国境をまたいだクロスボーダーで業界再編が進むフードデリバリー業界。
編集部
2020年にコロナ禍に突入してから最もビジネス環境の変化が大きかったものの1つがフードデリバリー業界だ。日本では出前館を含む国内勢に加え、Uber Eatsなどの海外勢が複数参入。米DoorDashも2021年6月に国内参入した。
同社はコロナ禍での需要増に合わせて米国で急成長し、Bloomberg Second Measureの調査報告によると、2021年10月時点の米国内の売上シェアは57%、2位のUber Eatsと、同Uber傘下のPostmatesを合わせた27%を大きく引き離している。
一方、11月9日には同業者でライバルである、フィンランドのヘルシンキを本社とするWolt Enterprises(Wolt)の買収も発表している。
11月9日に開催されたDoorDashとWoltの共同会見で記者からの質問に答えるWolt共同創業者兼CEOのMiki Kuusi氏。
出典:筆者キャプチャー
めまぐるしく変わるフードデリバリー戦争ともいえる状況の中、米トップシェアながら最後発の日本参入になったDoorDashは日本市場での秘策の1つを11月23日、発表した。
それが、「コンビニやスーパーとの連携」策の1つ、ローソンとの提携発表だ。宮城県内15店舗のローソンでDoorDashが利用できるようになる(後述)。
DoorDash日本法人代表兼カントリーマネージャーの山本竜馬氏への取材をもとに、同社の現在地を分析してみよう。
Wolt買収で、さらに進む「グループ再編」
山本氏へのインタビューの直前に、DoorDashによるWolt買収は発表された。
山本氏によると、現状ではまだ各国の行政当局での審査を経て承認を待っている段階であり、2022年前半といわれる買収完了のタイミングまで、「現時点では言えることがほとんどない」状況だという。
11月9日にDoorDashとWoltの2社によって開催された両社CEOによる記者説明会では、少なくとも買収完了まで両社が独立してビジネスを続ける旨が確認されている。
Woltは現在日本を含む23カ国でビジネスを展開しているが、DoorDash傘下に入っても当面は個別のブランドとして維持される可能性が高い。
このように今、フードデリバリーの世界では、地域ごとのデリバリーブランドを残す形で、企業群の再編が進んでいる。
世界のフードデリバリー市場でみると、国や地域を越えて活動しているグループとしては、
- 米DoorDashグループ(傘下ブランド:Wolt)
- 米Uber Eats(傘下ブランド:Postmates)
- 蘭Just Eat Takeaway(傘下ブランド:Grubhub)
- 独Delivery Hero(傘下ブランド:foodpanda)
の4グループに大別される。
DoorDash共同創業者兼CEOのTony Xu(トニー・スー)氏はブランド戦略に関する質問に対して「各地域でのブランドの重要性は認識している」として、Woltのブランドを強制的にDoorDashに変更することに慎重な姿勢を見せている。
DoorDash共同創業者兼CEOのTony Xu氏。
出典:筆者キャプチャー
こうした背景もあり、日本でのビジネスもまた当面はWoltとの市場の被りや食い合いを気にすることなく、拡大していく方針だと山本氏。
「(本社側での)基本方針はまだ成立していないですし、Woltのことを考慮して動くと、(オペレーションが)複雑になります。Uber Eatsや出前館の方が圧倒的に規模が大きいという現状もあり、仮に両社が将来的に一緒になるとしても、それまでになるべく大きくなっていた方が良いという見解です。
組織的には、DoorDashとWoltは、買収が完了するまで独立した会社として運営されます。将来の事業体の組織や法的な構造については決定していません。
今後1年という視点でいえば、仙台と同規模かそれ以上の都市でのローンチが行われます。一気に広がったという印象を受けるかもしれません」(山本氏)
地方拡大戦略の真意
DoorDash日本法人代表兼カントリーマネージャーの山本竜馬氏。
出典:筆者キャプチャー
DoorDashの日本進出では、東京や大阪といった大都市圏を狙わず、あえて地方の比較的大きな都市や、大都市の周辺エリアを狙っている。これは、「ほぼほぼ競合がいない」(山本氏)ためだ。
「過去半年の歩みとして、東京や大阪みたいにお客が多くて競合も激しいところは避け、人口の多い都市とそうでない都市の両方をテストケースにサービスを提供してきました。
結果として、宮城県と埼玉県はかなりのエリアをカバーできました。11月中には北海道で札幌市でのローンチ(開始)を予定しており、日本法人として地域展開をさらに強化していきます。」(山本氏)
国内でサービス開始後5カ月の現状について、山本氏は、インタビューに次のように率直に答えている。
「正直いうと、会社として派手なプロモーションやマーケティングをまったく展開しておらず、現状で一般利用者の認知度はほとんどない状態といっていいでしょう。これまでの展開は実験やテストケースの意味合いが強く、我々のオペレーションを重ねて、テストを続けることに軸足を置いてきたのが実際です。
加盟店数や利用金額など数字としては公表していませんが、そこまで大きくないというのが率直なところです」(山本氏)
うまい鮨勘 石巻支店で行われたDoorDashの石巻市エリアでのローンチ発表会の様子。あえて地域のお店を重視するのは、DoorDashが掲げる「ハイパーローカル」という考え方によるもの。地域のビジネスに根ざして、利用者、配達員で三位一体の経済圏をつくる考え方だ。
提供:DoorDash
地方をカバーしていることで、都市部を中心に展開する他のフードデリバリーとは異なる、特有の課題もある。
例えば仙台市は中心部こそ平坦で人口が密集しているものの、市域そのものは非常に広く、中心部から離れるほど高低差が激しくなり、人口も疎になる。
また寒い地域では、降雪や路面凍結への対処は欠かせない。11月中にローンチされる札幌市では、この季節の課題に直面する。
「フードデリバリーというと自転車のイメージがあるかもしれませんが、地方になるほど自転車では厳しく、車とバイクのDasherが中心となります。これにより、ある程度長距離を運ぶことができます。札幌は新しいチャレンジですが、これも含めて1つの学びだと考えています。
本当に地方都市でもDasherに働いていただけるのか実験しつつ、われわれとしてオペレーションが回るのかを検証していきたい」(山本氏)
ギグワーカーの待遇問題への対処は?
フードデリバリーを巡っては、働き手の待遇の問題にも注目が集まっている。
スキマ時間に配達するような労働形態の配達員は、「ギグワーカー」と呼ばれる。配達におけるマナー逸脱行為や交通ルール違反の一方、不安定な低賃金労働などの問題もよく取り沙汰されている。
山本氏は、
「業界全体の問題と考えており、われわれとしてもJaFDA(日本フードデリバリーサービス協会)のような業界団体に加盟しつつ、最適なギグワーカーのモデルを模索している段階」(山本氏)
と述べている。
また、Dasherを含む配達員同士のコミュニティにも気を配っているという。
「配達員の方々は独自のコミュニティを持っており、互いに情報のやり取りをよく行っています。“ブースター”という他社の用語がありますが『ピークペイはどこか』『週末動くのに適しているのはどこか』といった情報を内部で話し合っているようです。Dasherの確保にあたっては、そういった状況も見極めつつ、他社より多く報酬をお支払いしています」(山本氏)
「ローソンとの提携」が後発の活路になる理由
DoorDashとローソンが提携を発表。宮城県の一部のローソン15店舗で、DoorDashの宅配が使えるようになる。
出典:DoorDash
大資本を積極投入してシェア拡大を目指す出前館や、Uber Eatsとシェアに大差があることは山本氏も認めている。が、勝ち筋としては「圧倒的な使い勝手のよさ」を特色として前面に推しだす方針だ。
その代表的な例の1つが、飲食店以外の加盟店の拡大だ。
DoorDashはアメリカ国内において「DoubleDash(ダブルダッシュ)」というサービスを2021年8月から開始している。例えばレストランでの注文後に、アプリにDoubleDashのオプションが表示されていれば、近隣の別店舗でさらに商品を追加で発注でき、一度のオーダーで複数店舗からの商品を同時に届けてもらえるという仕組みだ。
米国ではローンチパートナーにコンビニやドラッグストアが加わっており、「レストランでフードデリバリーを頼みつつ、ドリンクやスナックを別店舗で同じタイミングで取り寄せる」という使い方ができる。
この仕組みは12月2日以降、日本にも導入され、DoorDashとしては初のコンビニパートナーとしてローソンが加わる。第一弾として対応するのは、宮城県の仙台市と名取市の一部、15店舗のローソンだ。
例えばランチの一品にからあげクンを追加したり、ディナーで寿司を注文してコンビニのスイーツ商品を組み合わせるといったことができるようになる。
このほか、同日には宮城県内の一部店舗でアルコール飲料のデリバリーが解禁され、加盟店にとってオーダー単価向上が期待できる。
コンビニからの配送は今のデリバリーの穴場
飲食店以外にまで対応範囲を広げて俯瞰すると、確かにまだフードデリバリーは課題を抱えている。
筆者は11月、アメリカ出張から帰国した際の14日間の自宅隔離生活のなかで、あるデリバリー大手のコンビニ配送を利用してみた。たしかに、商品点数が思ったより少なく、思い通りに買い物できない現状を体験した。
こうした課題の解決は、単に加盟店を増やすだけではなく、配達するDasherや加盟店側のオペレーションが重要になる。
「いまはまだレストランと同じ仕組みで、いろいろな加盟店が全商品を載せるのは無理な状態です。一方でアメリカでは、レストランのUIとそれ以外のUIが全然違います。今後、コンビニとかスーパーの対応で商品点数が多くなってくると、もう少し賢く、違ったUIが求められます。
検索の仕組みも同様で、例えばチューハイなどの商品を入力したらコンビニのブランド名がリストアップされなければいけません」
サービス拡大のジレンマ
サービス拡大のジレンマの1つは、小売りの加盟店ならではの事情もある。加盟店の店員の多くがアルバイトであり、そういった人々にどこまで複雑なオペレーションを要求するのかという問題がこの先浮上してくることは間違いない。
DoubleDash導入とコンビニやスーパーを含む新しい小売業態の取り込みは、フードデリバリーのみならず、Dasherの利用機会をさらに増やす機会になる。すでに報道されているとおり、LINE傘下の出前館は大規模な資金調達を背景に資本投下を続ける方針で、圧倒的1位を取ってその他を引き離すという戦略で動いている。
国内のデリバリー業界で知名度の高いUberEatsは、急拡大の一方で配達員の待遇改善の訴えが定期的に取り沙汰される。
こうした課題は、DoorDashが今後都市部での本格展開も視野に入れるなかで、同様に直面する可能性は極めて高い。
米国トップシェア企業の本気度が試されている。
(文・鈴木淳也)