映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』の冒頭シーン。
Netflix
- ゾンビは、ハイチの民間伝承を起源としており、何世紀にもわたって物語に登場してきた。
- 1968年公開の映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で、ジョージ・A・ロメロ監督は、今日のメディアで目にするゾンビの原型を作った。
- この100年のあいだにゾンビは、死霊的な存在から、殺人モンスターへと変貌を遂げている。
ハイチの民間伝承を起源とするゾンビの伝説は、過去100年のあいだに、テレビや映画の世界で大きく進化した。
進化の発端は、ジョージ・A・ロメロ(George A. Romero)が監督し、1968年に公開された映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だ。これが、ゾンビに「人肉への渇望」を与えた最初の作品となった。
アメリカのケーブルテレビ局Syfy(サイファイ)は先ごろ、ゾンビを原点に回帰させた。ロメロ監督によるオリジナルゾンビ映画の1作(1985年に公開された『Day of the Dead』、邦題『死霊のえじき』)と同じ題名の新テレビシリーズ『Day of the Dead』の放送を開始したのだ。同シリーズは、ロメロ監督のゾンビに敬意を表しつつ、よりグロテスクな仕上がりにすることで、ゾンビの様変わりを強調している。
ゾンビの起源は、ハイチの民間伝承
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で、死者が初めて墓から蘇った。
Image Ten
ヒストリーチャンネル(History Channel)のサイトによると、ゾンビの起源はハイチの民間伝承だ。ボコ(Bokor)と呼ばれるブードゥー教の魔術師の手によって、心も魂もない生き物として蘇り、操られると信じられている。
この伝承は西洋に伝わり、初期のゾンビ映画に引き継がれた。1932年に公開された、史上初のゾンビ映画とされる『恐怖城』などが制作されたのだ。しかし、ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』をきっかけに、スクリーン上でのゾンビの変貌が始まった。
1968年の同作とその続編で、ゾンビは、誰かに操られることもなく行動原理ももたない、ただ人肉を食らう欲求に突き動かされる存在となった。ロメロ監督は、特定の少数の死者でなく、すべての死者を「アンデッド」(生ける屍)として描いた最初の人物であり、ゾンビのトレードマークであるぎこちない歩き方など、重要なゾンビの特徴を生み出した。
なお、ロメロ監督が考えたものではないゾンビの特徴もいくつかある。例えば、脳を食べるゾンビは、1985年のホラーコメディ映画『バタリアン』から始まった。
21世紀初頭のゾンビ映画は、「ゾンビウイルス」や動きの速いゾンビを生み出した
『バイオハザード』は、ゲームの映画化として最も成功したシリーズの1つだ。
Constantin Film
ロメロ監督の映画では、人は、噛まれても噛まれなくてもゾンビになっていた。しかし、1992年の映画『ブレインデッド』から、「ゾンビウイルス」という概念が登場した。これが、今ではアンデッドがどのようにして生まれ、その数を増やしているかの説明として、より広く用いられるようになっている。
20世紀末には、『バイオハザード』や『ハウス・オブ・ザ・デッド』シリーズといったゲームの成功により、アンデッドへの関心が、動きの速いゾンビとともに蘇った。そして、「ゾンビウイルス」という概念も広まった。
2002年に制作された映画『28日後...』の脚本を担当したアレックス・ガーランド(Alex Garland)は、1996年にリリースされた『バイオハザード』が、ゾンビというジャンルを復活させたとの見解を示している。
ガーランドは2015年のハフィントン・ポストでこう語っている。
「『28日後...』は、ある意味でゾンビというジャンルを復活させたと評価されることがあるが、私はそれは『バイオハザード』の功績だと思う。『バイオハザード』をプレイしたとき、もう長いことゾンビを目にしていなかったのに、『ああ、自分はゾンビが大好きだ! ゾンビをどれほど好きだったか忘れていた。ゾンビはすばらしい!』という気持ちになったのを覚えている」
2000年代初頭に『バイオハザード』が映画化され、その後すぐに『28日後...』、そして、ザック・スナイダー(Zack Snyder)監督の『ドーン・オブ・ザ・デッド』(ロメロ監督の『ゾンビ』のリメイク版)が興行的に成功したことで、ゾンビウイルスと、動きの速いゾンビが大衆文化に定着した。ただし、テレビシリーズ『ウォーキング・デッド』は、最近のゾンビものでは数少ない例外として、ゾンビの動きを遅いままにしている。
ゾンビは、行動だけでなく、見た目も変化している
サイファイのリブート版『Day of the Dead』をはじめ、最近のゾンビ映画やドラマでは、ゾンビは、よりモンスターに近い姿で描かれる傾向にある。
Sergei Bachlakov / DOTD S1 Productions / SYFY
映画におけるゾンビの見た目の変化は、メイクアップやエフェクトの技術や素材によるところが大きい。とはいえ、『ウォーキング・デッド』に出てくるモンスターめいたゾンビと、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のような人間に近いゾンビとでは大きな違いがある。
エミー賞を受賞したメイクアップ・エフェクト・アーティストで、サイファイの最新シリーズ『Day of the Dead』にも参加しているトッド・マスターズ(Todd Masters)はInsiderに対し、メイクアップ・チームはさまざまなタイプのゾンビに対応できるよう訓練されているものの、通常そのための予算は与えられていないと語っている。
「(『ウォーキング・デッド』のメイクアップチームは)時間と予算があったので、(ゾンビに)本当に多くの時間と労力を費やしている。しかし我々はそうではなかったので、そのような造形からは離れざるを得なかった」と、マスターズは『Day of the Dead』のゾンビの造形について述べている。
「そこで、イタリアのゾンビ映画を目指したんだ。ある意味、デザインされていない。崩れかけていて、滴り落ちるような、泡立つような感じだ」
21世紀のゾンビ作品では、他のジャンルと組み合わせる傾向が生まれている
最近のゾンビドラマ『サンタクラリータ・ダイエット』などでは、人間になりすますゾンビが登場している。
Lara Solanki / Netflix
21世紀に入ってからのゾンビの進化は、ゾンビの行動に関わるものが減っている。代わりに、1985年の『バタリアン』から始まったコメディものや、1993年の『My Boyfriend's Back(日本未公開)』から始まったラブストーリーなど、他ジャンルにゾンビの要素が取り入れられるようになっている。これは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ウォーム・ボディーズ』など、ここ20年間の注目すべきゾンビ映画に見られる傾向だ。
『iゾンビ』や『サンタクラリータ・ダイエット』などのテレビシリーズでは、さらに一歩進んでゾンビに人間味を与え、モンスターになりたい衝動と戦うゾンビを主人公にしている。
その集大成といえるのが、ネットフリックス(Netflix)のオリジナル映画視聴回数トップ10に入っている『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年5月公開)だ。同作には、これまでで最も進化したゾンビが登場する。『アーミー・オブ・ザ・デッド』は、強盗もののジャンルにゾンビを組み合わせただけでなく、群れをつくる動物のように互いにコミュニケーションをとるゾンビの姿が描かれている。
『ウォーキング・デッド』の第11シーズンでは、「ウォーカー」と呼ばれるゾンビたちの腐敗が徐々に進んでいく様子が描かれる。
Josh Stringer/AMC
『アーミー・オブ・ザ・デッド』の監督を務めたザック・スナイダーはInsiderの取材に対し、同作で特に目指したのは「共感できる」ゾンビにすることだったと述べている。
「私は、ゾンビが単に人間を殺すだけでなく、何らかの形で人間に取って代わるために存在しているというアイデアを気に入っていた。最終的に、地球上にはもう死者しかいない、といったような」とスナイダー氏は語った。
進化の次なる段階は、アンデッドを再び人間に戻すことのようだ。これは、エイリアンから吸血鬼まで、他のあらゆる代表的なモンスターにも見られる傾向だ。
[原文:How TV and movie zombies have evolved from the mindless undead to superhuman killing machines]
(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)