無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


森のサーキュラーエコノミー生んだ「よそ者の質問魔」。「木を飲むソーダ」は未使用材から生まれた【fabriq・高平晴誉1】

fabriq 高平晴誉

撮影:伊藤圭

どこにもない味だ。口に含んだ瞬間に、柑橘にも似たウッディな香りがほわっと広がる。それでいて、後味はアールグレイティーのように甘みのある茶葉のテイスト。

「木を飲む」という度肝を抜くコンセプトで開発された新感覚の炭酸飲料「QINO SODA(キノ・ソーダ)」の産地は、日本三名山として知られる石川県白山(はくさん)市である。芳しい香りを放つ「クロモジ」という日本固有の香木の蒸留水から生まれた。

QINO SODA

提供:fabriq

この白山市を舞台に、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への異色の挑戦が始まった。2019年に始まり、2021年から本格始動した「QINO(キノ)プロジェクト」と称する森林資源保護プロジェクトだ。

東京と石川のベンチャー企業がタッグを組み、さらに地元の育林事業会社や学校、行政へと輪を広げ、産学官連携の地域共創事業にまで発展している。

何が異色かといえば、東京から何度も足を運び「お節介」を続けるベンチャー経営者が仕掛け人であることだ。

その仕掛け人とは、高平晴誉(38)。企業広告やブランディングを主体とするクリエイティブ会社fabriq(東京都渋谷区)の代表を務めるプロデューサー。同社ではこれまでにサッポロビールのCMや自動車ブランドMINIの企業冊子のプロデュースなどを手がけてきた。

だが、生まれも育ちも東京だ。白山市とは縁もゆかりもなかった。

間伐を促進し、山を育てるソーダ

アロマ蒸留所「EarthRing」

白山市のハーブ園に位置するアロマ蒸留所「EarthRing」は、「QINO SODA」の共同開発者だ。

提供:fabriq

プロジェクトは2019年の年末、高平が白山市の山麓にあるアロマ蒸留所「EarthRing」を訪れたことから始まる。クライアントであるアロマ会社の広告を作るために、その蒸留所をロケ地として選んだ。クライアントの商材の原料を扱うハーブ園の敷地内にあり、現地のハーブを使う希少な和製精油を生み出す現場だからだ。

常に企画を温めるクリエイターの性なのだろう。高平は白山市との関わりを一過性の仕事だけで終わらせなかった。接点を持った地元の人との雑談から、「全身を耳にして」地域の課題を聞き取った。

「QINOプロジェクト」は、森を健全に保つために「木の新しい使い道を開発すること」がミッションだ。間伐材の利用が活発になれば適切に木が間引かれ、日光が地表に届くようになる。すると下草が育ち、土壌も豊かになる。

単なるリサイクルではなく、付加価値をつけるため商品の利益の一部を山林保全に還元し、山を育てる循環を作り出そう! そんなアップサイクルの構想でスタートした第一弾の商品が、「QINO SODA」だ。スギの間伐時に一緒に切って捨てられることが多いクロモジを活用している。

廃棄していた蒸留水をアップサイクル

クロモジ

クロモジはクスノキ科の落葉低木だ。枝葉の香りがよく、爪楊枝や箸に使われることもある。

提供:fabriq

クロモジの香りの主成分はアロマ精油の原料に使われてきた。だが、精油製造時に生成される蒸留水はそのまま破棄されていた。柔軟な発想を持つ高平は、奥行きのある芳香を持つこの蒸留水を飲料水に活用できないか?と考えた。

2021年7月からクラウドファンディング「Makuake」で先行販売を開始したところ、わずか2週間で100人を超す支援が得られ、9月の終了時には目標額100万円の124%を達成。10月からはオンラインストアで一般販売も始まった。

この商品の広まりで需要が喚起され、クロモジの蒸留水は化粧品などにも活用されるようになった。「QINO SODA」の共同開発者であり、原材料として蒸留水を提供しているEarthRingでは、今年の夏以降は、元々扱っていたアロマ精油よりも、蒸留水の売上額の方が上回ったという。

未利用の原材料が主力商品に並ぶブランド商品に格上げされ、なおかつ地元森林の循環にも貢献しているというのだから、売り手、買い手、環境のいずれにおいても「三方よし」である。

EarthRing代表の大本健太郎(43)は、

「僕らはこれまで精油を売ってきたんですが、最近では『お水の商売』なんて言ってるぐらいです(笑)。高平さんは短期にゴールを置いて、成功事例を次々に見せてくれる」

と笑みをこぼす。

山の課題が「自分ゴト」になった瞬間

白山の山林

白山の山林。生まれも育ちも東京の高平だが、白山市に何度も訪れるなかで、自身と山林保全のつながりを発見していった。

提供:fabriq

東京と地方という垣根を超えてスピーディーな商品化が実現したのは、ひとえに高平の「聞く力」に依るところが大きいと大本は言う。高平が白山市で聞き取ったのは、林業、そして水の課題だった。

「最初、白山市の地元の人たちから、『きづかい運動』を展開していると聞いて、ハテナ?の連続でした。『何に気遣っているんですか?』と聞いちゃいましたから。

『いやいや、その気遣いじゃなくて、木を使うための運動なんだよ』と笑われましたけれど。そこから、『面白い!それは何?何?何?』と僕の中でスイッチがカシャっと入ったんです」(高平)

建築材として活用するために戦後に植林された杉の木が、輸入木材に押されて国内で消費されず、適齢期を超えても伐採されずに放置されている……とここまでは、一般の人が教科書的に理解している林業の課題だ。むしろ高平の関心を強く惹きつけたのは、その奥にある水の課題だった。

実は、山が木を育んでいるおかげで、土壌が健全に保たれている。その土壌が雨水をスポンジのように保水するからこそ、河川の水は枯れることなく海へと注ぎ続ける。さらに森林の土壌は土砂災害や洪水も防ぎ、濾過機能を果たしておいしい水まで作り出してくれている。

高平が2度目に白山市を訪れた際、高平に山の効用と課題をレクチャーした林業の担い手はこう言った。

「だから山と水はつながっているんですよ」

この言葉を聞いた瞬間、高平は大自然のストーリーがストンと腑に落ちたという。

「東京にいると、山って遠い存在だったんですよ。だけど、水のことって、どこに住んでいても100%誰にもつながってくる課題でしょう?

だから、水のことがわかって初めて『ああ、山が健全に育たなければ、土壌が崩れて洪水が頻発し、水の汚染にもつながるんだ! これって、今すぐに取り組むべき課題だよね』と自分ゴトとして捉えられたんです」(高平)

泉のように湧く質問で地元を圧倒

高平は誰もが認める「質問魔」だ。「高平さんにすっかり巻き込まれた」という白山市議会議員の中野進(52)は、こう証言する。

「高平さんは泉のように質問が湧いてくるタイプ。グイグイと問いを投げかけてくるから、最初は圧を感じた(笑)。でも、熱いハートで地元の課題に向き合ってくれているなとすぐにわかって。だから、僕は高平さんの熱で燃やされたんです」

中野は、今では地元の人との仲介役を担うQINOプロジェクトのキーマンの一人だ。中野が高平を評価しているのは、地元の人に掘り葉掘り聞いた多数の課題の点と点をつないで企画として構想し、それを実際のプロジェクトとして形にまとめる着地力だという。

「高平さんが次々に投げてくるアイデアは、どれも実現可能性が高くて『面白そう』と思えるものばかり。それは聞く力の賜物なんでしょうね。元々アイデアをお持ちというよりは、聞き続けるうちに降りてくるんじゃないかな。逆に言えば、アイデアが『降りる』ところまで聞き切るという。その姿勢に凄みを感じます」(中野)

QINOプロジェクト構想図・fabriq

「QINOプロジェクト」の循環イメージ図。誰が、どのように関わるかのイメージも湧いてくる。

提供:fabriq

確かに、中野が言う通り、高平が繰り出す企画の着地率は高い。「QINO SODA」の開発中に子どもが木の面白い使い道を知りながら手洗いを楽しめる「くろもじ紙石鹸」を構想し、プロトタイプ(試作品)を作成した。

今度はその木の紙石鹸を活用した「木育授業」を構想し、すぐさまコンセプトシートを教育委員会へ提出。SODAの販売より早く、2021年6月には、地元小学校の授業で「QINO school」として木育授業が実現した。今は森づくりの一環としてのレストラン事業の準備にも邁進している。

創造は「問い」から生まれる

fabriq 高平晴誉 経歴

撮影:伊藤圭

インタビューでQINOプロジェクトの成り立ちを聞くうちに、高平が質問魔であることは、本業である広告のクリエイションと関係があるんじゃないかと私は直感した。そこで本人に問うと、高平は、おおいに関係があると話した。

「木の」と掛け合わせたプロジェクト名「QINO」の頭文字にも、社名「fabriq」の末尾にも、あえて「Q」の文字を使っているのだが、それは問いを表すキーワード「Question」に由来があるというのだ。

「僕にとって仕事の醍醐味は、ハテナを『わかった!』まで高める謎解きの行為。それは人との対話とほとんど同義です。人との対話こそがクリエイションであって、そもそも僕が生業としている広告とは、伝えること以前に、伝える中身を深める『対話そのもの』と考えているんですよ」

それにしても、「よそ者」であるはずの高平が、なぜ地元の人を強力に巻き込み、企画を次々に実現できるのか。対立は起こらないのか? 次回、その秘密に迫る。

(▼敬称略・第2回に続く)

(文・古川雅子、写真・伊藤圭、デザイン・星野美緒)

この記事の続きは有料会員になるとお読みいただけます。

月額プランで1週間あたりおよそ138円

※ 実際のお支払いは週単位ではなく月単位(550円)となります

有料会員に登録する
※ いつでもマイページから解約可能です。
ログインして続きを読む
  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

Popular

あわせて読みたい

新着記事

ジャック・マーの言葉

ジャック・マー、「マネジメント能力の高い人は毒がある」「公正無私の必要はない」と考える理由

  • 浦上 早苗 [経済ジャーナリスト/法政大学IM研究科兼任教員]
  • Dec. 03, 2021, 06:45 AM

有料会員限定

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み