※この記事は2021年8月23日初出の記事の再掲です。
「パタゴニア 東京・渋谷」内に設けられたポップアップストア。さまざまな仕掛けが取り入れられている。「中古品を買う」「修理とお手入れ」などのメッセージが並ぶ。
撮影:横山耕太郎
パタゴニアは2021年8月20日、国内初となる中古品を専門販売するポップアップストアを約1カ月限定でオープンした(※現在は終了)。
世界的に知られる環境配慮企業であるパタゴニアでは、衣服の原材料となる布地にリサイクル原料を取り入れてきた。
またリサイクルよりもさらに環境への負荷を減らすため、新しい商品を買うのではなく、“修理しながら長く使うこと”も提唱している。今回のポップアップストアは、製品を長く使ってもらおうという企業メッセージの一環だ。
環境への配慮を前面に打ち出した、パタゴニアとして国内初の「古着専門店」を現地取材した。
「新品よりもずっといい」古着とは
ポップアップストアは、パタゴニア東京・渋谷ストアの1階部分に2021年8月20日から同9月26日までオープン。
お店に入ってまず目を引くのが、大きな文字で書かれた「新品よりもずっといい」という文字だ。他にも「必要ないものは買わないで」など、アパレル店とは思えない言葉が並ぶ。
商品のすぐ上に「必要ないモノは買わないで」というメッセージが掲げられている。
ポップアップストアは、中古品が新品の販売価格の半額程度で手に入る。
店内の約1000の商品はすべてが中古品で、一部はパタゴニアの店舗で働く従業員から買い取った商品を、修理・クリーニングの後に販売している。
商品が色ごとに配置されているも特徴的だ。
レインウェアなどだけでなく、夏用のシャツなども並ぶ。
ポップアップストアの責任者を務めるパタゴニア日本支社の佐藤拓也氏は、今回の取り組みについて
「中古品をここまでそろえられるのは直営店ならでは。修理すれば長く使えるということを、より身近に知ってもらいたい」
と話す。
持ち主が語るストーリー
スタッフから買いとった商品にはメッセージが書かれているものもある。
商品の中には、もともとその商品を使っていた持ち主のメッセージタグが付いている商品もある。
乳児向けの衣服には「息子のファーストパタゴニア。母がお気に入りで生後5カ月くらいまで、無理やりきせていました」、トレイルランニングなどで使うタイツには「ころんでも破れない、丈夫なタイツです。小柄な方におすすめです」などのメッセージも書かれていた。
店内で「修理可能」をアピール
修理を実演するスペースも。「修理は急進的な行為」という文字も。英語では「REPAIR IS A RADICAL ACT」。
撮影:横山耕太郎
店内の一角には修理コーナーが設けられ、ミシンを操作する姿もあった。
パタゴニアの直営店では、これまでも壊れた商品の修理を受け付けてきた。1988年に日本に進出したパタゴニアは、1998年には製品の修理を専門としたリペアサービスを鎌倉市に設立。
リペアサービスのスタッフは現在55人で、1年間に1万件以上の修理をしているという。
レインウェアも定価の半額程度で発売されている。「手入れをしていればずっと使える商品」という。
「『修理可能で長持ちするものを作ること』は企業の責任だと考えている。実際にリペアする姿を見てもらうことで、そもそも商品を修理してき続けられることを知ってもらいたい」(前出の佐藤氏)
「日本は遅すぎるわけではないが、遅れている」
インタビューに応じるパタゴニア日本支社長のマーティ・ポンフレー氏。取材はマスクを着用して行った。
なぜ「古着専門」のポップアップストアをオープンさせたのか?
Business Insider Japanの取材に応じた、パタゴニア日本支社長のマーティ・ポンフレー氏は次のように話した。
「アパレル産業自体、環境に良い産業であるはずはない。だからこそ、我々アパレル企業は環境への害を最小限に減らしていく責任がある。
また企業として、一人ひとりが製品を長く使うことで、環境にどれだけのインパクトを与えることができるかを伝えていく必要がある」
アメリカのパタゴニア直営店では、中古品を販売するモデルはすでに定着している。欧米と比較したとき、日本社会の環境意識についてどう感じているのか?
「(日本の取り組みは欧米などに比べ)遅すぎるわけではないが、遅れているのが現状だと思っている。国の政策や企業の取り組みについて、ヨーロッパではすでにアクションが進んでいる。ただ日本でも取り組みが加速してきていると感じる。
日本が2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの目標を設定したことは評価できる」(マーティ氏)
パップアップストア内の掲示。長く使い続けることで環境負荷が減るを訴える。
マーティ氏は2021年8月に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書について触れ、「報告書は驚くべき内容で、国や企業がアクションを取る必要性は増している」と指摘した。
IPCCの報告書によると、2019年には大気中の炭素濃度が過去200万年のどの時期よりも高くなったなどとされ、地球温暖化や海水面の上昇が深刻化しているとした。
「ストーリーはマーケティング以上の価値」
アメリカ本国でパタゴニアは、政府に対しても積極的な発言を続けていることでも注目されている。
2021年6月には、パタゴニアCEOのライアン・ゲラート氏が、バイデン大統領宛てに、「ダムや水力発電といったうわべだけの環境配慮(いわゆるグリーンウォッシュ)がはびこる時代に終止符を打つ必要があります」などとした書簡を送付したことも話題になった。
パタゴニアは日本でも、政府へ働きかけるなどの行動の必要性を感じているのか?
「私たちは(外資系企業として)ビジターという立場での役割を自覚しないといけない。アメリカの戦略をそのまま当てはめることはできない。我々は小さな一企業としてできることから始め、それが大企業などとのアライアンスにつながる可能性もある」
その上で、今回の古着専門のポップアップストアの取り組みで、日本に受け入れられるような「ストーリー」を紹介したいとマーティ氏は強調する。
「消費者の行動が、環境にどんな影響を与えることができるのか、気持ちや感情に訴えるストーリーを伝えたいと思っている。
ストーリーテリングは、マーケティング以上の意味を持っている。日本のローカルに合ったストーリーに注目することで、消費者の行動を変えていきたい。私たちの取り組みは小さなメッセージではあるが、他の企業にもインスピレーションを与えるなど大きな変化につながるうねりを生むことに期待したい」(マーティ氏)
(文・写真、横山耕太郎)