フェイスブックは「メタ(Meta)」に社名変更、デジタル仮想空間「メタバース(Metaverse)」の構築に本腰を入れる方針を打ち出した。画像は10月28日、同社のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が公開した説明動画のワンシーン。
Facebook/Handout via REUTERS
フェイスブックはじめ多くの企業が構築を目指すデジタル仮想空間「メタバース(Metaverse)」は、何兆ドルもの消費を生み出す可能性を秘めている。
にもかかわらず、「ソーシャルメディアの巨人」フェイスブックがこの成長途上のテクノロジーに軸足を置くことを疑問視する声が、大きな実績のあるアナリストグループからあがっている。
米金融大手モルガン・スタンレーのブライアン・ノヴァクらは最新の調査レポートにこう書いている。
「私たちは、メタバースが何億人もの消費者のどんな問題を解決してくれるのか、あえて問う必要があると考えています」
デジタルメディアやEコマース市場は「かつてないほどに安定し、使い勝手も向上した」ため、予見可能な将来において消費者が一斉にメタバースに乗り出す理由はほとんどないと、上記のレポートは指摘する。
メタバースが本格的に使われるようになるには、少なくとも現在の10倍以上の改善が必要というのがモルガン・スタンレーの見方だ。
「ここ数年、私たちはさまざまの新しいサービス(5G、クラウドゲーム、会話型コマースなど)について調査を進めてきましたが、いずれもこれまでのところ(現在の少なくとも10倍という)高いハードルをクリアして十分なサービスを提供できていません。
しかも、メタバースはそれらより付加価値の高いものでなくては(既存のサービスから乗り換えて)使われるようにはなりません」
さらにプライバシーの問題もある。
個人情報がどのように使われているのか、悪用されていないのか、完全に立証されたわけではないにもかかわらず、ソーシャルメディアのユーザーは特段不安を感じていないようにみえる。
しかし、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が10年後には10億人の人々が同社の提供するメタバースを利用するようになると語っていることから、プライバシーの問題はより深刻になるとモルガン・スタンレーは懸念する。
「何億人もの人々が、いま誰と何をしているのかについて、より詳細な情報をデジタル仮想空間でシェアするような将来がやってくるのか、正直なところ私たちにはわかりません。
もちろん可能性はあるのでしょうが、本当にそうなるとしたら、そこで何か得られるものがあるからということになります。
そしてその場合でも、生身の人と人の交流がいまよりさらに減ることによる社会的あるいは心理的な影響について、想定されるネガティブな報道や現実を上回る果実を得られるのでなくてはならないでしょう」
フェイスブックは最近、メタバースを体現するツールとも言えるバーチャル会議室「ホライズン・ワークルームス(Horizon Workrooms)」をはじめ、法人向けプロダクトの展開に力を入れているが、そこで勝利を得るのは難しいというのがモルガン・スタンレーの見立てだ。
先述の調査レポートのなかでアナリストチームは、フェイスブックの個人情報取り扱いに関する懸念や、法人向けツール開発の実績が薄いことへの不信感から企業がフェイスブックへのデータ提供・委託を拒否する可能性に言及している。
「クリアすべきハードルは多く、しかも高い」
ただし、メタバースがひとたび現実となれば、そのプラットフォームに関わる人々がそこで使うお金は膨大なものになるはずだ。
どんなメタバースにせよ、最初の数年間はインターネットと同じようにEコマースと広告を中心に経済圏がつくられ、アメリカだけで8兆ドル(約880兆円)規模の消費が生みだされるとモルガン・スタンレーは予測する。
アメリカの消費者がデジタルメディアに費やす時間は年間110億日(2640時間)、テレビは年間140億日(3360億時間)にも相当し、それがすべてメタバースに流れ込む可能性がある。
とはいえ、ウォール街の他のアナリストらが論じるように、もしそんな時代が来るとしてもそれは何年も先の話だ。
さらに言えば、メタバースのプラットフォームが広く受け入れられ、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)のようなデジタルアセットが物理的な資産にとって代わるような時代はもっと遠い先に違いない。
モルガン・スタンレーのアナリストチームはこう結論している。
「メタバースが急速に広がったり、すんなり受け入れられたりする展開は考えられない」
(翻訳・編集:川村力)