英ロールスロイス(Rolls-Royce)が9月末に発表した高級電気自動車(EV)『スペクター(Spectre)』の正面画像。
Rolls-Royce
英ロールスロイス(Rolls-Royce)は9月29日、2023年第4四半期(10〜12月)に新型モデルを市場投入すると発表した。
『スペクター(Spectre)』と呼ばれ、外観は伝統的なロールスロイスそのもの。フロント側の長いオーバーハング、風格の漂うキャビン、富裕層のゆったりとした乗り降りを想定した前ヒンジの大型コーチドアを備えた2ドアクーペだ。
ただし、従来の強力な内燃機関エンジンの代わりにフロア下には車載電池パックが敷きつめられ、由緒あるロールスロイスにおける初めての電気自動車(EV)としてデビューする。
ロールスロイスはそもそも効率性にはこだわっていない。
市街地・高速走行を組み合わせた総合燃費は、現行ガソリン車モデルのすべてが14マイル毎ガロン(約5.9キロ毎リッター)と、全米平均のわずか半分だ。
車両重量は2.5トンから3トン、すべてのモデルが12気筒エンジンを搭載。エントリーモデルの価格はオプション抜きで31万5000ドル(約3500万円)からとなっている。
同社にとって、浪費はほぼ美徳と言っていいだろう。
正式名称ロールス・ロイス・モーター・カーズの最高経営責任者(CEO)トルステン・ミュラー・エトヴェシュはInsiderの取材に応じ、笑顔で次のように語った。
「(当社のすべてのモデルには)最も効率の良い12気筒エンジンが搭載されています。冗談のように聞こえるかもしれませんが、本気で言っているのです。
ロールスロイスの創業以来これまでに製造したすべての車両の80%がいまも現役で走っています。最も純粋な意味でのサステナブル製品と言えるのではないでしょうか」
それでも、エトヴェシュCEOによれば、(『スペクター』に導入した)電気駆動システムはロールスロイスの重視するコアバリューに合致するさまざまな価値を提供してくれるという。
「ロールスロイスの誇るマジック・カーペット(魔法のじゅうたん)のような乗り心地についても、電気駆動システムが静かながら大きなトルクを瞬時に発生させ、ロールスロイスならではの『ワフタビリティ(浮遊感)』を実現しています。ロールスロイスは音が静かといった(単純な)特徴では定義できないのです」
ブルームバーグのリサーチアナリスト(高級車担当)マイケル・ディーンも、エトヴェシュCEOの発言に続く。
「高級EVについて言えば、パフォーマンス(性能)はもはや差別化要因にはならず、テクノロジーとデジタル化こそが差別化のポイントになっています。ロールスロイスにも大胆かつ大きな一歩を踏み出すべきときが来ていると思います」
ロールスロイスは2011年に最高級サルーン『ファントム』を電動化したコンセプトカー『ファントム102EX』を発表。報道関係者向けの試乗会や、オーナーズグループやディーラー向けワークショップを開催している。
「102EXは残念ながら失敗作でした。とはいえ、電動化はフィットしたか、実際の乗り心地はどうだったかなど、驚くほどの反響があったことは間違いありません」(エトヴェシュCEO)
今回発表した『スペクター』にも同様の大きな反響が寄せられつつあるという。エトヴェシュCEOは状況をこう説明する。
「関心を持って登録申込したり、ディーラーに頭金を支払ったり、出だしの評判は上々。高級車市場に電動化が受け入れられるタイミングが来ていると感じます」
そんな状況のなかでも、エトヴェシュCEOは『スペクター』をいま流行の電気駆動システムとは段違いの特別なブランドとして位置づけようとしている。
「私がまず第一にお客さまにお伝えするのは、これ(=スペクター)がロールスロイスであるということ。EVだと伝えるのはその次です。順番が逆になることはありえません」
『スペクター((Spectre))』の側面画像。前ヒンジのコーチドアが見える。
Rolls-Royce
EVシフトは、環境保護を通じた利他主義というよりは、むしろ化石燃料の消費量削減を目的とする公的規制に動機づけられた動きと言える。
たとえそうだとしても、ロールスロイスの顧客は電気駆動へのシフトを全面的に支持しているとエトヴェシュCEOは考えている。
「ある程度の規制は受け入れねばなりません。ゼロエミッションという目標を達成する必要が出てきますが、規制に従えば世界のある国や地域では販売できるようになります。
2020年にポルシェ初のEVとして市場投入された『タイカン』の成功を見てください。世界の人々はEVを運転する自分を見られたいし、語りもしたいのです」
エトヴェシュCEOはそうした消費者の心理を深く理解している。
「究極的に望まれているのは、(浪費を美徳とするような効率の悪い内燃機関エンジンを積む)ロールスロイスが都心を走れなくなるような未来です。
もしそうなったら、私たちは用済み、お別れです。なぜなら、ロールスロイスのオーナーの皆さんは都心に住んでいるか、郊外に住んで都心に通勤しているから。そう考えると、私たちに電動化以外の選択肢はないのです」
(翻訳・編集:川村力)