※この記事は2021年12月6日初出です。
グロース投資(訳注:成長性が市場平均よりも高いと期待される銘柄に投資する手法)は、過去30年間でバリュー株投資を支配してきた。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の最新の報告書によると、56兆2000億ドル(約6460兆円)にのぼる世界の株式市場の純資産はわずか1.5%の企業によって生み出されたという。
「金融業界は、破壊的技術を持つごく少数の企業のリターンによって支配されています」と言うのは、同行の世界テーマ別投資調査の責任者、ハイム・イスラエル(Haim Israel)が率いるチームのメンバーだ。さらにこう続ける。
「予想をはるかに上回る速度で到来しうる技術を知り、どれが破壊的技術になるかを見極める。これが金融業界にとっては重要です。
これらのテーマがビジネスを一変させるペースは非常に速いです。ドットコムバブルの前にインターネットに投資したと想像してみてください」
バンク・オブ・アメリカは、6G、メタバース、不老不死の研究など、投資対象として潜在的に有望な技術「ムーンショット(moonshots)」の14分野を挙げた。研究者らの試算によると、これらの技術の価値は現在の3300億ドル(約38兆円)から2030年までに18倍の6兆ドル(約690兆円)に達する可能性があるという。イスラエルのチームは次のように述べる。
「ムーンショットは、人々の生活を一変させ、世界的なメガトレンドの影響を加速させる可能性のある革新的な技術です。これらの技術は私たちが考えているほど遠い未来の話ではありません。
未来の技術をいま見極めることができなければ、次にやってくる大変革に乗り遅れることになります」
本稿では、バンク・オブ・アメリカが挙げた14の次世代技術を、コンピュータ技術、人体技術、コンシューマーテック、グリーン技術の4つのテーマに分けて紹介する。
コンピュータ技術
6Gは次世代の通信ネットワークであり、5Gよりもさらに高速で、最大1TB/秒のダウンロード速度を実現する。これは、1時間の映画142本をわずか1秒でダウンロードできる速さだ。
バンク・オブ・アメリカは、この分野は2028年に大きな節目を迎えると見ている。5Gデータネットワークが最大容量に達すると予想される年だ。
「現在の世界の平均的なモバイル通信速度では、すべてのデータをインターネットからダウンロードするには約1億8100万年かかる」とイスラエルのチームは言う。5Gならばそれが83万8000年に、6Gなら1万7000年にまで短縮可能になるという。
また、今後10年間で感情認識AIが伸びるともバンク・オブ・アメリカは予測している。これは、技術によって人間の感情を読み取る能力が向上することを意味する。
世界的な調査会社である米ガートナー(Gartner)は、早ければ2022年にも、家族より個人用デバイスのほうがユーザーの感情を理解するようになると予測しており、このことは感情認識AIがますます普及していることの証左だとバンク・オブ・アメリカは指摘する。
脳コンピュータインターフェイス(Brain computer interface:BCI)も有望なムーンショットだ。BCIは、人間の脳とコンピュータをつなぎ、コミュニケーション能力や思考を高める技術だ。2021年にはヒトでの試験が始まっている。
「低侵襲性BCIの初期の臨床試験では、ALS患者がオンラインで携帯メール、ネットバンキング、ショッピング、Eメールを利用できた」とバンク・オブ・アメリカは述べる。「脳から脳へのインターフェースはすでに、人間が思考を通じて別の人の手をコントロールすることを可能にしている」
人体技術
生体工学人間を開発している企業の価値は、今後10年間で急上昇する可能性がある。2021年には失明したイスラエル人男性に対する人工角膜移植が行われたが、バンク・オブ・アメリカは、これが重大な分岐点となる可能性があると論じる。
すでに2013年の時点で、科学者らは世界初の生体工学人間「フランク」を開発している。フランクは歩行、会話、ものを見ることが可能で、200個のプロセッサーと100万個以上のセンサーがついている。
科学者らが2013年に開発した生体工学人間「フランク」。
画像提供:Joshua Roberts/Reuters
バンク・オブ・アメリカは、次の10年以降に支配的になりうる投資テーマとして不老不死を挙げている。2018年に世界保健機関が加齢を疾病に分類したことで、アンチエイジング企業が活気づいている。アナリストらはこう指摘する。
「健康関連技術やバイオテクノロジーにブレイクスルーが起きる可能性があり、アンチエイジング(抗老化)薬が『死を妨げ』、過激な延命につながる可能性もあります。2029年までに、人間は『不死身の』存在となり、永遠に生きられるようになるでしょう」
合成生物学とは、遺伝子組み換え有機体を新たな領域に応用した学問分野をいう。再設計されたこれらの有機体は今後新たに農業、エレクトロニクス、消費者ケア、医薬品製造などの分野で利用されるようになる。
「2030年までには、ほとんどの人が、合成生物学でつくられたものを食べたり、身につけたり、使ったり、あるいはそれによる治療を受けたりするようになると科学者たちは考えています。市場規模は1兆ドル(約115兆円)を超えると推定されています」とイスラエルのチームは述べ、こう続ける。
「健康は新型コロナウイルス感染拡大後の新たな経済成長の鍵となる可能性があります。生体工学人間、脳コンピュータインターフェイス、合成生物学は、私たちを『不老不死』という未知の領域へと一歩前進させるかもしれません」
コンシューマーテック
投資家はワイヤレス電力の開発にも目を向ける必要がある、とバンク・オブ・アメリカは言う。ワイヤレス電力とは、ケーブルを使用せずにデバイスを充電することを意味する。
バンク・オブ・アメリカはこのテーマを5Gの立ち上げと最終的な6Gの開発に結びつけて考えている。2021年、アリン・イード(Aline Eid)率いる研究者グループは、5Gから得られるエネルギーが最終的に「ワイヤレス電力網」を構築できる可能性があると論じた。
また、ホログラムは究極的には6Gにも関係してくる。スマートフォンにホログラムを表示するにはネットワーク速度が必要になるからだ。
スウェーデンのポップグループ、ABBAのホログラムツアーと、ロンドンで世界初となるホログラムのピッツェリアがオープンすれば、この技術が広く採用される画期的な瞬間になるだろうとバンク・オブ・アメリカは見ている。
メタバースは、人々が仮想現実を使って相互に交流できる、インターネットの未来の3D版だ。エンターテインメントや高級レストランの世界でも同様の応用例がある。
「アリアナ・グランデ、マシュメロ、トラヴィス・スコットがオンラインゲーム『フォートナイト』でバーチャルコンサートを開催したことで、メタバース空間におけるコンサートの未来像を示しました。2030年までには、仮想現実は完全に現実的で当たり前のものとなり、現実世界で過ごす時間よりも仮想世界で過ごす時間の方が長くなるでしょう」とイスラエルのチームは述べる。
eVTOL(電動垂直離着陸機)とも呼ばれる空飛ぶ自動車は、離陸、ホバリング、着陸に電力を使用しており、現在NASAやボーイング、中国企業数社がプロトタイプの開発に取り組んでいる。空飛ぶ自動車のコンセプトが最初に広まったきっかけは、タイムスリップをテーマにした映画、特に1989年の『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』だ。
空飛ぶ自動車は離陸、ホバリング、着陸に電力を使用する。
画像提供:Google
「eVTOLの安全性レベルは、民間航空会社のものに相当すると考えられます。壊滅的な故障が起こる確率は10億分の1です」とバンク・オブ・アメリカは述べる。
グリーンテック
「天然資源が不足し、温室効果ガスの排出量が増えれば、地球は脱炭素化や気候変動への取り組みから遠ざかるおそれがある」とイスラエルのチームは指摘する。そこで「二酸化炭素回収・貯留(CCS)、次世代バッテリー、グリーンマイニング(環境配慮型鉱業)により、排出量を70%削減し、3倍多いレアアース希土類を利用できるようになる可能性がある」という。
これらの技術により、投資機会も生まれる。バンク・オブ・アメリカの試算によると、CCSは2040年までに1兆ドル(約115兆円)相当の投資を呼び込む可能性があるという。テスラがEV(電気自動車)の高速充電技術を開発したことで、次世代バッテリーが急成長する見通しだ。
グリーンマイニングとは、レアメタル採掘業者が、海底ややせた土地などを採掘の対象にすることで、二酸化炭素排出量を削減することをいう。
投資家が注目すべきテーマとしてバンク・オブ・アメリカが最後に挙げたのは、海洋技術だ。これは、電力を供給するための海底採掘など、海洋資源の革新的な利用を指す。
バンク・オブ・アメリカによれば、世界の海洋経済は2030年までに総額約3兆ドル(約345兆円)に達する可能性があり、これは2010年のドイツ経済に匹敵する規模だという。
バンク・オブ・アメリカの報告書は次のように指摘している。
「以上14項目の技術がビジネスを変容させるペースは非常に速く、破壊的技術の史上最速の展開になる(可能性がある)」