EVシフトが進む自動車産業で田中貴金属が果たす重要な役割とは?

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Herr Loeffler/Shutterstock

カーボンニュートラルの達成、さらには脱炭素社会の実現に向けて、全世界でEV(電気自動車)シフトが加速している。

EVシフトに最も積極的なEUは、2035年までに内燃機関搭載車の新車販売を全面禁止する方針を打ち出した。米国は2030年には国内新車市場の50%をEVにするという目標を設定しており、中国も今後の自動車産業で優位なポジションを得るためにEVを戦略的に推進している。遅れが指摘されていた日本も、2035年までに新車販売をすべて電動車(ハイブリッド車を含む)に切り替える方針だ。

グローバルで本格化するEVシフトを背景に、車両に欠かせない「バッテリー」などに関連して注目されている日本企業がある。

それが、半導体材料の「ボンディングワイヤ」の市場で世界トップレベルのシェアを持つ、田中貴金属グループ田中電子工業だ。同社マーケティング部 部長の田中壯和氏は、今後の自動車産業においてボンディングワイヤが果たす役割を次のように説明する。

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田中壯和(たなか・たけかず)氏/田中電子工業 マーケティング部 部長

ボンディングワイヤは半導体製造に欠かせない材料として知られていますが、EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーの接続などにも使われています。また近年、車に搭載される半導体の種類や量は飛躍的に増加していて、その重要性も高まっています。EVシフトが進む自動車産業において、ボンディングワイヤが果たす役割はますます大きくなっていくと予測しています」(田中電子工業 マーケティング部 部長 田中壯和氏)

EV黎明期から各国の企業とビジネスを進めていた背景

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ボンディングワイヤとは、一般的には半導体チップとプリント基板の電極を電気的に接続する金属線のことを指す。EVにおける使われ方としては、搭載されたリチウムイオンバッテリーの円筒形セルの電極と「バスバー」と呼ばれる部品をつなぐ用途がまず挙げられる。また、電力の制御や変換を行なうパワー半導体などにも使われており、ボンディングワイヤはEVの重要な“裏方”を務めている

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田中電子工業がEV産業への進出を模索し始めたのは、まだ“EV黎明期”だった2010年代前半のことだ。当時は、自動車メーカーやTier1メーカー、さらには電池やパワー半導体のメーカー、モジュールメーカーといった企業が、サプライチェーンにおけるポジションの確保を狙ってせめぎ合っていた時代。田中電子工業はそんな流動的な状況に飛び込んで各社のニーズをヒアリングし、その要求に応えることで信頼関係を築いていった。

「やはりサプライチェーンの構造が定まる前に、あらゆるレイヤーのお客様と関係を築けたのは大きかったと思います。EVの産業が米国と日本から生まれ、のちに韓国・中国・欧州も加わっていくという流れの中で、すべての地域のお客様とお取引することができています。EVは現在も常に技術革新が起こっている業界ですが、我々は新技術の開発の段階から加われている状況です」(田中氏)

半導体産業で積み上げてきた「信頼と実績」とは

もちろん、田中電子工業がEV業界でのアドバンテージを得られたのは、進出の時期だけが要因ではない。そこにはやはり半導体業界で長年にわたって技術力を磨き、信頼を積み上げてきたという実績も大きく影響していた。

田中電子工業の創業は1961年。創業後は、当時の次世代半導体であるシリコントランジスタ用に金を材料にしたボンディングワイヤの開発に取り組み、1963年には量産化に成功。1978年には、シンガポールに世界中に供給できる工場を設立。この高性能な金ボンディングワイヤは半導体産業の発展を支え続け、ボンディングワイヤの世界トップメーカーへと成長していく同社の歴史の礎となった。

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提供:田中電子工業

現在では、ボンディングワイヤの材料の主流は金から銅およびパラジウムコート銅へと移っている。田中電子工業はこの変化にも対応し、金、銀、銅、アルミニウムといった材料をフルラインアップで揃える。生産拠点は、日本(佐賀)、シンガポール、マレーシア、中国、台湾の世界5拠点。ここから、ISO9001とIATF16949(自動車業界向けの上位認証)の認証を取得した高品質な製品を安定的に供給している。

田中電子工業の強みは、田中貴金属グループに属していることから、金や銀、パラジウムといった貴金属の扱いや合金の製造などに関する豊富な知見を持つことが挙げられる。貴金属ではない銅やアルミニウムについても、金が主流の時代に蓄積した膨大なノウハウを活用できるのは他社にはないアドバンテージだ、と田中氏は言う。

「ボンディングワイヤの製品そのものだけでなく、金属と金属の接合のノウハウなども含めたソリューションとして提供できるのが我々の強みです。半導体でもEVでも、お客様それぞれに異なる設計思想に合わせて厳密に定められた仕様に応えられる製品を提供することが必要ですが、我々にはそれができると自負しています」(田中氏)

社会のスマート化を影ながら支え、脱炭素社会の実現にも貢献

さて、EVにおけるボンディングワイヤは、今後もさまざまな可能性を秘めている。リチウムイオンバッテリーやパワー半導体以外の用途を、田中氏はこう説明する。

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「まずは、車載全固体電池です。これはEVの安全性、ひいては社会への普及にも寄与する技術ですので、世界中で急ピッチの開発が進んでいて、我々もその中に加わっています。また、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)もあります。各種センサーやミリ波レーダー、カメラなどを駆使して自動車の周囲の情報を把握し、ドライバーの安全かつ快適な運転を支援する仕組みですが、これにも金属間の接合技術は欠かせません。これらの用途での需要は、(EVの発展とともに)今後も伸び続けるだろうと予測しています」(田中氏)

現在、世界的な半導体不足が深刻な問題となっているが、これは半導体の需要が飛躍的に増加していることにも起因している。この背景にあるのは、自動車に限らず、社会全体であらゆるモノのデジタル化が進んでいるという現実だ。それを陰ながら支えるボンディングワイヤなど半導体を構成する要素材料が果たす役割も、今後大きくなっていくのは間違いない。

「社会のスマート化が進むということは、電気を使うもの、あるいはモーターで動くものが増加するということで、EVもその一例です。そして、このことは、世界全体で喫緊の課題となっている“脱炭素化”につながります。我々としては、ボンディングワイヤという製品を高品質かつ安定的に供給することを通して、脱炭素社会の実現にも貢献したいと考えています」(田中氏)

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