左から渋谷区の田坂克郎さん、Nexstarの山本愛優美さん、Civichatの高木俊輔さん、リベラベルの野村優妃さん、ブイクックの工藤柊さん。
出典:SIW2021
2021年11月5日(金)〜14日(日)の10日間にわたって渋谷エリアの多拠点会場にて開催されたSOCIAL INNOVATION WEEK 2021。その8日目のセッション「Z世代起業家の社会を変えるアイデアの作り方」では、4人のZ世代の起業家が、起業に至った経緯と、渋谷区に求める支援をテーマに語り合った。
登壇者は、Nexstar CEOの山本愛優美さん、Civichat代表の高木俊輔さん、リベラベル代表の野村優妃さん、ブイクック代表の工藤柊さんという多様な領域で活躍する4人。ファシリテーターは渋谷区グローバル拠点都市推進室長の田坂克郎さんが務めた。
課題解決に挑む若手起業家、資金調達が壁に
出典:SIW2021
Civichatの代表の高木さんは、イベントを協援する渋谷区も含め、自治体を通してよりスムーズに公共制度を探すことのできるサービスを提供している。
高木さんが問題意識を抱くようになったのは、角川ドワンゴ学園「N高」在籍時代。
奨学金を探していた時、あまりにも奨学金の数が多すぎて、どれを利用できるのか分からなかった経験から、質問に答えていくだけで自分に合った公共制度を提案できるサービスを作ったという。
「起業したい気持ちが先だったのか、それともやりたいことがあっての起業だったのか」(ファシリテーターの田坂さん)という質問に対して、高木さんは「会社を作らざるを得なかった」と答えた。
「僕が起業したのは、やむを得ず箱を作ったような感じです。
僕の事業は行政や自治体を相手にしていて、サービス自体もいただいた個人情報をもとに、それに合った公共制度を提案するもの。マイナンバーカードを事業者が使うためには法人として内閣府に申請が必要だったので、法人化しました」(高木さん)
「お金儲からなくね?」
起業の経緯を語り合うなかで、高木さんの放った一言は非常に印象的だった。
「やりたいことって、お金、儲からなくね?」(高木さん)
自分の目指す世界観はあるが、ただ「やりたいこと」を続けているだけでは必要な経費も回収できず、事業も続かないという悩みを共有した。
出典:SIW2021
それに対してヴィーガン向けのレシピサイトやマーケットモールを運営しているブイクックの工藤さんは、起業前にNPO法人で働いていた時代から、稼ぐ気持ちを大切にしていたと話す。
中高生の頃からNGO職員やソーシャルビジネスに憧れを持っていたという工藤さん。3年前に初めて事業を始めたのも、NPO法人としてだった。しかし資金調達の壁にぶつかり、事業のスピード感を大事にしていた工藤さんは、2020年4月にNPOという形をやめ、株式会社として事業を引き継ぐ決心をした。
「NPOだと出した利益を全て違う事業や新しい領域に使えるので、NPOで稼ぐのはすごくかっこいいし、そう思う人が増えればいいなと思ってやっていました。ただ力不足で(NPOの形で続けることは)僕はできなかったので、またリベンジしたいです」(工藤さん)
株式会社化してからは、メンバーも、できることも増えたという。ただ、やりたいことはNPO時代から変わらず、「ヴィーガンの生活で困っていることを、全て解決すること」。同じ価値観や課題を持ったコミュニティで、助け合い、モノやサービスを作り、生活を豊かにしていきたいと力強く語った。
渋谷区でスタートアップ・エコシステムの構築を担当しているファシリテーターの田坂さんは、このような課題ドリブンのスタートアップが資金を調達できない問題に課題感を抱いていると話す。
自治体の中では「SIB(Social Impact Bond)ブーム」といって、地方自治体が民間に業務を委託し、その成果に応じて対価を与える仕組みが流行っているそうだ。しかし、スタートアップの初期コストを負担できるようなエコシステムは、まだ機能していない。行政側が支えられる仕組みや、資金調達用のファンドを設立するなど、行動に移していく必要性を改めて示した。
仕組みから変え、選択肢を広げていく
出典:SIW2021
Z世代は「多様性」という言葉とセットで紹介されることが多い。ストローブランドを立ち上げているリベラベルの野村さんは、社名から多様性を意識した。
「社名の『リベラベル』は、リベラルアーツとラベルを掛けた造語です。
マクロな視点で見ると、これまでの幅広い研究分野や新しい学問が生まれている一方で、ラベルというミクロな視点で見ると、偏見、思い込み、限られた情報によって選択肢を自ら狭めてしまいます。
自分らしさが分かっていくという面で、多様な在り方を知ることは大事なのではないでしょうか」(野村さん)
Z世代という世代論を語り合う中で、デジタルネイティブであることは利点になるケースばかりではないと強調するのは高木さん。
「僕たちはZ世代だからこそ、GAFAに依存しているんです。本来ならもっとサービスを選べたはずなのに」と持論を語る。
社会に貢献するビジネスは十分に利益が出せない中、GAFA企業の株価だけは高値を維持している構図に疑問感を抱く――その話に、ブイクックの工藤さんも首を縦に振る。
そうした仕組みから変えていく必要性は、グローバルなテクノロジー界だけでなく、日本における気候変動対策にも共通する。2020年夏にビニール袋が有料化されたように、環境負荷の高いものは有料化、低いものは免除を検討するなど、行政の手で個人レベルの行動をポジティブに変えられるインセンティブの仕組みを作ってほしいと工藤さんは提案した。
2022年4月からはプラスチック新法案(「プラスチック資源循環促進法」)が施行され、コンビニなどでストローやフォークなどのプラスチックカトラリーの有料化や削減が進む見込みだ。
ストローを自身のプロダクトとして扱う野村さんは、新法案に対する環境省の言及の中に「プラスチック製品を断るとポイントが付与される仕組みを作る」という趣旨の一文があることに注目している。
「ただそこから、それをどれくらいの人が知ってくれるのか。プラスチック製品を断るという行動をしてくれるのか。その次のステップまでを回していくのが、難しいハードルなのかなと思います。
だからこそ強いパッションを持って、選択肢として取り組んでいくのが起業家なのかなと」(野村さん)
Z世代が考える「渋谷区ができること」
出典:SIW2021公式ホームページより
イベントの最後には「今後、渋谷区に求めたいもの」について、それぞれがアイディアを短冊に書いた。率直なコメントに興味を引かれたので、最後に全員分のコメントを紹介しておく。
山本:「渋谷で登記したい」
「登記をすると代表の自宅が分かるようになります。そうすると表舞台に立つ人が、ストーカー被害に遭いやすい状況があります。私自身とても怖いので、対策をしてほしいです。
加えて登記費用の支援もあれば、背中を押される同世代の起業家も多いと思います」
高木:「ソフトウェア公共財」
「道路や公園は税金で負担されてきた一方で、ソフトウェアに関してはまだまだ費用を負担できていないと思います。今後の公共財は、スマホ上からアクセスしていくことになる。ソフトウェアも公共財と捉えることによって、初期コストを負担してほしいです」
野村:「“カジュアルに”つながる場」
「私が田坂さんに出会えて繋がれたことによって、私一人ではお話しできないような方にも繋げていただけました。そうした機会をもっと増やし、よりカジュアルに話したり、つなげていただけるような仕組みを作っていただきたいです」
工藤:「“本当に困っていること”に時間とお金を使って欲しい」
「そこじゃないんだよなあ、みたいなことが結構多くって。例えばスタートアップの初期フェーズだと、みんなで集まって作業する場所がなかったり、最初の人件費がなかったりします。ニーズに的確に刺さる政策や施策をぜひ打ってほしいです!」