昨年来、NFT(非代替性トークン)がブームになっている。メディアの脚光を浴び、2021年年初からのNFT売上金額合計は130億ドル(約1兆4000億円)を超えた。
関心が高まる一方、多くの人にとってNFTはよく理解できない存在だ。あまり実用性のない空想世界の話のように扱われている。NFTに対する疑問を抱く向きがある一方、NFTより実用的で、これからの仕事やコラボレーションのあり方を根幹から変え得る新たな流れも生まれている。それが「ソーシャルトークン」だ。
ソーシャルトークンとは何か?
簡単に言うと、ソーシャルトークンとは、暗号化に基づく分散型コミュニティ「DAO(デジタル自立分散型組織)」内において、報酬をデジタル通貨で支払うことにより共同プロジェクトへの貢献を奨励する方法だ。
受け取ったデジタル通貨は、他の仮想通貨に交換したり、デジタル通貨と紐づけられたコミュニティ内の特別な権利と交換したりできる。例えば、閲覧にトークンが必要なコンテンツへのアクセス、将来の戦略に関する意思決定のための議決権、コミュニティ内NFTへの早期アクセス、といった権利だ。
DAOとは、共通の目的のために熱意を持った人々が協力し、高い目標を達成するためのバーチャルな場だ。その目的は仕事ではない。何よりも文化であり、協調であり、創りたいものを創ることが目的だ。
DAOでは文化が最優先され、製品やプロジェクトはその結果として生まれるものとされる。多様なDAOがあり、暗号ベースの製品開発に注力するものや、ソーシャル・ネットワーキングに力を入れるものもある。しかし、ソーシャル系を含むすべてのDAOは、さまざまな方法でさまざまな製品開発を進めるなかで、その目的達成のためにソーシャルトークンを活用する。
ソーシャルトークンは仮想通貨であり、その意味では他の通常の仮想通貨と同様だ。しかし、ソーシャルトークンの利点は、コミュニティのリーダーがトークンを分配する権限を持つことだ。
ソーシャルトークンを作る目的は、初期からプロジェクト支援者・貢献者が利益を共有できるバーチャル・コミュニティを構築することだ。DAOが構築しているさまざまなプロジェクトに貢献してコミュニティの発展に寄与した者には、利益のシェアとしてソーシャルトークンが与えられる。
その目的は、人々がトークンを購入して会員限定のコンテンツや特典、コミュニティでの投票権を得たいと思うような、野心的で強固なコミュニティやプロジェクトを構築することだ。
既存の暗号資産による報酬(給与に近いもの)に比べ、貢献者にとってはソーシャルトークンのほうがコミュニティの成功に尽力するインセンティブを得やすい。受け取るトークンの価値はプロジェクトの成功に直結しており、ほぼ無限に価値を高めることも可能だからだ。草創期のスタートアップの従業員が受け取る株式報酬をイメージしてほしい。
さらに、ソーシャルトークンのほうが貢献者に対する報酬の分配も公平だ。スタートアップとは違って、一定規模のトークンを獲得するのに初期からの貢献者である必要はない。後から参加しても、貢献に比例する報酬を得られる。従来のスタートアップ型の報酬よりはるかに公平だ。
こうしたコミュニティ内における利点の他にも、ソーシャルトークンのメリットはある。NFTより売買が容易な点だ。
NFTの場合、売るには買い手が現れるのを待つしかないが、ソーシャルトークンはいつでも他の暗号資産と交換できる。つまり、ソーシャルトークンの方がNFTより市場性が高い。
さらに、NFTと異なり、ソーシャルトークン革命に参画するのに大きな資産は不要だ。参入障壁はなく、誰もがオンラインコミュニティに自分の時間を投資して仕事をすることで、報酬をソーシャルトークンで受け取ることができる。つまり、時間を投資する人がコミュニティの真の価値を創出するのだ。
ソーシャルトークンはどんな組織に向いているのか?
ソーシャルトークンを使えば、知らない人やこれまで信頼関係のない人とのコラボレーションが進めやすくなる。ソーシャルトークンによってブロックチェーン上の取引が証拠として記録されるため、初めから各貢献者と契約書や法律上の扱いを定める必要がないからだ。
ソーシャルトークンは、従来の契約や給与支払いといった信頼関係構築の方法に完全に取って代わるものではないが、小規模のプロジェクトを素早く立ち上げるには優れた方法だ。
ソーシャルトークンを使ってプロジェクトを手っ取り早く始めたいなら、「マルチシグネチャー・ウォレット」と呼ばれる方法がある。
このウォレット(財布)は、コミュニティの暗号資産を管理するための暗号化されたウォレットで、取引確認の際にあらかじめ定めた数の署名を必要とするよう設定することもできる。こうすれば、資金が投資されたプロジェクトを、誰か一人が他の署名者の同意なしに中止することを防げる。
また暗号化技術のおかげで、将来に関わる意思決定の際、コミュニティメンバーは保有トークン数に基づいて比例配分される議決権を行使できるので、公平な投票が可能となる。
価値があるのは、トークンそのものより、そのトークンを利用するコミュニティや組織といったエコシステムだ。
NFTは今のところ主に投機対象であり、ステータスを誇示し、一種の階級に所属する手段となっている。一方、ソーシャルトークンは、コミュニティに参加し、協力して大きなプロジェクトを作り上げ、利益を分配することを可能にするものだ。
NFTを買うことは企業の投資家になるようなものだが、提供する仕事と引き換えにソーシャルトークンを入手することは草創期の従業員になるようなものだ。より深く関与し、より多くを学び、コミュニティの将来により大きな影響力を持つ。将来利益が得られることだけを期待する投資家より、はるかにエキサイティングだ。
すでに活用事例も
最近、ソーシャルトークンの力を十分に活用したプロジェクトも現れている。例えば、スタートアップ3社による共同プロジェクト、ザ・モダン・ビルボード・コレクティブ(The Modern Billboard Collective)が挙げられる。
ザ・モダン・ビルボード・コレクティブは、「ミリオンダラー・ホームページ」(1枚のホームページに多数の広告リンクを張った広告手法で成功)のトークン版の実現を目指すものだ。ミリオンダラー・ホームページ上には、1000×1000ピクセルのグリッド上に100万ピクセルが配置され、広告主は1ピクセルを1ドルで購入して広告を掲載することができる。ページ全体が100万ドルの価値を持つという。
ザ・モダン・ビルボード・コレクティブは、このアイデアをもとに、トークンを使って広告主にホームページ上のピクセルを販売することで、中間業者を介さずに広告主がそれぞれのウェブサイト上に広告を掲載できるようにすることを目指している。
このプロジェクト全体を通して暗号化技術を活用しようと協働するなかで、3社のスタートアップの間に信頼感が生まれたという。
広告主は、ブロックチェーンで結ばれた3社いずれのウェブサイト上でもデジタル広告枠を購入できる。使用料は自動的かつ公平に3社に分配されるため、お互いに信頼が持てる。こうしたプロジェクトを可能にしているのは、誰もが短時間でソーシャルトークンをつくれるコインバイズ(Coinvise)のようなプラットフォームだ。
分散型コミュニティの中には、協力を奨励するために、数年前からソーシャルトークンを利用しているところもある。思想家やクリエイターのソーシャルネットワークであるフレンズ・ウィズ・ベネフィッツ(Friends With Benefits)や、広告専門家、フォーチュン1000社、Web3.0型スタートアップのコミュニティであるJUMPなどだ。いずれも成長を続けている。
ソーシャルトークンは暗号化技術における次の革命かもしれない。コラボレーションを後押しし、複数の野心的なプロジェクトに即座に取りかかることを容易にする。トークン保有者は、柔軟かつ自律的にプロジェクトに取り組める。
すでにソーシャルトークンを利用するいくつかのコミュニティは着実に成長しており、数十億ドル(数百億円)の価値を持つコミュニティに成長する可能性を秘めている。この分野は急速に拡大しているが、まだ黎明期であり、志を持つ人にとっては大いにチャンスがありそうだ。
新しいWeb 0.3型コミュニティとともに成長し、この革命に参加することで報酬を手にする——ソーシャルトークンは一生に一度のチャンスかもしれない。このチャンスを逃してはならない。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)
[原文:The next big thing in crypto is here, and it will revolutionize the future of work]