日本のGDPマイナス成長「世界と悩み共有できない」格差が露見。新規感染者数に一喜一憂していると…

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緊急事態宣言下(2021年8月)の東京・渋谷の様子。同四半期(7〜9月)の日本はマイナス成長を記録した。

REUTERS/Androniki Christodoulou

日本の第3四半期(7~9月期)国内総生産(GDP)が11月15日に公表された。前期比マイナス0.8%、前期比年率換算でマイナス3.0%と、市場予想を上回る落ち込みとなった。

マイナス成長は2021年第1四半期(1〜3月)以来の2期ぶり。第3四半期はほぼすべて緊急事態宣言が発出中だったので当然といえば当然だ。

後述するように、海外経済とのあまりに大きな格差が懸念される。

第3四半期におけるデルタ変異株の拡大やインフレ高進、供給制約などは世界的問題であり、イギリスやアメリカのGDPも同時期は減速している。

ただ、その前の第2四半期(4~6月)にイギリスは前期比年率換算でプラス22%(前期比プラス5.5%)、アメリカはプラス6.7%(同プラス1.7%)ときわめて大きな成長を記録しており、プラス1.5%(同プラス0.4%)の日本と比べると、稼いだ「のりしろ」に大きな差がある

日本のGDPを需要項目別にみると、個人消費および設備投資、つまり民間需要の弱さが際立つ【図表1】。

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【図表1】日本の実質GDP(折れ線)の推移。棒グラフは内訳。

出所:内閣府資料より筆者作成

緊急事態宣言は社会の人流を抑制し、消費・投資意欲の抑制を暗に目的としているのだから、民間需要の低迷は必然の帰結でもある。

アメリカでは部品や商品の供給不足が景気の下押し要因と指摘されているが、日本では逆に民間在庫投資が積み上がり、GDPにプラス要因として寄与している。

これは、日本に不足しているのが供給ではなく需要であることを明確に示しており、「世界と悩みを共有できない」日本経済の実情をよく表していると言える。

なお、名目ベースでは前期比年率マイナス2.5%(前期比マイナス0.6%)と、3四半期連続のマイナス成長となった。

加えて、今回マイナス成長を記録したことで、2021年中にコロナ前の水準を回復するという政府目標の実現は絶望的になった。

今期の実質GDPは感染拡大直前の2019年第4四半期(10~12月)に比べて2.2%低い。この差を残り1四半期(2021年10~12月)で埋めるのはもはや無理だ。

さらに言えば、日本にとってコロナ前の水準とは、消費増税が大きく影響した2019年第4四半期ではなく、その前の2019年第3四半期(7~9月)と考えるのがフェアだ。それとの比較では4%以上低く、年度内(2022年3月末まで)の復元も難しい水準と言えるだろう。

欧米との「格差」が生まれた理由

下の【図表2】は2021年1~9月の3四半期について、日米欧の成長率(前期比年率換算)を平均して並べたものだ。

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【図表2】日米欧の実質GDP成長率の比較(2021年第1〜第3四半期の平均、前期比年率)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

説明の必要はないだろう。こうした実体経済の差が、精彩を欠く日本株や日本円のパフォーマンスとしてあらわれている可能性は高く、筆者はそれが2022年以降も続くのではないかと危惧している。

国際通貨基金(IMF)が10月に公表した秋季「世界経済見通し」は、そうした日本低迷の原因を緊急事態宣言による行動規制の結果と指摘している。宣言の乱発に象徴される防疫政策のまずさが背景にあったことは間違いない。

デルタ変異株の感染拡大、ヒト・モノの供給制約、資源価格の高止まりなどは景気の下押し要因に違いないが、それは日本に限らず世界共通の状況だ。

2019年10月の消費増税を日本経済の「足かせ」と指摘する声もいまだにあるが、2年以上にわたって成長率を引き下げる要因とは思えない。

行動規制(人流抑制)による感染防止は功を奏したのか、そうでなかったのか、筆者は詳しい知見を持たない。だから、その是非を論じることも控える。

少なくとも言えるのは、成長率の格差に関して「新規感染者数に拘泥せず、経済を走らせた欧米」と「それに一喜一憂し続けた日本」の差異が出たということだ。

例えば、2021年第3四半期(7〜9月)のユーロ圏は、フランスやスペインなど大国がデルタ変異株の感染拡大に見舞われたにもかかわらず、前期比年率プラス9.1%(前期比+2.3%)と潜在成長率の4倍以上の成長を記録した。

同時期の日本では新規感染者数の推移が毎日のように報じられ、期中のほぼすべてを緊急事態宣言のもとですごしている。

期中に積み上げた付加価値の合計であるGDPに、ユーロ圏と大きな差が出たのは当然の結果だ。

これから問われる岸田政権の真価

11月14日時点で東京都の実効再生産数(=ある期間に1人のコロナ罹患者が感染させる人数の平均値)は1を超えており、経験則にもとづいて考えれば、新規感染者数はこのあと一度底打ちしたあと、再び増加に転じることが予見される。

ここまでの日本で起きたことを参考にすると、新規感染者数の増加がメディアで取りざたされ始め、コロナ分科会が反応し、何らかの行動規制の必要性を訴え、政府もそれに応じるという展開が想定される

事態を放置したとの批判を避けるために、引き続き新規感染者数のヘッドラインが防疫政策のアクセルを踏む合図になる可能性は、残念ながら高い。

イギリスのようなロードマップがあれば、そうした一喜一憂の必要性はないはずだが、最初の感染拡大から2年を迎えようという今日に至っても、日本にそれは存在しない。

衆院選での自民党勝利を経て成立した第2次岸田政権下の日本経済は、過去3四半期と同じ轍(てつ)を踏まないで済むかどうか。ワクチンパスポートの活用や病床増強といったコロナ対策に含まれる文言に期待を寄せたいところだ。

岸田首相が言うところの「分配のための成長」を遂げることができるのか。真価は今冬に問われることになる。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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