1999年7月、米ニューヨーク証券取引署(NYSE)にて。株価はこのときの下落と急回復を経て、1年たたずにバブル崩壊を迎えることになる。2022年、またしてもこの光景はくり返されるのか。
REUTERS
さまざまな株式評価指標に目を向けてみても、これから市場がどう変わっていくのか、はっきり示してくれるものは見当たらない。
米金融大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ、Bank of America)は最近のクライアント向けレポート(11月15日付)で、20種類の市場評価指標のうち15種類が歴史的高水準にあると指摘している。
飛び抜けた数字も一部みられるが、それ以外の指標も、以下のように過去の平均値に比べて少なくとも2SD(標準偏差)以上を記録している。
- シラー株価収益率(PER):3SD
- 株価純資産倍率(PBR):2.3SD
- 事業価値(EV)/利払い前・税引き前・減価償却前利益(EBITDA)倍率:2.2SD
- 株価キャッシュフロー倍率(PCFR):2.6SD
- 事業価値(EV)/売上高倍率:2.5SD
- S&P500時価総額の対名目国内総生産(GDP)比:3.4SD
積極的な投資家たちは、企業が長期的には業績を伸ばして成長していくと読み、この超流動的な市況のもとでも株価を競り上げている。
こうした市場の展開においては、セルオフ(=大量の売りによる株価急落)でもない限り、時価総額が過去の平均的な水準に戻ることは考えられず、今後好業績が積み重なって、いずれは現在の株価が正当化されることになると彼らは考えている。
だが、サビータ・スブラマニアン率いるバンカメのストラテジストチームは、そうした展開を否定する。企業の成長に対する投資家たちの期待値は高すぎ、1990年代後半のドットコムバブル以上にふくれ上がっている、というのがスブラマニアンらの見方だ。
S&P500予想長期成長率の推移(1986年以降)。2020年以降の上昇はまさに歴史的だ。
Bank of America
歴史をふり返れば、高すぎる期待値はたいてい悲惨な結末を生み出してきた。バンカメはS&P500社の長期成長率予想と実際のリターン(利益率)の相関関係を分析し、株価が今後12カ月間で20%下落するとの予測を示している。
S&P500長期成長率予想とその後(12カ月間)のリターンの相関関係。
Bank of America
「センチメント(=市場の心理状態)指標はことごとくポジティブでも、予想長期成長率がそれらと好対照をなすケースは多いのです。
実際、2000年時点で長期成長率予想が20%以上とされていた87社のうち、その後5年間でEPS成長率(1株あたり純利益の年平均成長率)が20%を超えたのは15社しかありませんでした」(スブラマニアン)
バンカメはS&P500社の現時点での時価総額を踏まえ、今後10年間のリターンがマイナス0.5%になると予測する。
ある時点での時価総額は続く10年間の株価パフォーマンスの8割を規定する、バンカメのアナリストたちはそう考える。バンカメ予測によれば、2031年の予想S&P500種指数は4420ポイントで、4700ポイント前後で推移する現在の水準に比べると6%低下する見通しだ。
セクター別に見ると、一般消費財の長期リターンが最も振るわず、逆に最も良いパフォーマンスが期待されるのはエネルギーという。
驚異的な株価上昇はまもなく失速する
スブラマニアンは米ウォール街の主要金融機関のなかでも弱気寄りのストラテジストだ。今後12カ月間でS&P500種指数は20%低下し、2022年のサンクスギビング(感謝祭=11月第4木曜日)には3750ポイント前後まで落ち込むと予想する。
一方、米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のチーフストラテジスト(米国株式担当)デービッド・コスティンは、2022年のS&P500種指数の目標値を、8%上昇の5100ポイントと予測する。
米銀大手ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)のクリス・ハーベイは、さらにそれを上回る5300ポイントまで上昇すると予測する。
しかし、スブラマニアンの予測を支持するアナリストもいる。
米金融大手モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソンは、足もとのS&P500社の時価総額を踏まえ、2022年の株式市場は失速して「ストックピッカー(=成長銘柄を見出して投資すること)の年」になると指摘する。
ウィルソンは、アメリカのGDPと企業業績が2022年に強い成長をみせるとしつつも、S&P500種指数はベースシナリオで現在の水準を下回る4400ポイントに低下するとの見方を示している。
アメリカ経済、そしてその延長上にある株式市場では、さまざまな指標が入り混じって不確実性に満ちている。
2021年第3四半期(7〜9月)のGDP成長率(前期比年率)は市場予想の2.7%を下回る2.0%で着地した。新型コロナウイルスのデルタ変異株による感染再拡大が大きな原因としてあげられる。
また、消費者物価指数は7カ月連続で市場予想を上回り、前年同期比6.2%上昇して31年ぶりの高水準となった。米連邦準備制度理事会(FRB)は11月中にも国債など資産購入額の削減(テーパリング)に着手する。
一方、雇用者数の増加は勢いを増している。9月の非農業部門雇用者数は31万2000人(速報値では19万4000人)と伸びなかったが、10月は市場予想を大きく上回る53万1000人増を記録した。
失業率もパンデミック以前の水準に向かって減少を続けており、10月の雇用統計では4.6%となっている。
さらに個人消費の推移も堅調だ。10月の小売り売上高は6382億ドル(約70兆2000億円)で、単月の数字としては過去最高を記録した。
そうした複雑な状況を踏まえつつも、くり返しにはなるが、将来の株価パフォーマンスの決め手になるのはやはり現時点の時価総額だ。
歴史を踏まえて考える限り、企業の業績がいかに素晴らしくても、時価総額は長期的な平均に収束していく。バンカメの予測モデルはまさにその事実を指し示すものだ。
今後数カ月以内に株価が大きく下落するかしないかを現時点で予測することはできない。
とはいえ、(新型コロナ感染拡大の)2020年3月を底にして今日まで204%という驚異的な上昇を記録したS&P500種株価指数がまもなく失速するとのバンカメ予測は、理にかなっていると言える。
(翻訳・編集:川村力)