アンプルのアーキテクチャは現在5社の車メーカーの11車種で使われている。
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プライベート・エクイティ投資の大手ブラックストーン・グループは2021年、アンプル(Ample)に5000万ドル(約55億円)を投資した。このEVバッテリー交換事業のスタートアップが、電気自動車へのシフトを目指すウーバー(Uber)の最大の課題を解決してくれるかもしれない。
サンフランシスコを拠点とするアンプルは、カレド・ハスナ(Khaled Hassounah)とジョン・デ・スーザ(John de Souza)が2014年に起業した会社で、11月10日にブラックストーンから2500万ドル(約27億5000万円)、スペインの金融グループであるバンコ・サンタンデール(Banco Santander)からさらに500万ドル(約5億5000万円)の投資を受けることを発表した。
2021年8月には、シリーズCのラウンドで1億6000万ドル(約176億円)調達しているが、そのうちの2500万ドル(約27億5000万円)がブラックストーンによるものだった。アンプルはこれまでに2億6000万ドル(約286億円)を調達しており、企業価値は10億ドル(約1100億円)を超えた。
これまでの(失敗に終わった)バッテリー交換事業とは異なり、アンプルは個人の電気自動車ドライバーを(少なくとも当初は)対象にしていない。「保有台数(フリート)の多い事業者向けが中心になります。多くの車を電気自動車に切り替えることができるので。バッテリー交換のインフラを展開するために、タクシー事業をトロイの木馬として使うのです」とハスナは言う。
このアンプルが事業の突破口として課題解決をしようとしているのが、ウーバーだ。
ウーバーはアメリカ、カナダ、ヨーロッパで使う車を2030年までに電気自動車に切り替え、2040年にはグローバルで排出量をゼロにする計画だ。だが問題は、この野心的な目標のために割りを食うのはドライバーだということだ。ドライバーには電気自動車を使うコストが上乗せされる上に、どこでどのように充電するのか、道を走ってこそ稼げる仕事なのに充電中のロスタイムにどう対応したらいいのかもドライバーが考えなければならない。
「充電にかなりの時間をとられるようであれば、その分ドライバーは損することになります。今の時点でも、たくさん稼いでいるわけではありません。余裕がない人に負担を転嫁して、『環境問題に取り組まないといけないから大きな犠牲を払ってもらうよ、そのために充電に時間をとられてあなたたちは損をすることになるよ』と言うようなものです」とデ・スーザは言う。
アンプルが狙うのは、充電済みのバッテリーを提供することで、充電時間をそもそも完全になくしてしまうことだ。
バッテリー交換ステーションの前に立つ、アンプルの創業者カレド・ハスナ(右)とジョン・デ・スーザ。
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アンプルによる自動でモジュール化されたバッテリー交換技術なら、ステーションに到着してから充電済みバッテリーへ交換して出庫するまで、10分もかからない。アンプルのアーキテクチャは現在5社の車メーカーの11車種で使われている。
充電問題の解決にはバッテリー交換だと長く言われてきたものの、さまざまな課題によって実現してこなかった。テスラCEOのイーロン・マスクは以前、バッテリー交換は「高すぎる」と話していたし、カリフォルニア州パロアルト発のベター・プレイス(Better Place)などの先行企業は、バッテリーの交換作業にかかる高いコストの壁を乗り越えることができなかった。
ハスナとデ・スーザによれば、アンプルのシステムには3つの強みがあるという。まず、(アンプルの製品が搭載されていれば)どの車でも対応できること。次に、展開する際に大掛かりなインフラや設備のプロジェクトを必要としないこと。最後に、車メーカーにとって、自社の車にそのまま最新・最高のバッテリー技術を搭載できることだ。
今回の投資でアンプルは、ウーバーとの提携の規模を拡大し、一段と事業を加速させていくつもりだ。また、メーカーであるエレクトリック・ラスト・マイル・ソリューションズ(Electric Last Mile Solutions)とも提携し、彼らのクラス1商用電気自動車にも自社技術を活用していく予定だ。
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)