自動車メーカーは電池の製造や業務提携に数十億円を投資している。
Aly Song/Reuters
自動車メーカーは、パンデミックからの経済回復を遅らせている半導体不足が1日も早く解消することを願っているが、サプライチェーンに関する新たな問題が浮上しそうだ。今後数年にわたり、電気自動車(EV)の生産台数が増加すると、車載用電池が足りなくなるおそれがある。
電池の供給は限られているため、すでに一部のEVの生産に遅れが出ている。米テスラ(Tesla)のイーロン・マスク(Elon Musk)CEOは、電池の供給能力が同社の売上拡大の妨げになっていると述べ、米フォード(Ford)のジム・ファーリー(Jim Farley)CEOも10月、SUVモデルのEV「マスタング・マッハE」の生産において、電池の供給が大きな制約要因になっていると述べた。
自動車業界は今後EVの生産を急速に増やす計画があることから、問題は広がりを見せるかもしれない。
英調査会社のウッドマッケンジー(Wood Mackenzie)の道路輸送部門長であるラム・チャンドラセカラン(Ram Chandrasekaran)は、「半導体不足から学んだことがあるとすれば、自動車産業のサプライチェーンは非常に大きなリスクをはらんでいるということです。電池不足も、ほぼ同じような道をたどるでしょう」と話す。
問題の根本は、多くのEV用電池に使われるニッケルやコバルトなどの主要な原材料が不足する可能性があることだ。
ニッケルやコバルトを使用しない電池を開発している米スタートアップのアワ・ネクスト・エナジー(Our Next Energy)で創業者兼CEOを務めるムジーブ・イジャズ(Mujeeb Ijaz)によると、EVが世界の自動車販売台数の1%を占めた時点で、コバルトの需要は2倍に増えた。
「コバルトの供給問題が表面化しています。生産に影響を及ぼすでしょう」とイジャズは話す。
ドイツに拠点を置く自動車研究センター(Center for Automotive Research)は、電池不足により、2025年から2028年にかけて世界の自動車生産台数は毎年4%程度の減少を余儀なくされ、2026年にはピークの5%減産すると予測している。これは、同センターが2021年の半導体不足によって生じると予測している7%の産出量ギャップをわずかに下回る値だ。
だが、十分な量の電池を確保できない自動車メーカーが直面するのは、売上の減少だけにとどまらない。欧州連合(EU)は自動車メーカーに対し、2025年以降、販売する新車の二酸化炭素排出量を2021年度比で15%削減するか、競合する自動車メーカーからクレジット(排出枠)を購入して不足分を補わなければ罰金を科すとしている。
電池不足での勝ち組企業
米調査会社のラックスリサーチ(Lux Research)で運輸分野を担当するリサーチディレクターのクリストファー・ロビンソン(Christopher Robinson)は、電池不足の影響は半導体危機ほど広範囲には及ばないと見る。
「半導体不足では、すべての自動車メーカーが大なり小なり影響を受けたと思いますが、今回の事態にはしっかり備えていた企業があります」とロビンソンは話す。
どこよりも周到に準備をしていたのはテスラだと、ロビンソンとチャンドラセカランは口を揃える。EVメーカーであるテスラは、電池供給の確保に積極的に取り組んできた。2016年にはパナソニックと共同で電池工場を立ち上げ、現在はサプライヤーへの依存度を下げるために電池の内製化にも取り組んでいる。
チャンドラセカランはテスラについて、「電池の供給という点では、確実に優位に立っています。現時点では、どの自動車メーカーよりも電池のサプライチェーンをうまくマネジメントしています」と話す。
他の自動車メーカーもテスラに追随する姿勢を見せている。ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フォルクスワーゲン(Volkswagen)などは、数十億ドルを投じて電池工場を建設したり、電池メーカーと合弁会社を設立したり、新たな材料を用いて次世代電池を開発しているスタートアップのクアンタムスケープ(QuantumScape)やソリッドパワー(Solid Power)などに投資したりしている。
GMのCEOであるメアリー・バーラ(Mary Barra)は10月、次のように述べている。
「私たちの目標はサプライチェーンのリスクを排除し、EVの生産量を急速に拡大するなかで、自らの運命をコントロールすることです」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)
[原文:An electric vehicle battery shortage is shaping up to be the auto industry's next chip crisis]