提供:HARUMI FLAG
東京・銀座からもほど近く、都市の中心部に位置する「HARUMI FLAG」。約13ヘクタールの広大な敷地に、分譲・賃貸住宅と商業施設を含め24棟が建つ国内でも最大規模の都市開発プロジェクトだ。
目指すのは、環境・交通・ダイバシティーの最先端都市。世界で活躍する25人の建築家が結集し、新しい街を形作ったことでも注目を集めている。
「ポーラ美術館」や「福田美術館」、「東急大岡山駅上東急病院」を手掛け、環境配慮型プロジェクトで高い評価を得ている建築家の安田幸一氏もその一人だ。同氏はHARUMI FLAGにどのような可能性を見出したのか。そして、その思想はデザインやコンセプトにどう反映されたのか。自らが込めた想いを聞いた。
欧米の街区のように、全体を「街」として捉える
美術館、水族館、ホテル、オフィスビルなどを中心に手掛ける安田氏。数々の受賞歴を持つ日本を代表する建築家の一人だ。
そんな安田氏にとって、集合住宅を手掛けたのは今回が始めての経験だった。求められたのは「日本にない新しい感覚」だったという。
「日本では『集合住宅』というと1棟をイメージしますが、欧米の都市は街区で区切られていて、まとまった街区全体を集合住宅と捉えている印象があります。
これまで、アメリカ留学やオーストリア、ドイツなどヨーロッパの各国を訪問してきた経験から、日本のようにマンション1棟だけを集合住宅と呼ぶことに違和感を感じていました。 3つの分譲街区と1つの賃貸街区があり、それらが集まり一つの大きな街を形成しているHARUMI FLAGは、欧米の街づくりの発想に近いと感じます。新しい街づくりへの可能性を感じて参加を決めました」(安田氏)
安田幸一氏。安田アトリエ主宰・東京工業大学教授。主な作品に、ポーラ美術館、東京急行大岡山駅上東急病院、ポーラ銀座ビル、大分マリーンパレス水族館うみたまご「あそびーち」、最近では福田美術館、MUNI KYOTOなど。HARUMI FLAGでは南面が水辺に面したPARK VILLAGE/E・F棟の外装デザインを担当。
複数の集合住宅が集まり構成されている欧米の街区。新しく建設したり、建物をリノベーションしたりする際には、担当する建築家が周囲と調和の取れたデザインを模索するという。しかし、それぞれの建築物を同時に作っているわけではないので、実際に建築家同士が話し合うわけではない。刻を超えて切磋琢磨し、寄り添い合ってこそ生まれる調和とも言えるだろう。
安田氏は「そういった阿吽の呼吸が、街全体の雰囲気を生み出しています」と話す。その意味では、世界で活躍する25人の建築家が幾度となく議論を重ね、それぞれの個性を活かしつつ街としての統一感を実現したHARUMI FLAGと通じるところがある。構想過程では、1/200スケールの模型を持ち寄り、全体ミーティングを幾度となく重ねたという。
「複数の建築家とプロジェクトを進めることは少ないので、とてもエキサイティングな体験でした。言葉だけで説明するのではなく、実際の模型を中心にイメージを膨らませて議論。暗黙の了解の中で調和が生まれ、統一感のある街へと仕上がっていきました。
難しかったのは、その調和と統一感の中に『個性』を取り入れること。将来住む人に一棟一棟、一戸一戸に愛着を持ってもらうためには、その個性が重要です。全員で調和と個性の好バランスを探りながら構築していきました」(安田氏)
24時間365日、表情が変わり続ける住まいとは
PARK VILLAGE/E・F棟の外観CG。
提供:HARUMI FLAG
個性的で愛着が生まれるデザイン──。そのために安田氏は、どういった想いをファサードのデザインに込めたのだろうか。徹底的にこだわったのは暮らす人の目線と感情だ。同氏が手掛けたPARK VILLAGE/E・F棟は、南面が水辺に開けたウォーターフロントに位置する。この立地が大きなカギとなった。
「私の担当は外観ですが、住む人が住宅内から外をどう見るかも強く意識しました。 PARK VILLAGE/E・F棟は、南面が海側に開けています。遮るものがなく、レインボーブリッジが間近に望める非常に眺望が良いロケーションです。そこで、バルコニーの隣の住居との堺にある袖壁をレインボーブリッジの方向を向くよう斜めに配置し、部屋から見える風景を強調しました」(安田氏)
斜めなのは袖壁だけではない。通常ならストレートな軒天も斜めになっている。その理由を安田氏は以下のように説明した。
「HARUMI FLAGの話をいただく直前、仕事でパリに行っていたんです。パリの集合住宅では、1階がショップで2階以上が住居になっている構成がよく見られます。 どの建物も下から見上げたときにスッキリとしていて美しい。日本でも同じようなデザインができないかと考えて、設備や雨どいを整理して斜めの軒天を実現しました。少し角度をつけただけで自然光がより回り込み、人の目に明るい印象を与えるのです」(安田氏)
PARK VILLAGE E棟のバルコニーと眺望イメージ(※)。
提供:HARUMI FLAG
もう一つのこだわりは、手すりと外壁の素材だ。
「集合住宅のファサードでは、バルコニーの手すりと外壁が全体の印象を左右する非常に大きなファクターになります。複数の素材を組み合わせることで、それぞれの住居に個性を与えました。手すりにはガラスとアルミ縦格子を2種、合計3種類の素材を使っています。外壁はレンガタイルとアルミ、コンクリートの上に塗装したものの3種類を使い分けています」(安田氏)
斜めの袖壁と軒天、手すり、外壁の色彩。この3つのレイヤーを組み合わせることにより、ファサードには27 もの表情が出現するという。それは、壁面を編み込んだ絣(かすり)模様のようでもある。絣とは、部分的に染め分けた絣糸で織った織物。所々がかすれたように見える文様からそう呼ばれている。
「ファサード全体でみれば、和の織物である絣をモチーフにしながら縦糸と横糸の織り成す繊細な表情を表現しました。 さまざまな素材や色、立体が交じることでその場所によりオリジナリティが生まれ、外から見たときに自分の部屋を特定しやすくなる。そしてそれが愛着にもつながります」(安田氏)
多彩な素材や色、立体感はさらなる特別な演出をファサードに与えてくれる。それは無味乾燥ではない、周囲の自然や時間と一緒に趣を変えていく有機体のような「表情」だ。
「南面が水辺に開けたPARK VILLAGE/E・F棟は、東から上り西へと沈む太陽の光が常にあたっています。時間や季節によってファサードには影の濃淡がグラデーション的に現れ、朝、昼、夕方と多彩な顔を見せてくれます。特に、今回提案した斜めの袖壁や軒天は、微妙な影の変化をもたらします。 結局、建築とは環境あってのもの。時間や季節、天候によって表情が変化し続けるファサードを意識しました」(安田氏)
世代や趣向をミックスすることで、街は発展していく
PARK VILLAGE F棟 SORA TERRACE。
提供:HARUMI FLAG
「世界的にみても、古くから人間は海や川の近くで暮らしたいという欲求がある」と安田氏は語る。俗に言う、リバーサイドやウォーターフロントだ。晴海は、まさにその条件を満たす場所だと考えている。
「都心部で銀座にも近く、ポテンシャルとしては最高の土地。新しい生活を見出し、未来を夢見る人たちが集まれば、HARUMI FLAGは非常にいい街になるはずです。
東京の開発は、都心部から西へと進んでいきました。高度成長期の住宅難解消のための多摩ニュータウンが良い例でしょう。西側は高齢化が進んでいて、最近は東側の開発が活発になってきています。その最先端がHARUMI FLAG。この街によって集合住宅の概念が変わるかもしれません」(安田氏)
東京ドーム約4個分の広大な敷地を誇るHARUMI FLAG。将来的には総戸数5632戸、約1万2000人が暮らすことになる。 次世代の交通手段の一つBRT(バス・ラピッド・トランジット)も乗り入れるマルチモビリティステーションや、水素エネルギーをはじめとする最先端のエネルギー供給システムを備え、公園、小学校や保育施設、介護住宅などを整備。多様なライフスタイルを受け入れる新たな街だ。その街の未来に安田氏が期待することは何か、最後に尋ねてみた。
「ジェネレーションや趣味嗜好など、さまざまな人やことがミックスした街になって欲しいですね。同世代で生活スタイルが似通っていて、同じような方向を向いた人が集まった街は住んでいて楽かもしれません。 しかし、そのような街は10年、20年ほどしか続かないでしょう。長いスパンで街が持続的に発展するには、多様性を享受する必要があります。HARUMI FLAGが日本のこれからの象徴となるような長寿命都市の好例になればいいと思っています」(安田氏)
HARUMI FLAGについて、詳しくはこちら。
※晴海客船ターミナルの解体工事が2022年7月から2023年7月まで実施予定です。解体工事完了後、客船の受入に必要な機能を備えた代替施設(低層の延床面積3,800㎡程度)の新築工事が実施予定となっています。
※工事スケジュールや建物の規模等は今後変更となる場合があります。また、代替施設の建設に伴い、工事期間中において工事車両出入り、工事などにより騒音が発生することが予想されるほか、建物完成後は本物件の日照、眺望に影響を及ぼす可能性があります。
※代替施設の客船受入機能は、東京国際クルーズターミナルの第2バース完成後に廃止され、跡地は公園として整備される計画になっています。
※東京国際クルーズターミナルの第2バースの整備時期、代替施設の廃止時期、公園整備時期等については未定です。