11月に上海にオープンしたスターバックスの実験店舗はビジネス利用にフォーカスしている。
スターバックス微博公式アカウントより
スターバックスがこの秋、2つの実験店舗を中国・上海にオープンした。上海のカフェは約7000店舗あり、ニューヨークの3~4倍とも言われる。コーヒー文化が急速に普及し、中国消費者のニーズを熟知した現地企業との競争が激化する中で、老舗チェーンは「第三の場所」の進化を追求している。
1人ブース、会議室を併設
スターバックスは11月下旬、上海中心部のオフィスビルにテレワークやミーティング施設を設けたコンセプト店舗をオープンした。
200平方メートルの店舗は「有料会議室」「個人用ブース」「ソファコーナー」「休憩スペース」の4エリアに緩やかに分かれている。
会議室は防音加工が施され、照明や空調も調整可能。
スターバックス微博公式アカウントより
4人用会議室は3つ設置された。
スターバックス微博公式アカウントより
有料会議室は4人用が3室、8人用が3室。部屋ごとに照明や空調を調整でき、壁は防音加工が施されている。
会議室はスマホのアプリで予約・決済し、QRコードで開錠して使用するシステムだ。
スターバックスは日本でも2020年に、ビジネス利用にフォーカスして仕切り席や予約制を導入した店舗を都内2カ所にオープンした。
上海店舗はよりオフィス機能が重視され、日本の店舗にはない「会議室」が設けられているのが特徴。これは、上海店舗がシンガポール不動産企業「キャピタランド」傘下で、コワーキングスペース、シェアオフィス、レンタルオフィスといった「フレキシブルオフィス」を展開する「奕橋Bridge+」とコラボしているからだろう。
予約、決済、開錠はスマホで行える。
スターバックス微博公式アカウントより
多くの座席に電源とライトが備えられている。
スターバックス微博公式アカウントより
同店は、オフィスビルの1階ロビーの一角に設けられ、不動産企業視点では遊休スペースの新たな活用法を探る取り組みでもあるという。
エプロンはプラカップ再利用し製作
9月に上海でオープンした環境配慮型の実験店舗。
スターバックスニュースリリースより
スターバックスは9月には上海に、環境配慮型店舗「Greener Store」を北米以外で初めてオープンしている。
同社は2030年にコーヒーの生産から店舗運営までの過程で炭素排出量、水の使用量、廃棄物量を2019年比半減する目標を掲げている。
また、2018年には「従来の店舗より水の消費量を30%、エネルギー消費量を25%削減」「風力発電または太陽光発電を拡大し、店舗消費電力の全てを再生可能エネルギーで賄う」「店舗用の材料と製品を持続可能な方法で調達」などを満たすGreener Storeを2025年までにグローバルで1万店舗導入すると発表した。
上海のGreener Storeでは、スタッフのエプロンはプラスチックカップを、カウンタートップや階段、ドアハンドルは北京市の旗艦店リニューアルの際に回収した木材を再利用して製作された。
インテリアにはリサイクル材料で作られたことが示されている。
スターバックスニュースリリースより
メニューの半分以上が植物由来の原材料で作られ、コーヒーかすは肥料としてリサイクルされる。
また、店内では「持続可能なコーヒー教室」を開催し、持続可能性をテーマにした展示会をキュレーションする「CircularLifestyleLab」を世界で初めて設置した。
IoTとスマートテクノロジーを利用して空調や照明を自動調整することで、通常の店舗より炭素排出量を15%削減するという。
Greener Storesは2021年以降、日本、英国、チリにもオープンする予定だ。
新興チェーン台頭、先駆者の地位守れるか
スターバックス微博公式アカウントより
スターバックスは1999年に中国に進出。当時、中国でコーヒーを飲む文化はなかったが、都市部のホワイトカラーをターゲットに市場を開拓し、現在は約5100店舗を運営している。
カフェ文化の浸透によって、スターバックスは現地の新興企業との競争が課題になっている。
2018年に1号店をオープンしたluckin coffee(瑞幸珈琲)は、巨額の資金を調達して一気に店舗を拡大。2019年に上場して中国の店舗数でもスタバを抜いた。
luckin coffeeはその後不正会計が判明して失速したが、2015年に創業し、バイトダンスの出資を受ける「Manner Coffee」や、アリババ系スーパーの「盒馬鮮生(Hema Fresh)」など新興チェーンが台頭し、上海市によると同市内のカフェは2021年時点で約7000店舗と、世界で最も数が多いという。
中国ではSNS映えするティードリンク市場も成長しており、コーヒーの味や品質、「サードプレイス」のコンセプトだけでは優位性を維持できなくなっている。スターバックスは競合企業に追随する形で2018年以降デリバリーやオンラインオーダー、テイクアウト主体の店舗を導入している。
ビジネス用途にフォーカスした店舗や環境配慮型店舗は、スターバックスが提唱してきた「サードプレイス」に新たな付加価値を与える取り組みで、消費者の支持を得た場合はすぐに真似されるだろうが、それでも「先駆者」のイメージの強化に貢献しそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。