フェイスブックでは、若者を惹きつける戦略を模索中だ。
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フェイスブック(Facebook)で18歳から29歳の若者離れが起きているが、そんな若者たちを呼び戻すための戦略はある。
「従来から若者は強固な基盤ですし、彼らは未来を作り出していくという意味でも重要な存在です。しかし過去10年、当社のサービスのユーザーは、若者以外の年代が多いのです」とマーク・ザッカーバーグは、2021年10月の第3四半期決算発表に際して投資家に語った。
若者ユーザーの流出を止めるため、ザッカーバーグは、フェイスブック(現「メタ(Meta)」)の新たな「北極星」(目標)として、再び若者に焦点を当てている。
実は、10月の決算発表でザッカーバーグが若者離れについて言及する前から、フェイスブックは今後の方向性を研究・分析し、この目標への軌道修正を進めていた。これは、リークされた社内文書「フェイスブック・ペーパーズ」で明らかになったことだ。
若者を惹きつける戦略のひとつは、クリエイターたちだ。
2021年5月、フェイスブックのFAST(ファースト)UX リサーチと呼ばれるチームから従業員に共有されたプレゼン資料の中で示されたのは、若者は「著名人や新人クリエイターに惹かれるが、クリエイターやファンたちは、フェイスブックを使っていない」ということだ。
こうした著名人やクリエイターは、「フェイスブックを使う理由がない」とプレゼンは結論づけている。
「FAST×若者:カギとなる若者の洞察と機会」と題されたこのプレゼン資料は、内部告発者フランシス・ホーゲンの弁護士が、編集された形でアメリカ証券取引委員会と議会に開示した文書のひとつだ。Insiderをはじめ複数のニュース機関は、議会に提出されたこのプレゼンを入手した。
そこで本稿では、若者がどのようにフェイスブックを使い、フェイスブックに対する若者の見方にクリエイターがどんな影響を与え得るかについて、プレゼン資料に書かれていたいくつかのポイントを紹介する。
- 若者は著名人や新人クリエイターのコンテンツを求めている。したがって、「クリエイターを中心としたパートナーシップ」とユーザー向けにカスタマイズされた「包括的なコンテンツ・エコシステム」を構築することで、彼らを惹きつける機会が生まれる。この点は、2021年、フェイスブック(とインスタグラム(Instagram))がインフルエンサーやクリエイター向け収益化機能を発表したことと軌を一にするものだ。
- 「フェイスブックの巨大なユーザー基盤とリーチを開拓し、売り込む」と、スライド1枚のメモ欄に書かれている。「フェイスブック上でリール(フェイスブック上で制作・共有できる短編動画)を共有すれば、他のSFV(短編動画)プラットフォームではリーチできないような幅広い利用者に新たにリーチできることをクリエイターに理解してもらうようにする」と記されている。
- リール、テンプレート、エフェクトなど、クリエイターと若者に彼らが欲しがり、必要とするものを提供することが、彼らとの「協働」を強化し、「文化的に彼らと関連性の高い話題」への参加を促す機会を生み出す。例として挙げられるのはTikTokだ。過去1年、TikTokはポップカルチャー現象を動かし、形づくり、インスパイアし、それをバイラルなトレンドとして広げた。
- インスタグラムとフェイスブックのクロスポストは、高い付加価値を生む利用法だ。現在、クリエイターは、ストーリーやリールをインスタグラムとフェイスブックの両方に投稿できる。ストーリーとリールは、これまでも、これからもフェイスブックの成長にとって重要な機能だ。
- 若者は目的に合わせて異なったアプリを利用する。バイラルな(口コミで拡散している)ものを見るにはTikTok、興味があるものを詳しく知るには YouTubeといった具合だ。
- 若者はフェイスブック上で閲覧する内容について「関係がない」「退屈」「広告が多すぎる」と感じている。音楽、モチベーション、セルフケア、「具体的な目標」といったコンテンツのカテゴリーが、若者の興味を引く分野としてリストアップされている。こうした分野は、インフルエンサーやクリエイターが制作したコンテンツにおいても人気の高いカテゴリーだ。
以下は、リークされたプレゼン資料の中から、抜粋した5枚のスライドだ。
1. クリエイター中心の協働と「エンゲージメントの高いビデオ制作経験」の提供が重要な機会を創り出す
Frances Haugen
洞察(Insights)
若者は多種多様なアプリを使うことに慣れており、目的別にアプリを使い分けている。フェイスブックのスーパーアプリ戦略(訳注:マーケットプレイス、ゲーム、イベントなど、アプリの多機能化をすることで、ユーザーをつなぎとめる戦略)は、フェイスブックの価値を不明瞭にしかねない。
フェイスブックは著名人や新人クリエイターを重要視するが、こうしたクリエイターやファンたちは、フェイスブックを利用していない。著名人やクリエイターは、フェイスブックを利用する理由がない。
若者はビジュアル重視であり、文化的に彼らと関連性があり、気持ちを高めてくれるコンテンツをフェイスブック上で見たいと思っている。また、文化的関連性を持つトピックや写真の話題に参加することを楽しんでいる。
若者は、関心事をベースにした親密なコミュニティを求めており、フェイスブック上で彼らの興味に合ったコンテンツを見たいと思っている。フェイスブックは、ユーザーが関心を示すアプリ使用事例や分野に沿った広告を掲示できることになっている。
機会(Opportunities)
より明確な価値の提供。自社の製品に関する明確な価値と特徴を意識してデザインする。若者に自社の各々のアプリを利用する明確な理由を提供する。
クリエイター中心のパートナーシップを構築し、クリエイターのコンテンツ力を活かす。ユーザーごとに利用方法がカスタマイズできるよう、包括的なコンテンツ・エコシステムを開発する。
エンゲージメントの高い動画制作体験の提供(リール、テンプレート、エフェクト)を継続するとともに、文化的関心が高い話題について協働の機会を模索する。
関心事の領域に関わる投資を進める。そのためにコンテクストプロファイルを活用し、フィードやストーリーの間でユーザーの関心に基づいた共有ができるように統合する。クロスポストなどを分析し、関心を持たれるコンテンツに対しての理解と精度を高める。
[以下は、スライド下に書かれていたメモ]
署名機能やフェイスブック専用コンテンツを作成する。他のプラットフォームにはないものを提供。創造的なツールや機能(例:クールな新フィルターやエフェクト、より良い/より多い音楽等)。
リーチを開拓する。フェイスブック上でリールを共有すれば、他のSFVプラットフォームではリーチできないような広範な利用者に新たにリーチできることをクリエイターに理解してもらう。
2. 若者は一日中、異なったソーシャルメディアアプリを利用する。フェイスブックの位置づけは?
Frances Haugen
ソーシャルメディアアプリと共に育った若者は、目的を持ってそれらを利用している。
若者は複数のソーシャルメディアアプリを利用して日々必要なものを得ている。例えば次のように。
AM8:00:有益なポップカルチャーやニュースから最新情報を得る。友人とコミュニケーションをとるために、Twitterから重要な文化情報やジョークを入手する。
AM11:00:仕事のパフォーマンスを上げるための助言を得る。Slackを利用し、同僚からアドバイスを得る。
PM5:00:社会的活動の時間。IG Storiesを利用し、寄付やボランティア活動のできる団体や反対運動の場所を探す。
PM6:00:健康を優先。オンラインフィットネス Pelotonのフェイスブックグループをチェックしてヒントを学び、目標に向かって努力する仲間と連絡をとる。
PM8:00:関心事のための時間:最近TikTokを使い始め、ファッションやセラピーに関する興味のある動画を観る。
PM9:00:将来の計画:Redditを活用して、週に数回、将来のファイナンシャル・プランニングを行う時間を設けている。
3. TikTok はバイラルなコンテンツ向け。YouTubeは関心事の深掘り向け
Frances Haugen
若者は1つの目的に対して1つのアプリを利用し、学びと成長に最もつながるアプリを特定している。
最新の情報を得る
Twitter:ニュースやジョークといった最新情報を得るためのもの
- 想起するもの:よく知っている人
Instagram:洗練されたポップカルチャーや人物について知る
- 想起するもの:クールでおしゃれな人
TikTok:バイラルなものを知る
- 想起するもの:面白く創造的な人
人とつながる
Instagram Stories:友人が何をしているかを知る
- 想起するもの:自分と友人
Snapchat: 友人と気軽に話せる
- 想起するもの:会えない友人
Discord:興味のあることを深掘りする
- 想起するもの:新たに作った友人グループ
LinkedIn:ネットワーキング
- 想起するもの:経験豊かなプロ
学びと成長
YouTube:信頼できる人物から興味のあることを学び、深掘りする
- 想起するもの:終わりのないリソース
Reddit: 体験談から学ぶ
- 想起するもの:蜜バチの知恵
Twitch:ロールモデルや同僚から直接学ぶ
- 想起するもの:マスタークラス
4. 若者は「従来型ではない」著名人に関心。そうした著名人に投資するべき
Frances Haugen
従来型ではない著名人への投資は、文化的関連性を強めファンのコミュニティを作る機会になる。
- 若者は、従来型ではない著名人に注目している。話題になっている著名人のうち60%は、ファンの数が1000万人未満であり、非常に多様なジャンルでコンテンツを発信している。
- 最大のファン層を持つ著名人の分野は音楽。フォロワーの数ではフェイスブックはYouTubeに迫るが、双方向の交流という意味では、若者が音楽を聴くのはYouTubeだ。
- 健康・美容、キャリア・資産設計、運動、セルフケア、モチベーションといった実用あるいは関心事の分野における著名人を検討すべき。
5. クリエイターにフェイスブックを利用してもらうことが最初のステップ。インセンティブの出番である
Frances Haugen
まずはクリエイターや著名人にファイスブックを利用してもらうインセンティブを与えなければならない。
機会(Opportunities)
- 短編動画(SFV)の利用を推進するためにクリエイターや著名人とパートナーシップを組む(若者の関心と一致)。
- パートナーの影響力を高めるためにインセンティブをカスタマイズする。
- 高いクオリティのコンテンツを素早く利用できるようクリエイター中心のアプローチをとる。
例えば、新人クリエイターを発掘する、オーディエンスの拡大をサポートする、協働と参加の機会をつくる、クリエイターにインセンティブと収益化の選択肢を提供する、など。
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)