013年にDeNA入社)、ビビッドガーデン社長の秋元里奈氏(2013年入社)、YOUTRUST社長の岩崎由夏氏(2012年入社)らを輩出した。
ベンチャー企業に参画した守安氏は、人材の育成についてはどう考えているのか?
「『人材育成』ということ自体が、おこがましいと思っています。
事業が拡大すれば自然と、やらなくてはいけない仕事が増えていきます。その中で成長があるのではないかと思っています」
新しい挑戦が始まったばかりだが、守安氏はタイミーで何を目指しているのか?
「DeNAが創業した20年前と比べて、起業を後押しするシステムも、VCも、エンジェル投資家もそろっていますが、海外に進出したり、圧倒的に成長したりするベンチャーは少ないと感じています。
タイミーが掲げる『働くを通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる』を目指すことで、いずれ業界を変えるようなインパクトのあるサービスになれるはずです」
(文・横山耕太郎)