ドローンが食事を運ぶ未来の風景が、現実味を帯び始めている。
撮影:小林優多郎
都会の公園でランチを注文。すると、数百メートル離れた先から「デリバリー」してくれるのはなんとドローン……そんな光景を実現する取り組みが実施された。
11月20日、東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)とKDDIが実施した、東京都港区・ウォーターズ竹芝におけるドローンを活用した有人地帯でのフードデリバリー実証実験だ。
実験内容は、事前に募集した一般消費者にウォーターズ竹芝内屋外広場に出向いてもらい、付近のレストランからドローンで食事を運ぶというもの。
当日は敷地内のポートから輸送距離50m先にある屋外広場の着陸地点と、輸送距離700mの浜離宮の水上バス発着場の2種類へ食事を運ぶ実験が行われたが、報道関係者向けには前者が公開された。
ドローンが商業施設の上を飛んで食事を運ぶSF感
ドローンに食事の入った箱を取り付けている様子。
撮影:小林優多郎
当日は天気にも恵まれ、実験はつつがなく進行した。
出発地点では、レストランからの食事の入った箱がドローンに取り付けられ、安全を確認してから出発する。その後、ドローンは数分飛行して、出発地点と同じような2次元コードが敷いてある目的地に着地する。
竹芝の広場を飛ぶドローン。
撮影:小林優多郎
着陸地点に待機しているスタッフが、ドローンから食事を取り出し、お客に提示。その後、最終的な盛り付けをして、提供する、といった流れだ。
着陸地点にも出発地点同様に2次元コードが用意されていた。
撮影:小林優多郎
ドローンによるフードデリバリー実証のポイントは、東京都内で初めて有人地帯でドローンを飛ばして荷物を運ばせる、という点だ。
ウォーターズ竹芝はJR東日本の「アトレ竹芝」、同グループのホテル「メズム東京」、「四季劇場」からなる複合施設で、当日は実験のために一般人の立ち入りを制限していたとはいえ、ごく普通の商業エリアだ。
ドローンが運んできた食材で、料理が提供された。
撮影:小林優多郎
そんな場所で全長1.2m(1173mm)、高さ52cm(526mm)の大きめなドローンが飛ぶ様子は、かなりSF感があった。
近くで見ているとプロペラ音は確かに気になったが、抽選で選ばれた一般客は「ドローンを見る」ことも含めて食事に出向いてきており、その非日常感が1つのエンタメ要素となっていた。
有人地帯での「目視外飛行」での運用も視野に
食事をする家族と、上空付近にはテスト飛行をするドローンがいた。
撮影:小林優多郎
今回の実証実験では、「食事が温かい状態できちんと運べるか」という配送スピードの点と、「食事が運ばれるまでの待つ時間に何らかのエンタメ性をもたらせられるか」の2点に重点が置かれていた。
通信やドローンのプラットフォームを担当したのはKDDI、運航管理はTerraDrone、運航に関して必要な気象予測はウェザーニューズ、そしてお客側から見た予約受付や施設管理などを担当したのはJR東日本となる。
写真左からKDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 ドローン事業推進グループリーダーの博野雅文氏と、東日本旅客鉄道 事業創造本部 新事業創造部門 品川くらしづくりユニット(事業計画)副課長の松尾俊彦氏。
撮影:小林優多郎
それぞれの役割ごとに、安全性など越えるべき課題はあるが、実証を担当したJR東日本の松尾俊彦氏は「(現実的な)ビジネス化を目指すところが、従来の実証実験との違い」と強調する。
前述のエンタメ性はもちろん、お客に提供するまでのフロー、料理の品質などに注目したいという。
今後は「レベル4」相当の有人地帯での自律飛行での運用を目指していく。
撮影:小林優多郎
また、今回はスタッフが現地で目視をしつつ手動もしくは自動で運航する「レベル1/2」での実施となったが、実証実験を重ね、各種法制度が整い次第、有人地帯での目視外飛行となる「レベル4」(遠隔での自動飛行)での運用も視野に入っている。
2022年頃には制度整備が予定されており、さらに今回の実証実験は東京都が公募した「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」となっている。
ドローン配送が身近になる日が、より現実的なラインまで近づいてきている。
(文、撮影・小林優多郎 動画・山﨑拓実)