世界中の経営者やアナリストの視線が「メタバース(Metaverse)」に集まる。が、その評価にはさまざまな相異、温度差があるようだ。
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ウォール街はいま、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、そのほか広義の「メタバース(Metaverse)」に含まれるさまざまなビジネスの話で持ちきりだ。
米金融・企業調査会社センティオ(Sentieo)の提供する企業発表資料のトランスクリプト(書き起こし)をInsiderが分析したところ、2021年11月に開催された投資家向けの経営方針説明会、決算説明会、最高経営責任者(CEO)インタビューのなかで、レガシーからスタートアップまで多様な企業の経営幹部がメタバースに言及していた。
メタバースという言葉の意味するものは企業によって異なる。
アバターが自由に歩き回り、NFT(非代替性トークン)やその他のデジタルアイテムを購入するバーチャルな世界だったり、ARゴーグルを装着してデジタルコンテンツを現実世界に重ねて投影する未来の姿だったり、さまざまだ。
当然のことながら、メタバースに関する企業のビジョンは、それぞれの展開する事業の利益につながるよう設定されることが多い。
108年の歴史を誇るファッションブランドのプラダ(Prada)のように、メタバースというカテゴリの成熟を待って参入する考えを示す企業もあれば、ゲームプラットフォームのロブロックス(Roblox)のように、メタバースを今日時点ですでにビジネスの中核とみなす企業もある。
ごく最近では、フェイスブックが社名を「メタ(Meta)」に変更し、少なくとも100億ドル(約1兆1000億円)を投じてメタバース企業に衣替えする方針を発表したことで、投資家たちの視線が一斉にバーチャル世界に注がれる展開を迎えている。
先述の企業発表資料に戻れば、「メタバース」という単語には、2021年を通じて158件のトランスクリプトで少なくとも1カ所の言及があり、うち93件はフェイスブックの社名変更が発表された10月28日以降のものだった。
以下では、各社の行動や経営幹部の発言から、メタバースへのアプローチの違いを詳しくみてみたい。
「メタバース推し」の経営者たち
- ゲームプラットフォームのロブロックス(Roblox)は2021年を通じて、決算説明会があるごとにメタバースの構築に果たす同社の役割について口にしてきた。デービッド・バズッキCEOは8月、「ロブロックスは15年間、メタバースだけを見てやってきた」と語り、11月には彼自身の考えるメタバースの基本構成要素について説明している。
ロブロックスのプラットフォームは、他企業のトランスクリプトにもしばしば登場する。
- ワーナーミュージックグループ(Warner Music Group)は2021年2月、ロブロックスへの出資を大々的に発表。
- ライブ・ネーション・エンターテインメント(Live Nation Entertainment)を持分適用関連会社とするリバティ・メディア(Liberty Media)は、米最大級の野外音楽フェスティバル「EDC Las Vegas(EDCラスベガス)」をロブロックスのプラットフォーム上で開催すると大々的に宣伝中。
- 幼児向けテレビ番組『テレタビーズ』やテレビアニメ『ガジェット警部」などの制作を手がけるメディア企業ワイルドブレイン(WildBrain)は、メタバースでの取り組み事例として、ロブロックス(ゲームプラットフォーム上)のデベロッパー、ゲームファム(GameFam)との広告パートナーシップを強調。
テクノロジー分野の巨大企業にも、メタバースを大きなビジネスチャンスととらえる向きが多い。
- 半導体大手クアルコム(Qualcomm)も、自らをメタバースのキープレーヤーと位置づける。クリスティアーノ・アモンCEOは2021年11月の投資家向け経営方針説明会で、同社のスナップドラゴン(Snapdragon)シリーズを「メタバース行きのチケット」と表現。
- 写真動画共有アプリ「スナップチャット(Snapchat)」は拡張現実(AR)にフォーカスする。デレク・アンダーセン最高財務責任者(CFO)は2021年11月、金融大手モルガン・スタンレー主催の欧州カンファレンスで、自社のAR事業に言及。
「当社にとって、現実世界にデジタルを重ね合わせるビジネスこそが、長期的に見て最大のチャンスだと考えています」
- 玩具メーカーのハズブロ(Hasbro)は、同社の人気ゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』をデジタルマーケットプレイスやビデオゲームに展開することが、メタバースへの最初の足がかりになると発言。
大人向けのメタバース関連プロダクト開発にフォーカスする企業もある。
- 人工知能(AI)ソリューション・デジタルメディア企業のリマーク・ホールディングス(Remark Holdings)は、傘下のブランド『ビキニ・ドットコム』で「ビーチ・ライフスタイル・メタバース」を立ち上げる計画を示唆。
- ライフスタイルブランド「プレイボーイ(Playboy)」を傘下に置くPLBYグループのベン・コーンCEOは華々しい構想を口にしている。
「(仮想世界である)メタバースとラスベガス現地で同時に開催される、真夏の夜の夢のような、バーチャルとフィジカルを組み合わせたグローバルパーティーを含め、(1960年代にオープンした会員制の)プレイボーイ・クラブを再創造したい」
「メタバースはまだ夢物語」サイドの経営者たち
ここまで紹介してきた経営幹部たちと異なり、メタバースはまだ夢物語にすぎないとの見方を示すCEOもいる。
- オンラインゲーム配信大手ネクソン(Nexon)は、2021年第3四半期(7〜9月)の決算説明会でオーウェン・マホニーCEOは次のように発言。
「メタバースとは何か、10人に10通りの考え方があるのが現状です。
メタバースにたびたび言及する他社の多くが、ほぼ全社がそうだとまでは言いませんが、自分たちが構築しているものが何であるかをあまり深く考えないまま、多額の資金とテクノロジーを注ぎ込んでいるようにみえます」
- パソコン・周辺機器大手エイスース(Asus)のスー・シーチャン副会長兼最高戦略責任者(CSO)は、2021年11月の投資家向け説明で以下の発言。
「メタバースのビジョンを実現するには、たくさんの要素を積み重ねる必要があります。
仮想現実(VR)をテーマにしたスティーブン・スピルバーグ監督のSF映画『レディ・プレーヤー・ワン』の世界を現実にしようとすれば、まずは強力なコンピューティングパワーとグラフィックボードが必要です」
高級ブランド、プラダ(Prada)のマーケティング責任者で次期CEOのロレンツォ・ベルテッリは、2021年11月の投資家向け経営方針説明会で、「メタバースというカテゴリーが成熟したら、ソーシャルメディアのような新しいチャネルとして対応するつもりだが、すぐに動き出す考えはない」と発言。
法人向けソフトウェア会社エンダバ(Endava)のジョン・E・コットレルCEOは、2021年11月の決算説明会で次のように発言している。
「野心的とも言えるバーチャル環境が実現するのは何年も先のことで、今後さらに大きな技術的進歩が必要になるという多くの人たちの見方に同意します。
ただ、当社の顧客企業にとって将来的に重要なものであり、今後もその発展をウォッチしつつ、展開に応じて検討していくつもりです」
(翻訳・編集:川村力)