バイトダンス創業者の張一鳴は2021年11月、同社会長職を辞任した。
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中国は大手IT企業への規制を強化しており、TikTokの運営会社バイトダンス(ByteDance)もその例外ではない。
中国政府は最近、相次いで規制を打ち出しており、それに対応して企業は中国国内での事業運営を変えざるを得なくなっている。特に影響が大きいのは、ソーシャルメディアやTikTokの中国版、抖音(douyin)といったプラットフォーム上のコンテンツの扱い方だ。
「中国政府はソーシャルメディアに対する規制をますます強化しています。10代をはじめとする若者が、メディア上のコンテンツにどれだけ触れるかを規制し、制限しようとしているのです」と市場情報会社チャイナ・ベージュ・ブック(China Beige Book)のマネージング・ディレクター、シェザード・カジ(Shehzad Qazi)は言う。
中国政府は最近、アルゴリズム機能、データの保存や管理、国民が中国国内で共有を許されるコンテンツについての規制を提案した。その一環として、2021年2月から、センシティブと見なされるトピックについては、ソーシャルメディアのクリエーターが政府の認証を受ける必要がある。
他の大手プラットフォーム同様、バイトダンスも製品やその管理体制を規制に合わせて調整してきた。
2021年8月、中国政府関連企業3社が、TikTokの運営会社である北京字節跳動科技(バイトダンス・テクノロジーズ)の株式1%を取得し、取締役1名を派遣した。バイトダンスの広報担当者によれば、中国国外のバイトダンス関連法人については、中国政府は株式を保有していないという。
2021年9月、バイトダンスは、14歳未満の子どもが抖音に触れる時間を1日40分に制限すると発表した。子どもがビデオゲームに費やす時間を減らすという政府の決定に合わせた動きだ。
第4回デジタル中国展のバイトダンス展示に集まる人々。
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脅かされるアルゴリズムの独立性
バイトダンスにとって最も影響を受けるのは、アルゴリズムを規制し、アプリユーザーがアルゴリズムによる推奨をオフにできる機能を追加することを含め、消費者の目に触れるものを管理しようとする中国政府の提案かもしれない。
一方、米下院の超党派議員グループも、ITプラットフォーム企業に、アルゴリズムが個人に合ったコンテンツを表示しない機能を提供することを義務付ける法案を検討していると、アメリカのニュースウェブサイト、アクシオス(Axios)が報じている。
ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、マーティン・コーゼンパ(Martin Chorzempa)はInsiderの取材に対し、「TikTokと抖音はアルゴリズムを基盤に成り立っています。それが成功の秘訣です」と語った。
Insiderの取材に答えた専門家によると、バイトダンスのアプリのアルゴリズムがユーザーにプッシュするコンテンツの種類についても、習近平が「ポジティブ・エネルギー」 と呼ぶようなコンテンツに焦点が当たるよう、監視が強まるかもしれない。これは漠然とした指示だが、一般的には、国とその指導者に関するポジティブなストーリーを指す。例えば、政府の政策の影響を批判するものは「ポジティブ・エネルギー」とは言えないだろうという。
コーゼンパは、バイトダンスのようにインターネット・コンテンツをホストする企業は、「中国政府が好ましくないと考えるコンテンツの削除だけにとどまらず、中国政府が好ましいと考えるコンテンツの配信と、そのコンテンツの拡散を推進するようになります」と述べる。
TikTokへの規制の影響は間接的
抖音などバイトダンスのアプリは中国政府の規制強化の影響を直接的に受けているが、中国の消費者が利用できないTikTokは、影響をほとんど受けていない。
「こうした中国の規制は、中国で中国人ユーザーに提供される製品のみに適用されます」とコーゼンパは言う。
バイトダンスは最近、経営陣の組織改編を行い、事業部門を6つに分けた。部門を1つ増やすことで、TikTokと抖音を別部門にするなど、製品別に部門を分けた。バイトダンス創業者の張一鳴(Zhang Yiming)は組織改編後まもなく、会長職を辞任した。
「TikTokは、複雑な企業です。短いコンテンツを提供する際に、文脈に応じたサービスを提供しようとしています。つまり、ブラジルのTikTokは、アメリカのTikTokとは異なるといった具合です」と元アメリカ政府職員であり、カリフォルニア大学サンディエゴ校の国際政策・戦略研究大学院のピーター・コーウェイ(Peter Cowhey)名誉学院長は語る。「ひとつの決まった枠組みを持つ、ひとつの企業ではないのです。各国固有の状況に応じて別の企業のように対応しています」
とはいえ、バイトダンスと中国政府がどれだけの影響力をTikTokに対して持っているかについては、専門家の間でも、TikTok関係者の間でも、混乱が続いている。
Insiderの取材に答えたあるアメリカTikTokの従業員によると、中国政府の規制強化が始まってから、自分たちの日常業務への影響を感じたことはないという。しかし同時に、バイトダンスが中国政府に取締役の席を与えたことや、TikTokのCEOを辞任したケビン・マイヤーの後任にアメリカ人を充てない決定をしたことから、バイトダンスの経営陣はアメリカよりも中国の圧力を気にしているようだという。
「中国政府が、取締役の派遣を含めさまざまな形で親会社に影響力を行使すれば、TikTokの経営を効果的に行うことは難しくなるでしょう」と、カリフォルニア大学のコーウェイは言う。
さらにTikTokに対するアメリカ国内の圧力も高まれば、なおさら効果的な経営は難しくなるだろう。
2021年6月にバイデン大統領は、アメリカ国内で中国の傘下でTikTokが経営されるのを禁じたトランプ前大統領の措置を取り消す大統領令に署名をしたが、専門家によると、データセキュリティに関する規制当局の圧力はなんらかの形で継続することが予想されるという。
アメリカのTikTokの公共政策責任者マイケル・ベッカーマン(Michael Beckerman)が2021年10月に議会で証言した内容によると、TikTokは中国政府に情報を共有していないという。
チャイナ・ベージュ・ブックのカジは、「多くの問題領域についてアメリカ政府がどういう対応をとるのか、私たちは注目しています。TikTokの問題はそのひとつに過ぎません。アメリカの議員たちの懸念は間違いなく高まります。アメリカ政府が早期に行動をとらなければ、議員たちは黙っていないでしょう」と述べた。
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)