2022年に株価がどうなってほしいかと問われたら、投資家はこう答えるだろう。
「2021年に大きなリターンがあった反動で、2022年の高いリターンの可能性が消えるという展開にならないでほしい」と。
「2021年は26%のリターンという素晴らしい年になりました。ただしそれだけでは、2022年のリターンが少ないと予想する根拠にはなりません」と顧客へのメッセージに書いたのは、ゴールドマン・サックスの米国株ストラテジストのデイビッド・コスティンだ。
ゴールドマン・サックスの米国株ストラテジスト、デイビッド・コスティン
Goldman Sachs
歴史を振り返れば、1年間で20%のリターンが見られた場合、その後は平均を上回るパフォーマンスが見られることが多いという。
2022年、S&P500は9%伸びて5100になる、とコスティンは予想している。これは配当も含めると10%のリターンとなる。実質金利が上昇していることを加味すると、長期的な平均値を少し下回るくらいだ。
想定よりも速い経済成長と低いインフレ率により、年末には5500になる可能性もあるとコスティンは言う。一方、インフレ率が上昇し経済成長が鈍化した場合は、25%減の3500になる可能性もあるという。
2021年にこれだけ株価が上昇したのはバリュエーションが高くなったこと、つまり、利益や売上が一定していることを受けて投資家たちの投資意欲が以前より増したことが要因だ、とコスティンは分析している。しかし、金利が上昇する2022年にはこのようなことは起こらないだろう、という。
「これまでの経験から、連邦準備制度理事会が引き締め政策をとっている間は、バリュエーションがこれ以上高まる見込みは低いです」とコスティンは指摘する。
その上で、2022年、市場へのアプローチとして投資家が知っておくべきポイントは主に3つあるという。
(1)循環株に投資すべき
「『経済再開』に関連する企業や、最近の材料費高騰に苦しんでいた企業などの循環株は、2022年初めに加速する経済成長の恩恵を受けます。そういった企業の株を持つようにしましょう」
コスティンが循環株の例として挙げたのは、消費財メーカー、化学メーカー、中国リスクのあるサプライチェーンを持つ企業などだ。いずれも、輸送費や石油価格の上昇が止まったことで、株価が好調だ。
「最悪期は脱したという投資家の気持ちが強まっていくことで、こうした動きは続くはずです。こうした循環株の企業への追い風が、投資判断を『オーバーウエイト』としている理由の一つです」
(2)人件費率が高い企業に注意
ここ数十年見られなかった勢いで人件費が上昇しているが、今後もこの傾向は続くだろう、とコスティンは言う。そのため、人件費の上昇が業績に影響する企業への投資は避けるべきだという。
「当社のエコノミストは人材不足を予想しており、今後数年間は4%以上のペースで人件費が上昇するだろうと予測しています」とコスティンは言う。時価総額が大きな企業は概ね問題ないが、注意すべき例外もいくつかある。
「2021年、観光やホスピタリティなど人件費が安い企業の株は、人件費の高い企業の株よりも好調な時が多かったのです。EBIT(税引前利益)と比較して、人件費率の高い企業の株はここ3カ月ほどS&P500の伸びを下回っています。2018年と2019年に人件費の上昇が3%を超えたときと同じ現象です」
(3)利益を出すグロース株
コスティンはIT株への投資判断を「オーバーウエイト」に据え置いてはいるものの、金利の上昇によって、利益を出している会社とそうでない会社の間に大きな溝が生まれるだろうと予測する。長期的には、利益を出している会社の方が見通しは明るいという。
「歴史的にこのような状況では、高い資本利益率、強いバランスシート、安定した利益成長など、『優良企業』の特徴を持つ株が好調であることが多いのです。いま収益率が高くなっている企業のグロース株はデュレーション(投資回収までの期間)が比較的短いため、金利上昇による影響が小さくなります」
このような企業は、投資家を落胆させた際の売りにも弱い、とコスティンは言う。投資家が会社の将来に大きな賭けをしているため、短期的な状況変化で期待値に大きな調整が入ることがあるからだ。
基本的な配分の考え方
コスティンは、銀行株とIT株の他にはヘルスケア株も期待できるとし、「オーバーウエイト」に変更している。ヘルスケアはオバマケア存続の判決も最高裁から下り、制度改革のリスクが薄らぐ中で挽回するはずだ、という。
「ヘルスケア株は低下するバリュエーションの影響を受けましたが、政治的リスクが緩和すれば回復してくるはずです。ヘルスケア業界は、実質金利が名目金利をけん引する環境で好調になる、珍しい分野です。そして当社のエコノミストたちは、2022年のほとんどがそういった状況になると予想しています」
一方で、自動車、自動車部品の企業については「アンダーウエイト」としている。株価が高く、今後想定される経済状況において苦戦すると思われる業界に対してはリスクを最小限にすべきとの考えからだ。
「当社のエコノミストたちは、2022年上期のアメリカのGDP成長予測を年率4.0%と高く見積もっています。ということは、投資家がディフェンシブ株(景気にあまり左右されない業界)にシフトするには時期尚早だということです。金利が上がる局面では、生活必需品、電気・ガス・水道、通信サービスなどの株は他業界と比べて低調であることが多いのです」
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)