全ての商品が1ドル以下で売っていたが…
Mario Anzuoni / Reuters and Jim Young / Reuters
- アメリカの1ドルショップ「ダラー・ツリー(Dollar Tree)」は11月23日(現地時間)、その標準価格を1.25ドル(約144円)に値上げすると発表した。
- ダラー・ツリーは、1ドルの価格を守ってきた最後の大手1ドルショップだった。
- このニュースは、アメリカにおける伝統的な"1ドルショップ"の死を示唆している。
商品を1ドル以下で販売してきた最後の大手1ドルショップ・チェーン「ダラー・ツリー」は11月23日、正式にその標準価格を1.25ドルに値上げすると発表した。同社は9月から一部店舗で1ドルを上回る価格設定を試していた。
発表を受け、同社の株価は上がった。投資家は1ドルの価格に縛られることなく、売り上げが伸びると見たからだ。そしてこのニュースは、アメリカの小売業界における"1ドルショップ"の死を示唆している。
アメリカでの1ドルショップの歴史は数十年に及び、第二次世界大戦後の経済下で急激に伸び始めた。こうした店は1ドル以下で商品を売ることからスタートしたものの、大半はインフレに合わせて急速に多様化し、価格を上げた。ただ、ダラー・ツリーはそうしなかった。
店舗数でアメリカ最大の1ドルショップ・チェーン「ダラー・ゼネラル(Dollar General)」は、1955年にその1号店をオープンした。創業したJ・L・ターナー、カル・ターナー親子の狙いは、テネシー州ナッシュビルやケンタッキー州ルイビルの百貨店で一年中行われている「1ドルセール」を再現することだった。
カル・ターナー氏の息子によると、値上げまでにさほど時間はかからなかったという。今日、ダラー・ゼネラルでは大半のプライベートブランド商品と国内ブランド商品を10ドルまたは10ドル弱で提供していて、1ドルで販売している商品はごく一部だ。
同様に、商品を2ドル以下で売ることからスタートしたダラー・ツリー傘下のファミリー・ダラー(Family Dollar)も、その価格帯を1~10ドルに移行させた。
西海岸を中心に展開するチェーン「99セント・オンリー(99 Cents Only)」は、インフレが原因で2008年にその最高価格を99.99セントに上げたことで客から訴えられた。客は、店名が誤解を与えていると主張した。
こうして他のチェーン店が価格を上げる中、ダラー・ツリー(1993年に改名するまでは、もともと「オンリー1ドル(Only $1.00)」と呼ばれていた)は"約束"を守り続けた —— 投資家が新しい価格帯を加えるようプレッシャーをかけても、だ。
現在へと続く戦略上最大の変化は、ダラー・ツリーがファミリー・ダラーを買収した4年後の2019年に起きた。同社が一部の店舗で1ドルを上回る価格設定を試し始めたのだ。「ダラー・ツリー・プラス(Dollar Tree Plus)」という3ドルや5ドルの商品を扱うようになったことで、ファミリー・ダラーに似ていると感じる買い物客もいるかもしれない。
この変化のきっかけとなったのが、"物言う投資家"スターボード・バリュー(Starboard Value)が当時のCEOゲイリー・フィルビン(Gary Philbin)氏に届けた、ダラー・ツリーの1ドルという価格に対するコミットメントについて異議を唱える意見書だった。
「ダラー・ツリーは30年前の創業以来、その価格を1ドルで維持してきた」とスターボードは2019年に書いている。
「インフレによって、1986年の1ドルは今日の約2.30ドルにあたるにもかかわらず、だ」
しかし、今日のインフレ圧力と輸送費や人件費の高騰は、ダラー・ツリーが1ドルという価格を守り続けることをさらに困難にしている。コストに直結するからだ。
CEOのマイケル・ウィティンスキー(Michael Witynski)氏は11月23日の投資家向けの電話会議で、1.25ドルに値上げすることでこれらのコストを吸収することができると話した。
なお、顧客の混乱を避けるため、当面の間は1.25ドルより価格を上げることはしないとウィティンスキー氏は約束した。
[原文:The dollar store is officially dead]
(翻訳、編集:山口佳美)