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メルケル後継の三党連立が「不安しかない」理由。中国に「人権遵守」「香港統制緩和」要求、早くも対立

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16年の長期政権を全うして政界引退するメルケル独首相(左)と後継首相に決まった社会民主党(SPD)のショルツ党首(現財務相兼副首相)。

Markus Schreiber/Pool via REUTERS

連邦議会選挙からおよそ2カ月を経た11月24日、ドイツ新政権の座組みについてようやく最終合意が交わされた。

第一党となった中道左派・社会民主党(SPD)は、第三党の環境政党・緑の党、第四党のリベラル政党・自由民主党(FDP)とのいわゆる「信号」連立(=赤・緑・黄という各党のイメージカラーからそう呼ばれる)を選んだ。

在任期間16年に及ぶ長期政権となったメルケル首相の後継者は、第一党SPD党首のショルツ財務相(兼副首相)に決まった。

12月中旬開催予定の連邦議会でショルツ氏の首相任命投票が行われ、正式就任となる見通しだ。

連立各党の主義・主張は基本的に異なるため、協議は難航が予想されたものの、各党が政権樹立を優先したことで考え得る限りの最速シナリオで最終合意に達した。

天秤にかけられるドイツの「新旧価値観」

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総選挙を経て第三党に躍進した環境政党・緑の党のベアボック共同党首。ショルツ新政権では外務相ポストを獲得。

REUTERS/Michele Tantussi

主だった政策論点を整理しておきたい。

まず財政政策については、均衡財政を憲法化する「債務ブレーキ条項」の温存が確認されている。併せて、パンデミックを受けて例外的に許容されてきた赤字状態は、2023年以降に正常化を目指す方針も共有された。

(気候変動対策への投資予算を確保するため)債務ブレーキ条項の修正を望んでいた環境政党・緑の党にとって本意ではないように思われるが、そうではない。別途基金を創設することで(気候投資は)条項の適用対象外とされており、緑の党への配慮がしっかりと見出せる。

もっとも、ショルツ新政権は「気候変動対策に消極的だったメルケル政権からの転換」を看板としており、この措置は緑の党だけに配慮したものではない。

逆に、気候変動という「錦の御旗」のもと、新政権はなし崩し的に財政支出を増やす可能性があり、その規模が注目されるくらいだ。

すでに現段階で「遅くとも2045年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」「2030年までに石炭火力の廃止(=従来の2038年までから前倒し)」「2030年までに電気自動車を1500万台普及」など、ドイツ経済の構造転換宣言ともとれる野心的な数字目標があげられている。

いずれも相応にコストのかかる取り組みで、例えば電気自動車の充電スタンド設置やその購入にかかる補助金、(エネルギー消費量ひいてはCO2排出量削減のための)住宅断熱性能の改善など、関連費目は広範なものになることが予想される。

そこで気候変動対策と健全財政の維持というドイツにとっての「新旧価値観」が天秤にかけられることになる。

金に色はないのであって、気候投資が積み重なった結果として財政赤字の規模が大きくなれば、連立入りした第四党・自由民主党や野党・キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は必ずや警告を発するだろう。

あとで述べる外交方針の転換と並んで、ショルツ新政権最大の見どころのひとつだ。

「EUの連帯」より「自国の財布」を優先する空気

さらに、主義主張の異なる政党による「呉越同舟」の連立組み合わせになった結果、右派・左派双方の悪い部分が政策に反映されるリスクがあることにも触れておきたい。

例えば、欧州の「統合と深化」について新政権がどれほど尽力するのかは怪しい。

メルケル首相が最終合意まで主導した欧州連合(EU)の復興基金設立は、将来のEU共同債へと連なる歴史的な動きで、債務の共有化に反対してきた従来のドイツの政策態度が修正される兆候として、好意的に評価された。

ところが、ショルツ新政権は復興基金について、「あくまで今期のEU予算における時限的なもの」と整理している。

「EUの連帯」より「自国の財布」を優先する、ドイツの伝統的な右派的発想が再び優勢になりそうなことは非常に残念だ。

一方、左派的な取り組みとして、最低賃金が25%(9.6ユーロから12ユーロへ)も引き上げられることが注目されている。

最低賃金の引き上げは、中長期的に雇用の「量」が減る懸念を孕(はら)み、短期的には賃金上昇が一般物価の上昇へと波及する懸念もある。

世界的にスタグフレーション(=景気減速と物価上昇が同時に進行)を警戒する声が強くなっている現状を踏まえれば、相当に不安を感じる一手だ。

「連立第二党に財務相ポスト」の慣例くつがえす

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市場原理重視で財界寄り、自由民主党(FDP)のリントナー党首。事実上の政権ナンバー2、財務相ポストを獲得した。

REUTERS/Fabrizio Bensch

「呉越同舟」により右派・左派双方の悪い部分が政策に反映されるリスクは、閣僚ポストの配分からも感じとれる。

社会民主党以外に割りふられる閣僚ポストの配分については、緑の党が外務相を、自由民主党が財務相を獲得したことが特筆される。

とりわけ、当初は連立入り困難と見られていた自由民主党に財務相ポストが割りふられたことは、「連立第二党(今回の場合は緑の党)に実質ナンバー2の財務相ポスト」という慣例をくつがえした点で目を引く。

自由民主党のリントナー党首は「財務相ポストが得られなければ連立を蹴る」との姿勢が最終合意前に報じられており、結果的に政権成立が優先されたとみられる。

(市場原理重視の)自由民主党が財務相ポストを得たことで、全体的に左派色の強い新政権で予想される拡張財政路線に一定の歯止めがかかることは期待できる。

しかし、「拡張財政路線に一定の歯止めがかかる」とはあくまで前向きな言い方。

先述した復興基金を共同債発行などの議論に発展させないよう(時限的なものとして)クギを刺す動きと併せて考えると、拡張財政を望まない自由民主党が財務相ポストを得たことは、EUの将来という視点からみたとき後ろ向きの印象も否めない。

それでも、環境・気候変動という看板が(債務ブレーキ条項の適用外となる基金を通じて)財政出動の「抜け穴」になる可能性は残されているわけだから、これはやはり右派・左派の悪い部分が混在していると言わざるを得ない。

中国との関係緊迫に大きなリスク

また、選挙戦のさなかから中国やロシアに対する強硬路線を隠さなかった緑の党が外務相ポストを得たことも重要だ。

アメリカを筆頭とするさまざまな国々から批判を受けながらも、経済的な利得を優先して中国やロシアとうまくつき合ってきた従来のメルケル路線は、ショルツ新政権にはもはや期待できそうにない。

ショルツ次期首相は早々と、中国に対して人権を守り、香港への統制をゆるめるよう促し、さらには台湾の国際機関参加を後押しする方針を表明するなど、中国に対して遠慮のない姿勢をはっきり示している

中国側も反発をあらわにしており、この先の独中関係が思いやられる船出となった。

ロシアからの欧州向け天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」についても、ドイツ政府の承認がなければ稼働できない状況ながら、ショルツ新政権が就任後すぐに承認をくだす雰囲気は感じられない。

ひっ迫するエネルギー事情を前に、葛藤を抱えつつ苦境に陥ったところで承認をくだす苦しい展開になりそうだ。

いきなり試される「リーダーとしての器」

ここまで述べた論点はいずれも重要だが、ショルツ新政権が直面する何よりの課題は、感染再拡大にどう立ち向かうかということになる。

全面的なロックダウンは国民からのアレルギーが相当に強そうで、隣国オランダではすでに大きなデモにまで発展している。

当面はメルケル政権の路線を継承し、ワクチン未接種者に限定したロックダウンが無難な対応となるだろうが、ドイツのワクチン接種率が大陸欧州のなかでも見劣りする現状を考えると、オーストリアのような接種義務化も検討されるかもしれない。

ロックダウンやワクチン接種義務化はもはやそれしかない妥当な選択肢ではあるものの、世論の反発は必至だ。メルケル首相ですら行動制限の決定で大きな反発を招いた経緯がある。政治資源に乏しいショルツ次期首相が同じ決定をすれば支持率に響く可能性は高い。

そもそもショルツ次期首相はキリスト教民主同盟のラシェット党首や緑の党のベアボック党首が失点(=水害被災地での「談笑」事件や経歴詐称問題など)を重ねるなか、財務相兼副首相をソツなくこなしてきた堅実さを買われ、相対的に浮上してきた後継候補にすぎない。

いわば「敵失」により勝利した経緯を踏まえると、行動制限や接種義務化など個人の自由を明確に制限するような踏み込んだ政策は支持を得にくいかもしれない。

発足当初から、海外では対中関係の悪化、国内では感染再拡大を抱える「内憂外患」の状況は相当に酷なスタートだ。名実ともにアフターメルケル時代のリーダーとしての器が試される局面にいきなり直面することになる。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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