撮影:中山実華
企業のサステナビリティ度を基準に会社選びやサービス、商品を選択する消費者や求職者も多い中、イメージアップを狙って上辺だけの取り組みをアピールする“グリーン・ウォッシュ”も懸念されている。SDGsバッジを付けている数多の中から、真にサステナブルな企業を見極める方法はあるのだろうか。
2021年3月18日・19日に開催されたMASHING UP SUMMIT 2021 では、「キャンペーンでもPRでもない。真にサステナブルかつ事業を加速させる仕掛けとは?」をテーマに、サステナビリティ・コンサルタントのノイハウス萌菜さんと、ファーストリテイリング コーポレート広報部ソーシャルコミュニケーションチームリーダーのシェルバ英子さんがトークセッションを行った。
CSRからCSVへ。企業の社会的責任のありかた
サステナビリティ・コンサルタント ノイハウス萌菜さん
撮影:中山実華
企業が環境問題・社会問題に取り組むことは、もはや当然の時代。従来はCSR(企業の社会的責任)と呼ばれていた活動が、昨今では事業の中核的な位置付けとなる例も増えている。
ノイハウスさんによると、CSRはその責任の範囲が曖昧であることが問題視されてきた。そのため最近ではCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の方が推進されているという。
ノイハウスさんは、繰り返し使用できるステンレスストローブランド『のーぷら No Plastic Japan』を立ち上げ、商品販売とともに環境問題についての情報発信も行っている。“使い捨て”の多さに疑問を感じたことが、同ブランド設立のきっかけだった。
「最初はレストランなどでステンレスストローを使用してもらうのが目的だったが、マイストローという新しい言葉も流行してきて、今は多くの方がマイストローをお持ちです。個人レベル・消費者レベルでも動きが加速していると感じています」(ノイハウスさん)
現在ノイハウスさんは、量り売りのゼロウェイストショップを運営する斗々屋の広報を担当。2021年7月には日本初のゴミの出ないスーパーマーケットをオープンした。
若い世代は「本当によいことをしている会社を探したい」
ファーストリテイリング コーポレート広報部ソーシャルコミュニケーションチームリーダー シェルバ英子さん
撮影:中山実華
ファーストリテイリング コーポレート広報部のソーシャルコミュニケーションチームリーダーを務めるシェルバさんは、主にサステナビリティの情報発信を担当。2001年の入社以降、サステナビリティ部の前身である社会貢献室の立ち上げから関わってきたシェルバさんは、消費者や若い世代の意識の変化を肌で感じてきたと話す。
「20年前は今と全く違い、事業活動とは完全に分断されたものでした。社会貢献をするチームは、利益を生み出すチームとは別のコストセンターのような扱いだったのが非常に大変でした」(シェルバさん)
シェルバさんがとくに苦戦したのが、予算獲得のための経営陣との合意形成。経営陣とは世代間の意識の違いもあり、サステナビリティの長期的な価値について説得することが難しかった。しかし最近は、とくに新入社員に大きな変化を感じているそうだ。
「若い社員の方からは、入社段階から“どんなサステナビリティ活動をしていますか?”と質問されます。サステナビリティへの取り組みを、逆に問われる時代に変わってきている。これは良いチャンス」(シェルバさん)
若者世代の動向に詳しいノイハウスさんも大きく頷きながら、「若い世代からは“本当に良いことをしている会社を探したい”という声をよく聞きます」と納得の様子で語った。
「実際に(サステナビリティ活動に)エンゲージしている若い世代の行き場所がないので、企業側も焦っている。優秀な人材を獲得したくても、サステナビリティについては人材側もシャープな視線で評価してくるので、企業にとってもチャレンジングな状況」(ノイハウスさん)
“サステナブルでないこと”が買わない理由になる
サステナブルな商品については欧米のほうが消費者の目が厳しいと、シェルバさん(右)とノイハウスさん(左)は話す。
撮影:中山実華
環境問題に関わるさまざまなプロジェクトを立ち上げる中で、ここ5年間ほど、自社が欧米アパレルの水準に到達していないことを自省する機会が増えたとシェルバさんは話す。
「服作りの段階でどれだけ環境への負荷を抑えるか、サステナブルな素材を活用しているのか。欧米では、お客様だけでなくお店側からも“なぜそういう商品を出さないのか”と厳しい意見をいただきます。(サステナブルでないことが)買わない理由になってきていることに危機感を覚え、昨年ぐらいから本格的にサステナブルな商品づくりに着手しました」(シェルバさん)
意識が高い欧米の消費者と従業員から、サステナブルな商品を求める怒りに近い声を聞いてきたシェルバさん。ここでシェルバさんからノイハウスさんに、日本の消費者の動向についての質問が投げかけられた。
ノイハウスさんの周辺では、サステナビリティへの意識が高い人が多くを占めるそうだが、それでも本物を見極めることは非常に難しいと語る。
「良いものだと分かれば買いたいけれど、探すのに時間がかかる。本質的なところに謎があるマーケティングの手法がまだまだ残る中、なかなか信用して買えないというところはあります。本当に真剣に取り組んでいる企業には、もっともっとアピールしていただきたい。ただしその本質的な部分を見極めるのは消費者の力なのかもしれません」(ノイハウスさん)
サステナビリティの追求と価格への挑戦
消費者にとって手頃な価格が人気のファストファッション。サステナビリティを追求していくことで、価格への影響はあるのだろうか。
「そこは非常に難しい挑戦。人々の暮らしに寄り添うブランドであるという意味では、ラグジュアリーなブランドになるつもりはありません。現実問題として、サステナブルな素材や環境に配慮した商品はコストがかさむ傾向があります。
弊社だけでは実現できないので、他社とのパートナーシップが重要。たとえば、戦略パートナーである東レさんとダウンリサイクルという取り組みをしています。回収したダウンジャケットから中のフェザーだけ取り出して、洗浄して、再利用する。ユニクロの商品を回収するとそれなりのボリュームになりますので、費用もそれほどかからない。なるべく商品を絞り、アイテムごとに成功体験を重ねていこうとしています」(シェルバさん)
価格を抑えながらも環境に配慮した、リサイクルダウン。2020年から販売しはじめて、若年層を中心に売上は好調だったという。
欧米に比べると、日本では消費者の声が弱いことが浮き彫りになった。そして消費者として企業に率直な意見や要望を伝えることは、一人ひとりが今日からすぐに簡単に起こすことができるアクションだ。
企業の取り組みを受け身で待つのではなく、積極的に提案していくことも重要だと気づかされるトークセッションだった。
撮影:中山実華
MASHING UP SUMMIT 2021
「キャンペーンでもPRでもない。真にサステナブルかつ事業を加速させる仕掛けとは?」
ノイハウス萌菜(サステナビリティ・コンサルタント)、シェルバ英子(株式会社ファーストリテイリング コーポレート広報部ソーシャルコミュニケーションチームリーダー)
MASHING UPより転載(2021年9月24日公開)
(文・吉野潤子)
吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。