- この記事はインサイダー・インテリジェンスによる調査レポート「アメリカのウェルスマネジメント・エコシステム(US Wealth Management Ecosystem)」のプレビュー版。
ミレニアル世代の経済状況は2020年に悪化し、その56%がパンデミック下で借金を増やした。これに加え、ソーシャルディスタンスなどの感染防止対策として、この世代を含む多くの人が資産管理のために金融機関に出向く代わりにデジタルツールを使い始めた。
スタートアップによるテクノロジーを駆使した資産管理ツールは、既存のウェルスマネージャーの脅威となっている。2018〜2022年のウェルスマネジメントに関する予測では、世界全体でフィンテックのプラットフォームの利用は7%増加し、商業銀行やリテール銀行の利用は6%減少する。
以下では、デジタル技術を用いた資産管理に関する主要トレンドを解説しながら、今後のウェルスマネジメント業界の動向を探る。
※この記事は、2021年5月28日に公開した記事を一部編集して再掲載しています
ウェルスマネジメント業界のトレンド
世界の消費者が「現在利用している(赤)」「3年後に利用していると考えられる(黒)」資産管理・運用サービス。
Insider Intelligence
コロナ禍でお金の出入りに細心の注意を払うようになった消費者は、資産管理のためのデジタルツールを積極的に使い始めた。こうした中、既存の金融機関はデジタルトランスフォーメーションを急いでいる。
アメリカとカナダに拠点を置くファイナンシャルアドバイザーの実に77%が「パンデミックで顧客と直接会って話す機会が減り、それに代わる適切な対話のツールを持っていなかったことが原因でビジネスを失った」と報告している。いまでは、世界のウェルスマネージャーの4分の3がデジタル化を優先事項に挙げている。
2021年現在、デジタル化に向けた既存企業の取り組みとして最も一般的なのは、競合するフィンテックやベンダーの力を借りることだ。資産管理サービスを提供する企業のリーダー層の85%が「今後12~18カ月の間にサードパーティ・プロバイダーと提携することが自社にとって重要だ」と回答している。
フィンテックと組むことで、既存企業は古くなった技術スタック(アプリケーションを実行するために使用されるOSやソフトウェア)を再構築できる。「技術スタックの全面的な刷新」はウェルスマネジメント事業を運営する上で重要な戦略であり、デジタルトランスフォーメーションの成功に欠かせないことがインサイダー・インテリジェンスの調査でも明らかになっている。
アメリカにおけるウェルスマネジメント市場の現況
対面が主流だった「資産管理サービス」のデジタルシフトが進んでいる。フィンテックに顧客を奪われないよう、既存の金融機関はベンダーとの提携などでデジタル化を急いでいる。
Insider Intelligence
ウェルスマネジメントとは、顧客の財産を「増やし」「守り」「承継する」ことを目的としたサービスを指す。
近年の規制環境の変化により、銀行など既存の金融機関は一層のデジタル化を迫られている。こうした中、ウェルスマネジメント事業の運営コストは上昇し続けるだろう。2019年には、「規制関連」「技術投資」「オフィス維持費」など人件費以外のコストの中央値が資産運用会社の総予算の3分の1近くを占めた。対応すべき規制はさらに増えると予想され、資産運用会社の半数近くが今後2年間で規制関連支出が増えると見込んでいる。
コロナで生まれ変わったウェルスマネジメント
コロナ下では、多くの人がモバイルアプリやチャットボットなどのテクノロジーを使って資産管理を行うことようになった。もはや、ファイナンシャルアドバイザーとの面談のためにアポを取るのは時代遅れに感じられるほどだ。
パンデミックをきっかけに、デジタルトランスフォーメーションはますます加速している。その主な要因には以下のようなものがある。
- 人口動態的変化:ミレニアル世代が保有する資産は2030年までに現在の5倍に増える。この世代の47%はデジタルに強い資産管理会社のサービスを利用したいと考えている。
- 財政的要因:手数料の値引き合戦により、資産運用会社は利益を出すのが難しくなっている。テクノロジーによって業務の効率化を図り、運営コストを下げる必要がある。
- 競争上のプレッシャー:スタートアップの参入により、顧客の期待するサービスの基準が変化した。既存企業がこれに対応するには、デジタルトランスフォーメーションが不可欠だ。また、大手IT企業の提供する金融サービスを利用したいと考える消費者も増えており、既存企業にとって脅威となっている。
ウェルスマネジメントの今後
ウェルスマネジメント分野におけるデジタルトランスフォーメーションは、今後どのように進むのか。下記のように、企業のあらゆる階層で技術スタックの刷新が進むと予想される。
フロントオフィス
世界のウェルスマネージャーの52%が「質の悪いオンボーディング体験を原因とした、新規顧客の離脱」を懸念している。顧客がサービスを使いこなせるよう、オンボーディングのプロセスを円滑化し、付加価値を付けることでサービスの幅を広げる必要がある。
ミドルオフィス
ミドルオフィスでは反復的な作業を合理化し、間違いが発生しやすいプロセスを削減するソリューションが有効だ。テクノロジーによって人的エラーを減らし、スタッフがより複雑なタスクに専念できるよう環境を整える。
バックオフィス
資産管理サービスの屋台骨であるバックオフィスでは、業務プロセスのアップデートを図る。これには、クラウドの活用やデータストレージの強化などが含まれる。また、障害を軽減しサービスの継続性を担保することにも注力する。
インサイダー・インテリジェンスによる調査レポート「アメリカのウェルスマネジメント・エコシステム」では、資産管理会社のデジタルトランスフォーメーションを促している要因について、さらに詳しく解説する。また、既存企業が顧客ニーズに的確に応えられるよう、「フロントオフィス」「ミドルオフィス」「バックオフィス」をどのように刷新すべきかを探る。
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(翻訳・野澤朋代)