2021年8月、カリフォルニア州ライトルクリークで発生した山火事。
AP Photo/Ringo H.W. Chiu
- 中緯度地域で発生した大規模な火災の煤煙が、北極まで移動していることが明らかになった。
- 煤煙は氷の融解を促し、大気を温暖化させる可能性がある。
- 今回の発見は、気候変動問題に大きな影響を与える可能性がある。
ここ数年、山火事が猛威を振るっており、その影響は当初考えられていたよりも広範囲に及んでいる可能性がある。
大規模な火災によって空高く舞い上げられた煤煙の粒子は、北極圏まで運ばれ、そこでの温暖化を促進しているかもしれないという。新たな研究で、煤煙の影響は従来考えられていたよりも深刻であることが示唆されている。
2020年8月19日、カリフォルニア州バカビル郊外で発生した「落雷による複合火災 LNU(LNU Lightning Complex)」で炎上する住宅。
Stephen Lam/Reuters
「地球温暖化が加速するにつれ、山火事の件数が増え、規模が大きくなっている」と、名古屋大学環境学研究科の大畑祥助教はInsiderに語っている。
このような火災から発生した煤煙の粒子は「ブラックカーボン」と呼ばれている。科学者たちがこれらの粒子による地球の気温上昇への影響を解明しようとしていると、専門家はInsiderに語っている。
2009年8月1日から2009年11月19日までの大気中のブラックカーボンの濃度を示すアニメーション。
NASA's Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio
白い氷の上にブラックカーボン
北極圏の気温は、地球全体の平均気温の2倍の速さで上昇している。
北極の氷床は、地球にとって巨大なサンバイザーのような役割を果たしており、大量の太陽光を宇宙に反射している。氷床がなくなると、太陽光が地球を暖め、地球の気温が上昇する。
科学的なモデルではすでに、北極の夏季の氷は今世紀半ばには完全になくなると予測されている。
2021年9月16日の北極海の海氷面積を示すイメージ画像。この日、年間で最小の面積になったと見られている。
NASA's Scientific Visualization Studio
査読付きジャーナル「Atmospheric Chemistry and Physics」に2021年11月4日付けで掲載された大畑を筆頭著者とする研究論文によると、現在の気候モデルでは、北極圏の大気に存在するブラックカーボンへの山火事の影響が3分の1に過小評価されているという。
論文の共著者で、東京大学地球惑星科学専攻大気海洋科学講座の小池真准教授は、地球温暖化の主な原因は二酸化炭素の排出であるとInsiderに語っている。
「だが、ブラックカーボンも急激な温度上昇を加速させる可能性がある。ただし不確実性も非常に高い。例えば2021年にカリフォルニアで発生した山火事が、北極に影響を与えたのかどうか、はっきりとは分からない」と彼は言う。
「しかし我々は、分からないながらもそれが起こるかもしれないということを認識する必要がある」
北米やシベリアで発生した火災と北極海の海氷との距離の近さを、矢印で示している。
Google Earth/Insider
分かっているのは、シベリアの「ゾンビ火災(鎮火したはずの山火事が地中に残留し、数カ月後に再び燃え上がること)」や北米で毎年猛威を振るう山火事のように、中緯度地域で発生する火事は、北極にまで到達するブラックカーボンを放出するということだ。
「北極は、これらの排出源がかなり近いため、大きな影響を受ける。一方、南極は遠く離れている」とイギリス南極観測局の上級科学者、マーカス・フレイ(Markus Frey)はInsiderに語っている。
今週の気候グラフィックは、シベリアの山火事と、その炎による煙が8月に北極圏に到達し、記録的な最高の炭素排出量につながったことに関するもの。
フレイによると、ブラックカーボンによる明らかな影響の1つは、氷が黒くなって溶けやすくなることだという。
しかし、ブラックカーボンが大気を暖めるかどうかについては、より不確実性が高い。
フィンランド環境研究所で環境政策を研究し、北極評議会のブラックカーボンに関する報告書を執筆したミカエル・ヒルデン(Mikael Hildén)教授は、ブラックカーボンの影響は双方向に及ぶとInsiderに語った。
ヒルデンによると、例えば山火事ではブラックカーボンとともに硫黄が放出され、それが太陽光を宇宙に反射して、大気を冷やす可能性があるという。
グリーンランドのイルリサットで、海氷のそばを泳ぐ2頭のザトウクジラ。
Monica Bertolazzi/Getty Images
この効果が他の温暖化の影響を上回るのであれば、地球にとってそれほど悪いことではないかもしれない。
しかし大畑によると、ブラックカーボンを構成する粒子は、熱の吸収性を高める化学物質でコーティングされている可能性があり、その場合はさらに多くの熱を出すことになるという。
「ブラックカーボンは、発生源とその構成比率によって、冷却効果と温暖化効果の両方があると考えられる」とヒルデンは言う。
「現在のコンセンサスは、温暖化効果の方が強いという意見に傾いているようだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)