課長・部長になれないと年収差は500万円。しかも6割が管理職になれない

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管理職と非管理職の年収差、そして非管理職の中での年収差も広がってる。

撮影:今村拓馬

「出世頭の部長職の同期と自分でボーナスが300万円も違うと知ったときは、さすがにショックでしたね」

建材メーカーに勤務する課長職の男性(48)は、気が付かないうちに広がっていた年収格差の現実について、そう話す。

産労総合研究所の計算によると、役職についていない平社員と部長級の年収差は500万円あることが分かった。また50歳代では6割が管理職につけていないというデータもある。

非管理職と管理職の年収差に留まらず、実力主義の導入によって、同じ平社員でも数百万単位で年収格差が生まれている。

コロナ禍では、非正規と正社員の格差が露呈したが、正社員の中でもじわりと格差が広まっている

同期で給料の話はタブー

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同期会で年収の話はタブーになったという(写真はイメージです)。

GettyImages

冒頭の課長職男性(48)が参加した、同期会ではこんな一コマがあったという。

「最初は家族や健康、趣味の話で盛り上がるのですが、最後は職場の話になり、どうしても気になるのがボーナスや給与の話です」

そこで部長職のボーナスが、300万円高いことが分かったという。

「他の参加者もショックを受けたようで、一瞬その場が気まずい雰囲気に。以来、給与の話をするのはタブーになりました」

年功序列型の賃金から成果主義に移行し、同期の間でも給与格差が拡大。誰がどれだけもらっているかわからないことを示すエピソードだ。

「平均年収」に隠れた収入差

上場企業が毎年提出する有価証券報告書には社員の平均年収と平均年齢が記載されている。

ただし、例えば平均年収650万円(43歳)とあっても、実際の年収とは大きく異なる。

ゲーム機メーカーの人事課長は「平均年収というのは何の意味もない」と言う。

40歳の同期入社の年収分布を調べると、最低が400万円、最高が1500万円。600万円以下が3分の1、600~800万円が3分の1、残りは800万円以上と完全にばらけています。そもそも平均年収を出すこと自体に何の意味もなくなっています」

このゲーム機メーカーは10年前に年功賃金を排した賃金制度改革を実施。

年齢に関係のない実力主義による昇進と、人事評価が低いと降格ありの制度を設けてから、徐々に同期の間の給与格差が拡大したという。

ちなみに最も年収が低かった400万円は役職を持たない平社員、最も年収が高かった1500万円は部長職という。

大企業ではさらに年収格差

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「2020年賃金構造統計調査」をもとに産労総合研究所が計算した。

産労総合研究所『賃金事情』2021年11月5日号を基に編集部作成

同期入社の年収差が広がっているのは、何もこのメーカーだけの話ではない。

日本企業全体でみても、平社員と管理職の格差は大きい。

厚生労働省の2020年の「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)をもとに産労総合研究所が計算した非役職者の平均年間賃金は約413万円(40.7歳)、課長級は約788万円(48.6歳)、部長級は約920万円(52.8歳)。平社員と部長級で500万円の格差がある。

実力主義が比較的進んでいる大企業(従業員1000人以上、大学卒)の場合はどうか。

非役職者が約512万円、課長級が約1013万円、部長級が約1245万円。平社員と部長級の格差は733万円もある。

非管理職と管理職では大きな年収差があることが分かったが、だからと言って誰もが管理職に昇進できるとは限らない。

大企業の50~54歳を比較してみると、非役職者の年間賃金は約548万円、課長級1013万円、部長級約1251万円。

つまり同期入社・同年齢でも、課長や部長になれない場合は、年収の倍以上の700万円の格差が生まれてしまう。

これだけ開けば、同期会で給与の話題がタブーになるのは当然かもしれない。いや、平社員にとっては同期会にすら参加したくないと思う人がいても不思議ではない。

ただし、その平社員の間ですらも格差が徐々に拡大している。

「成果主義」で広がった格差

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REUTERS/Kevin Coombs

大手精密機器メーカーの人事部長はこう指摘する。

「年功賃金時代の30代後半の非管理職の平均年収が800万円とすれば、プラスマイナス4%程度の格差でした。

しかし、一部成果主義を導入して以降、3年後には4倍の16%程度に広がり、年収差にして下の670万円から上は930万円程度にまで差が開いています

30代の非管理職でも300万円近い格差がある上、さらに同期が課長、部長に昇進していくと格差は一層拡大する。

昇進しないと給与もあがらないが、管理職ポストも昔に比べて少なくなっている

大手不動産会社の人事課長は「リーマンショック前は課長の昇進候補者のうち7~8割が昇進していたが、最近では課長に昇進するのは2~3割程度にすぎません。落胆している人も多い」と語る。

半数以上が管理職になれない時代

実際に管理職になれる人はどのくらいいるのか。

賃金センサスでは、課長級は「2係以上からなり、または、その構成員が10人以上の長」、部長級は「2課以上、または構成員が20人以上の長」と定義している。

管理職が最も多いと思われる50歳代(男性、大学卒)の調査では、同世代の部長級比率は18.2%、課長級比率は21.7%。合計39.9%と4割にとどまっている。

つまり会社人生で管理職になれる人は4割だが、管理職になれない人たち(係長級も含む)が6割もいることになる。

前出の不動産会社の人事課長が言うように、同期でも7~8割が最低でも課長になれる時代があった。しかし今では課長にもなれない人が多数派になっている。

新卒入社の大学卒総合職は「将来の幹部候補」という位置づけだが、実際は有名無実の状態と言える。

しかも管理職にならなければ給与が上がることはなく、非管理職の給与格差も年々拡大していく。

なのに8割が「管理職になりたくない」

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出典:マンパワーグループによる調査

役職の有無が格差につながっているものの、こうした状況にもかかわらず、実は管理職になりたくないという人が少なくない。

マンパワーグループの調査(2020年3月10日、男女400人回答)によると、役職に就いていない正社員に「今後管理職になりたいか」を聞いたところ「なりたくない」と回答した人が83.0%に上っている。

逆に「管理職になりたい」と回答した人の年代別では、40代が10.0%、50代が7.0%と低い。

これは、この世代はすでに管理職適齢期を過ぎており、諦めた人も多いかもしれない。

しかし、会社が期待している20代で管理職になりたい人は28.0%、30代で23.0%しかいないのは気になる。

なぜ管理職になりたくないのか。

同じ調査では、20代・30代の6割超が「責任の重い仕事をしたくない」と回答しており最も多かった。

これまで見てきたように、働く側は管理職にならない限り、給与アップは望めない現実を知る必要があるだろう。

しかし、これは企業にとっても課題でもある。

管理職を目指してモチベーション高く働く社員がいないとなれば、生産性の観点から由々しき問題だろう。

成果主義によって広まっている年収格差。成果主義のメリットを生かし、どう社員のモチベーションを高められるかが問われている。

(文・溝上憲文

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