スティーブ・ジョブズ。
David Paul Morris / Stringer
- スティーブ・ジョブズは、意思決定からくる疲れを軽減するために、毎日同じ服を着ていた。
- 筆者はこの戦略が仕事のパフォーマンスを向上させるかどうかを試してみたが、そうでもなかった。
- 心理学者によると、習慣は意思決定の改善に役立つが、他の要因も大きく関連しているという。
大成功を収めた人の多くには、毎日同じ服を着るという共通の習慣がある。
アップル(Apple)の創業者である故スティーブ・ジョブズ(Steve Job)の黒のタートルネックにブルージーンズ、そしてトレーナーというスタイルは最もよく知られた例だ。バラク・オバマ(Barack Obama)やマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)もまた、いつも同じような服を着ていることでよく知られている。
その理由はシンプルなものだ。日々の決断の数を減らし、重要な決断に費やすエネルギーを節約するためだ。
一般的に言われている「決断疲れ(Decision fatigue)」は確かにあると、心理学者でカリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスの客員教授であるバリー・シュワルツ(Barry Schwartz)はInsiderに語っている。彼は2004年に出版された著書『The Paradox of Choice(選択のパラドックス)』で、選択肢が多すぎると人間は麻痺してしまい、意思決定の能力に影響を与えるということについて探究した。
我々の脳で意思決定に使えるエネルギーは限られている。1日に何千もの決断をするうちに、その蓄えは減っていく。
「我々は、意識的によく考えて決断をすることにどれほどの労力が必要かについて過小評価している」とシュワルツは言う。
「それを習慣や何らかのルーチンにしてしまえば、そこに余計な労力を割く必要がなくなる」
筆者の場合、生活の中にもう少しルーチンがあってもいいような気がする。なかなかスタートを切れない日があったり、集中力が落ちたりする日があるからだ。もしかしたらジョブズの方法が役に立つかもしれない。そこで、1週間ほど試してみた。
ルーチンに取り込みやすく、朝の時間短縮に
ジョブズと同じではないが、青のTシャツ、黒のジーンズ、ベージュのジャンパーを着て1週間過ごした。仕上げはナイキのスニーカーだ。
私は自信を持って1週間をスタートさせ、朝の準備をした。
これは私のスケジュールに簡単に追加できるものだった。私の朝のルーチンはすでに固まっており、15分のウォーキング、シャワー、朝食を終え、朝8時から仕事を始める。その日着る服を用意しておくことで、決断すべきことが1つ減った。
ベージュのジャンパー、青のTシャツ、黒のジーンズ、ナイキのスニーカーを1週間着用した。
Stephen Jones
その週が終わってみると、仕事に取り掛かるのは楽になったが、生産性が上がったというほどではなかった。これまでよりよい決断ができたとはとても言えない。
実際、うまくいったとは思えない。そしてそれは、心理学者に聞いてみても、驚くべきことではなかった。
意思決定について調査しているカナダの企業、Decision Labのリサーチ・ディレクター、ブルック・ストラック(Brooke Struck)によると、我々の意思決定にはさまざまなことが影響を与えているという。
適切な食事や十分な睡眠の確保は、我々の意思決定能力に大きな影響を与えるとストラックは言う。
「タスクの切り替えは、認知的にかなりの負担がかかる」
1週間を振り返ってみると、電車が遅れた日があり、オフィスに着いたころには出遅れたと感じた。また、なかなか寝付けなかった夜のあと、疲れが残ってしまい、集中できなかった。ベージュのジャンパーを着ていても、Slackの通知やメールに気を取られてしまうことに変わりはなかった。
毎朝、同じグレーのTシャツを着たり、トーストだけを食べて意思決定から解放されることは効果的だが、十分な睡眠が取れず、食生活が乱れ、複数のタスクを常に切り替えている状態では、やはり意思決定に影響が出てしまう。
「黒いタートルネックを1週間毎日着続けることで、十分に変化が感じられると考えているなら、期待は裏切られるだろう」とストラックは言う。
そのルーチンを行う期間も重要となってくる。
シュワルツによると、不確実性は日々の意思決定に影響を与えるという。その意味からすると、新型コロナウイルスのパンデミックにより、すでに確立されていた人々の習慣やルーチンが破壊され、日々の意思決定が困難になった可能性がある。
「不確実な世界では、間違った判断をしてしまう」とシュワルツは言う。
「それを回避するコツは、良い判断をするための最良のチャンスを自分に与えることだ」
結論として、筆者は同じ服を着ることにこだわるつもりはない。日々の変化や、違うものを試す機会がある方が好きだ。服を準備する時間を睡眠に充てる方が、もっといいアイデアなのかもしれない。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)