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20代がFIREしたい本当の理由。目指すのは「早期退職じゃない」

※本記事は、2021年9月17日に掲載した記事の再掲です

若者

若いうちにたくさんお金を稼いで株式投資などで資産を蓄え、定年を待たずして会社を辞めるFIRE。日本でも注目をにわかに集めている。

撮影:今村拓馬

「今の生活、辞めても良いっていう選択肢を持ちたいんだよね」

同世代の友人と久々にチャットしている時にそんな言葉を聞いた。彼は“FIRE”を目指していて、資産運用に詳しいので、時々私の人生相談に乗ってもらっている。

そんな彼に、「FIREを達成して、何を得たいの?」と聞いた時に返ってきた回答である。

『FIRE』とは『Financial Independence & Retire Early』の頭文字をとった言葉で、『経済的自立と早期退職』という意味を持つ。アメリカでベストセラーが生まれるなど、一種のブームになった。

日本でも今、若いうちにたくさんお金を稼いで株式投資などで資産を蓄え、定年を待たずして会社を辞めることを目指す生き方「FIRE」が、注目を集めているのだ。

冒頭の友人もまたその1人だが、自身の趣味であるエンタメ関連の仕事をしている人でもある。そんな彼がどうして?と思う人もいるだろう。しかし、「人生で仕事を辞めるという選択肢を持ちたい」という理由は、私も心から同意するものだった。

日本の社会をあっという間に覆ったFIREブーム

お金

「FIREできるほどの資産を手に入れて、今の生活を辞めても良いという選択肢を持ちたい」。

shutterstock/shisu_ka

FIREという言葉は日本に突然現れ、あっという間に私たちの周りを取り囲んで、気づけば都心の本屋の平積みの棚で必ず見かけるようになってしまった。グーグルトレンドで過去5年間の動きを見れば一目瞭然だ。

グラフ

この突然のブームの要因については、コロナ禍で不透明な経済に危機感を覚える人が増えたとか、株式投資サービスが身近になったことによる投資ブームだとか、複数語られている。どれもきっと合っていて、複数の”時代の空気”の重なりがこのようなムーブメントを生み出しているのだろう。

しかし、このFIREムーブメントで唯一、いつもモヤモヤすることがある。それが、横槍としての、「若いうちに仕事辞めてもつまんないよ」という指摘である。

確かに、その言葉には大賛成なのだが、果たして、FIREを目指せるような高給所得層に「はやく仕事を辞めて遊び呆けたい」と思っている人はどれだけいるのだろう。

あるいは、この “手が届きそうで届かない夢物語” のようなFIREに対して、本当に「仕事を辞めて、永遠に遊び続けられる」と信じている人がどれだけいるのだろうか。

だからこそ、私は彼に「どうしてFIREしたいの?」と問いかけ、冒頭の回答をもらったのである。

私たちは、遊び呆けるために、FIREしたいわけじゃない

彼の「FIREできるほどの資産を手に入れて、今の生活を辞めても良いという選択肢を持ちたい」という会話の流れが下記である。

ラインスクショ

筆者提供

彼もまた、仕事を辞めて遊びまくりたい!というわけではなく、お金の問題を一旦置いておいて、「人生を考えたい」という要望を口にしていた。

“人生の夏休みの宿題” をいつやるか問題

さらに彼はこの話に関連して、自分の友人である研究者の事例を教えてくれた。

彼の話によれば、研究の世界において、金銭的な制限を持ちながら研究をしていると、すぐに結果が出て利益になるような研究をせざるを得ない環境に追い込まれるケースがあるという。

反対に、金銭的な問題を考えずに済む環境で研究ができている人はその分、結果が出れば大きな価値につながる、時間がかかるが本質的な研究を続けやすいということがあるようだ。

この話は想像に難くない。こういった葛藤は、研究者だけに留まらないからだ。

例えば私もライターの端くれとして、幅広い領域の知識の習得と、時間軸の長い取材が必要な原稿に取り組みたいと思うこともある。しかしそれを実践することはない。

なぜなら、平日のほとんどは、(自分のやりたい仕事をしているとはいえ)生活費のために、周りから求められる、利益を短期間で得られる仕事をすることに追われている。そういった利益につながらない夏休みの宿題のような記事に取り掛かっていては「生活できない」と後回しにしているからだ。

近頃は、外出を規制されたことによってできた余剰資産を、こういった “人生の夏休みの宿題” を取り組むために使う人も増えているように思う。

目を背けてきた夢を叶える手段としてのFIRE

女性

経済的事情で、本当に時間をかけて取り組みたいことを罪悪感を感じながら後回しにしている人も多いのではないだろうか(写真はイメージです)。

shutterstock/graphbottles

メーカーで商品企画をしている別の友人は、このコロナ禍で外出をしなくなって溜まった貯蓄で、学生時代に本当は通いたかった美大に通い始めた。

そして私もまた同様に、数カ月分の生活費になるくらいの貯金が溜まったのを機に、会社を退職して、いつか挑戦したかった執筆業を生業(なりわい)とするフリーランスになった。

理想は執筆業だけで生活を成り立たせることだが、独立時はそれほど収入もなかったので、期間限定で余剰資金で労働市場から離れる “プチFIRE” のような気持ちだった。

私の周りの人たちが真面目な人たちが多いのは事実かもしれない。しかし「経済的事情を乗り越えられるならばすぐにでも挑戦したいことがある」という人は多いのではないだろうか。

あるいは言い方を変えるならば、罪悪感を感じつつも経済的事情で、本当に時間をかけて取り組みたいことを、後回しにしている人も多いのではないだろうか。

そうやって、目を背け続けてきた夢を叶えられる方法として、FIREがこんなにも多くの人の注目を集めているのではないかと思うのだ。「FIREは仕事を辞めて遊び呆けたい人がするもの」という認識は、あまりにも解像度が低いと思うのである。

背景にある「若年層」が日本で働き続ける苦しさ

通勤

(写真はイメージです)。

shutterstock/StreetVJ

日本において、私と同世代の後期ミレニアル世代(1988〜1992年生まれ)の高所得者層がFIREという言葉に惹かれるのには、生きてきた時代へのリベンジのようなものも感じてしまう。

私たちはものごころついた時から、日本が不況の時代を生きてきた。1990年代末には “リストラ” という言葉を聞きながら学校に向かい、“格差社会” という言葉に脅されながら、良い仕事に就けるようにとにかく勉強した。

しかし、苦労して良い就職をした途端、 “終身雇用”は解体される。そして今度は「2000万円貯めないと老後困る」とか、「個人にスキルがなければいけない。そしてそれは学校で学ぶ勉強とは別物」だとか言われ始めたわけである。

格差が大きく自己責任論がはびこる社会では、自分がやりたい挑戦について考えるよりも、“負けないこと”や“間違わないこと”に気を払っていなければならない。

さらに、自分の人生を高めるための夢を持つ人にとって残酷なのは、日本では社会人になった後、途中で無職になったりして職歴にブランクがあると、就職で不利になるケースが多いことである。

つまり基本的に、社会人になったら60歳の定年になるまで、私達は止まらない列車に乗車しているようなものなのだ。世界的に見ても、「リカレント教育」という学び直しの機会を取れている人の水準は世界に比べてとても低い

途中で、学生になって勉強したいとか、学生の頃はできなかった留学をしてみたいとか思うならば、永遠に労働市場から出ていくことも頭をよぎる。

自分がやってみたいことに挑戦できる、“自分の人生”を過ごせるのは退職して老後になってから。ただし、それは2000万円貯めた人だけに与えられる特権 —— こういった状況では、FIREを目指すのも当然ではないだろうか。

夢を見たってバカを見ると思って生きてきた世代が、少しは現実的な夢を叶える方法を見つけて、コツコツお金を貯めようとしているのがFIREムーブメントなのではないか、と思うのである。

私たちがリタイアしたいのは、会社ではなく、人生の後期まで「日本の労働環境」の奴隷になる人生なのだ。

FIREブームは労働問題の写し鏡。そこにある問題を見つめて

ランニング

(写真はイメージです)。

shutterstock/Panomphon Damri

FIREに対して「若いうちに会社を辞めて遊びたい人たちが目指すものでしょ?もっと仕事楽しもうよ」という風潮で語られると憤ってしまう —— 。

その理由は、FIREという名の労働市場からの撤退を目指す背景にある、日本の労働市場の歪みやそれによって生じる痛み、労働市場の常識に希望を持てない悔しさを無視されているように感じるからだ。

FIREにまつわる記事を検索すると、FIREした人の成功法や、新たな価値観の説明のような記事ばかり出てくるけれど、もっと “若い人材がどうして労働市場から離れたがるのか” を考えるべきなのではないかと思ってしまう。

そもそも、個人が給与所得以外に収入源を持ち、経済自立(Financial Independence)することは素晴らしいことだが、いつも同時に早期退職(Retire Early)が語られてしまうことも話をややこしくしている気がする。

個人が金銭的足かせから自立することのメリットは、早期退職だけではなく、労働以外の夢をかなえる余裕をもつことや、キャリアアップのための投資も可能にすることでもあるはずだからだ。

社会を覆う “FIRE" ムーブメントは、労働者として止まらない列車に乗せられている私達の叫び声の結晶なのかもしれない。

個人が汗水かいて獲得した資産で、多様な人生を得ることはもちろん、素晴らしいことだ。けれど、早期に労働市場に別れを告げることだけが、自分らしい人生を叶えるための唯一のチケットとして流行する世の中は、あまりにも生きづらい。

(文・りょかち

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