売上高は過去最高を達成。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
11月17日、ミドリムシ(ユーグレナ)や廃食油からバイオジェット燃料を製造しているバイオベンチャーのユーグレナが、2021年12月期第4四半期決算説明会を開催した(決算期を9月末から12月末に変更する移行期間のため、今期は2020年10月から2021年12月までの15カ月間が決算期となる)。
第4四半期から、2021年6月末に連結子会社化した青汁大手・キューサイの売り上げが計上されたこともあり、売上高は過去最高となる233億円(前年同期から約100億円増)と大幅に拡大。キューサイの売り上げを除くユーグレナの既存事業だけを見ても、売上高は過去最高となる約170億円だった。
実質業績ベースの営業損益は約12億円の赤字。独自の財務指標とする調整後EBITDAは約10億円の黒字となった。
売上高こそ330億円と第3四半期決算で修正された値が据え置かれたものの、調整後EBITDAは6.5億円と5億円の上方修正となった。調整後EBITDAの黒字幅の見通しが第4四半期よりも減少しているのは、第5Qで来期の成長に向けた投資を進めていくためだとしている。
ミドリムシ一本槍戦法からの脱却が鮮明
キューサイの売上高が計上されたことで、グループ全体としては大幅な増収となっている。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
今回のユーグレナの決算で大きなポイントは、ユーグレナの既存事業だけを見ても「過去最高」となる売上高を更新したことだ。
「キューサイを除いたユーグレナグループでは、2018年から売り上げが減少に転じていました。これはミドリムシ一本槍戦略で、その調子が悪くなると全体の調子が悪くなったり、通販業界のデジタルへのシフトが必要になったところだったり、さまざまな環境的要因があったためです。
その中で2021年12月期の4クオーター累計においては過去最高売上を実現しておりますが、重要な点はその結果よりも『プロセス』にあると考えております」(永田暁彦CEO)
ユーグレナは、2018年をピークに売り上げが減少していく中で、2019年からヘルスケア事業の戦略転換を図ってきた。
主力となるミドリムシを使った食品以外にも、スキンケア商品の拡充や、若年層向けの商品など、異なるコンセプトの商品を自社開発、あるいはM&Aによって確保することでブランドポートフォリオを構成し、戦略的に広告投資を集めることで高い成長率を維持。
さらにオフラインの通販による販売が多数を占めていた状況からデジタルマーケティングを進め、スーパーやドラッグストアなどの物流チャネルによる販売網の拡充も図ってきた。
定期購入者数も過去最高を記録。オンライン売上高比率も50%を突破した。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
今回、ユーグレナ単独でも「過去最高」の売上高を達成したことは、こういった戦略を積み重ねてきた結果だとしている。
実際、ヘルスケア事業の売上推移は四半期ベースで見ても、2021年6月〜9月期が過去最高だ。
2018年には10%程度だったオンライン売上比率も、直近の四半期(2021年6月〜9月)では50%に改善。物流チャンネルによる売上高も同じ期間で約5億円と着実に成長している様子が見て取れる。
また、永田CEOは、キューサイの加入によるユーグレナグループ全体の売り上げが大きく成長している点も大きなポイントだとしている。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
決算発表では、キューサイの売り上げが計上されているのは第4四半期分のみ。それだけでも約62億円の売り上げが積み上げられていることから、グループ全体の売り上げ(約233億円)におけるキューサイの影響力がよく分かる。
永田CEOは
「連結売上高400億円規模の事業体に、さらに成長していくというところが大きなトピックスになると思います」
と来期以降へ展望を語った。
また、永田CEOによると、現在キューサイも、2018年頃のユーグレナが抱えていた課題と非常によく似た課題を抱える状態だと指摘する。
「戦略を立て、実行し、結果を出すということをユーグレナのこの3年間の結果としてお伝えしました。今度はそれを、キューサイに対して実行していくことで『再現性』もお伝えしたいとい思います」(永田CEO)
バイオ燃料事業「商業プラント建設の一歩目がスタート」
バイオ燃料の「商業プラント」について予備的基本設計を開始した。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
決算説明会では、ユーグレナがかねてより研究開発を続けてきた、ミドリムシと廃食油などから作られるバイオ燃料事業の進捗も報告された。
ユーグレナは2021年6月に、神奈川県横浜市鶴見区にある同社の実証プラントで製造された持続可能な航空燃料(SAF)であるバイオジェット燃料を使って、初めて航空機のフライトを実現した。2025年に現在の実証プラントに比べて大規模な「商業プラント」を完成させることを目指していた。
今回の決算では、2025年に完成を予定しているバイオジェット燃料商業プラントの建設場所などの交渉パートナーが絞られ、予備的基本設計を開始したことが発表された。
「我々の本丸である商業プラント、これを進める第一歩目がついにスタートしました」(永田CEO)
建設予定地は公表されなかったものの、国内外の既存の製油所に隣接した形で、現状2カ所が候補地としてあがっており、そのどちらの製油所にも適用できるような予備的基本設計を進めている段階だとしている。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
また、この発表に伴い、2025年に想定されるバイオ燃料の製造規模もこれまでの「25万キロリットル」から「25万キロリットル以上」と修正された。
永田CEOは、Business Insider Japanの取材に対して
「2025年の製造規模をこれまで25万キロリットルと表現していた理由は、1リットルのコストを石油以下にするための基準でした。商業プラントのパートナー企業と協議する中で、その規模を超えることはほぼ確定したため、今回25万キロリットル以上という表現に変更しました。具体的な製造キャパシティについては、詳細を開示できるタイミングで開示さていただきます」
と理由を語る。また、すでに25万キロリットル分の原料調達の基本合意なども済ませており「2025年に商業化をスタートさせるということについては、蓋然性が高いと思っています」(永田CEO)としている。
世界的に見ると、国際航空運送協会(IATA)やWEFが主導するイニシアティブ(Clean Skies for Tomorrow)が、2050年や2030年までに二酸化炭素排出量を削減する目標やSAFを利用推進していく方針を表明している。自動車と違い現状で電動化が難しい航空機において、液体燃料は必須。SAFの需要が今後さらに高まっていくことは間違いない。
最大手のSAF供給企業であるフィンランドのNeste社は、2023年に年間のSAF供給量を450万トンに拡大する計画を発表しており、ユーグレナ生産規模とはかなり開きがある。とはいえ、航空機が世界を移動する乗り物であるという性質を考えると、地球規模でさまざまな地域に供給プレーヤーが存在することがことが重要だ。
「アジア圏で大型のバイオジェット燃料工場の建設段階にまで入っているプレーヤーは、非常に限られています。ユーグレナは日本の中で最もリードした事業者として、これを推進してまいります」(永田CEO)
唯一の不安は?
インドネシアで進めていた海外実証の計画見直しが、唯一の大きなネガティブ要素と言えそうだ。
出典:ユーグレナ2021年12月期第4四半期決算説明資料より
既存事業はもちろん、先端投資領域であるバイオ燃料事業の商業化に向けた出口も見えてきた。一見、順風満帆に見えるユーグレナの決算だが、ネガティブな要素もある。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同プロジェクトとして採用され、インドネシアで進める計画だった「ユーグレナ大規模培養実証プロジェクト」が、新型コロナウイルスの流行や、現地協力企業の事情などの影響で見直さざるをえなくなっているという。
NEDO事業は期間が限られていることもあり、ひとまずインドネシアでの実証研究の予定を変更し、国内で実証可能な研究計画を作り直しているという。
「結果的に、ミドリムシ由来のバイオジェット燃料の商業科が遅れ得る可能性が出たという点がネガティブな要素です」(永田CEO)
ユーグレナのバイオジェット燃料は、廃食油やミドリムシから得られた油を原料に製造されている。ただし、現状はミドリムシから抽出した油を使うよりも、廃食油などを回収した方がコストが低く抑えられている。
そのため、永田CEOも以前、Business Insider Japanの取材に対して、「廃食油の価格とユーグレナ由来の油の価格がゴールデンクロスするまでは、僕はユーグレナ(ミドリムシ)をバイオ燃料の原料として使う気はありません」と明言していた。
ユーグレナとしては、SAFの需要拡大によって廃食油などのコストが上昇したときの競争力としてユーグレナの研究開発を進めているからだ。
永田CEOはその点から、
「数年の遅れ自体は、大きな商業化には影響はないと断言できると考えています。
1年、2年という遅れが出る可能性はありますが、2030年頃をイメージしている既存の廃食油などのコストが上がってくる時期には間違いなく間に合わせるように研究を継続して、海外での実績も積んで参りたいと思います」
と語った。
ただ、廃食油などの価格上昇の時期は予想しづらい。
この先の実証試験もすべてが順調に進むとは限らないことを考えると、できる限り早い段階で確固たる競争力を確立しておくことが、次のステップに進んだユーグレナにとって重要であることは間違いないだろう。
(文・三ツ村崇志)