国内でもさまざまな事業者がNFTマーケット運営に乗り出している。
作成:Business Insider Japan
「現代用語の基礎知識選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされるなど、日本でもすでにバズワードになっている「NFT」。
連日さまざまなアーティストが新たなNFTを出品したり、新しい周辺ビジネスが発表されているが、そんなNFTを取引する「NFTマーケット」の国内動向はどういう状況にあるのか。
今後提供予定のサービスを含めて、各事業者がNFTについてどのようなサービスや方針を持っているのか、分析してみよう。
ベータ版で提供している事業者
- Coincheck
- GMO
- LINE
- SBI
今後提供予定の事業者
- メルカリ
- 楽天
※この記事の情報は2021年12月1日時点のものです
高騰する「ガス代」が不要なコインチェック
Coincheck NFT
撮影:小林優多郎
コインチェックは2021年3月に、国内の暗号資産交換業者としては日本で初めてNFTマーケット「Coincheck NFT(β版)」を開設した。
同社の仮想通貨取引サービスと一体になっている点が特徴的で、ビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)など、2021年12月1日時点では15種類の通貨に対応している。
採用するチェーンはイーサリアムだが、取引時にイーサリアムを利用する上でのネットワーク手数料(いわゆる「ガス代」)が不要。
NFTを保管しておくアプリケーション(ウォレット)は、「MetaMask」を推奨している(出庫先としてはERC721規格に対応するウォレットに対応)。
NFTとして取り扱われているタイトルは、少なくとも以下の5種類。NFTファンに関連したゲーム系が多く、まさに“仮想通貨”などのアーリーアダプター向けの風合いが強い印象がある。
- CryptoSpells(ゲーム)
- The Sandbox(ゲーム)
- NFTトレカ(トレーディングカード)
- Sorare(ゲーム)
- Meebits(アバター)
コインチェックは2018年にマネックスグループに買収されており、今後同グループ内で、どのようなブロックチェーン技術の応用やシナジーが発揮されていくのかにも注目が集まる。
著名人や有名クリエイターとタッグを組むGMO
Adam byGMO
撮影:小林優多郎
GMOインターネットグループの子会社であるGMOアダムは、2021年8月からNFTマーケット「Adam byGMO」をスタートしている。
同サービスでは「最短1分で初めての方でも簡単にNFTが購入できる」としており、イーサ以外にも口座振込やクレジットカード支払いにも対応する。
採用するチェーンはイーサリアムで、イーサでの支払い時にはガス代が発生(時価)。ウォレットとしては「MetaMask」が案内される。
取り扱われているNFTのジャンルは、アート、マンガ、音楽、写真など幅広いが、12月1日時点では同社の認定代理店を通して出品するアーティストの作品に限定されている。入庫(所持しているNFTをそのマーケットに動かすこと)できるNFTもAdam内で作成されたものに限定されている。
GMOアダムは今後、「個人クリエイター様を含む、より幅広い方に出品いただける正式版」を提供する予定としている。
独自のブロックチェーンを採用&利用開始が簡単なLINE
LINEアプリ内から見たNFTマーケット。
撮影:小林優多郎
LINE子会社のLVCは、2021年6月30日からNFTマーケットをスタートしている。
ウォレットである「LINE BITMAX Wallet」上の機能としてNFTマーケットが実装されており、同ウォレットはLINEアカウントさえあれば作成できる。
そのため、単にNFTを所有したり、送り合うという意味では最も導入のハードルが低い。
ただし、NFTマーケットでは同社が開発する仮想通貨「LINK」のみの対応だ。LINKをLINE Pay残高や銀行口座の日本円と交換するためには、本人確認等が必要な仮想通貨取引サービス「LINE BITMAX」への登録がいる。
扱うNFTは自社のキャラクターやコンテンツ以外には、以下のようなコンテンツホルダーとタッグを組む形式をとっている。
- PUIPUIモルカーNFT
- ももクロメモリアル
- Cherry Garden
- 資産性ミリオンアーサー
- ふるさとチョイスのNFTアート(今後取引予定)
また、LINE内のサービスや同じZホールディングス傘下であるヤフーとの連携も注目しておきたいポイントだ。
主な事例としては、LINE内での懸賞サービス「LINEで応募」において、アサヒ飲料とコラボしてNFTのデジタル景品を12月7日より提供する。
また、ヤフオク!上で同社のブロックチェーンを基盤としたNFTアイテムの売買を2021年冬に予定している。
9月30日にSBIに買収されたばかりの「nanakusa」
nanakusa
撮影:小林優多郎
2021年4月からサービスをスタートした「nanakusa(ナナクサ)」は、SBIホールデンングス傘下のSBINFT(2021年9月30日にスマートアプリから社名変更)が展開しているNFTマーケットだ。
マーケットプレイスとしては、消費者向けにはJCBを含むクレジットカード対応、クリエイター向けには収益の分配機能を持つなど、ユニークな点がある。
基盤としては、イーサリアムとポリゴンに対応。また、ウォレットはMetaMaskを使用する。
流通しているNFTは大きく分けて2種類あり、同社公認アーティスト(約150名)によるものと、企業や団体とコラボしたアート作品が中心となっている。
SBINFTは単なるNFTマーケットの運営だけではなく、その周辺のコミュニティーの構築などクリエイター支援も主な業務としている。
なお、nanakusaでは8月21日から9月2日にかけて計36件の不正なNFT流出が発生。原因は外部攻撃者によるもので、その後該当する脆弱性の修復、新たな監視システムを導入している。
今後、nanakusaというブランドは残るが、事業としては「SBINFT Market」という名称で、さまざまな企業やブランドの独自マーケットを展開していくなど、プラットフォーム性を増していく方針だ。
2022年6月末までにNFTマーケットを展開するメルカリ
メルコインのサービスイメージ。
出典:メルコイン
メルカリは2021年4月21日に暗号資産やブロックチェーンに関するサービスを開発する子会社メルコインを設立。
メルコインは2022年6月末までにNFTに関するサービスを開始予定としている。
基盤がイーサリアムのような開かれたネットワークになるのか、LINEのような独自チェーンになるのかを含めて、詳細な情報は未だ公開されていない。
ただし、サービスとしては「メルカリのお客様に使っていただくことが前提」(メルコイン広報)であることから、既存のメルカリのアカウントや残高などと紐づいたサービスになることが予想される。
取り扱われるNFTのジャンルは「スポーツ、アート、ゲーム、エンタメ」(同広報)の予定。
メルカリは老舗サッカーチーム・鹿島アントラーズを経営しており、同チームのファンに刺さるNFTコンテンツの提供も期待できる。
自社経済圏をフル活用する楽天も2022年春に参入
Rakuten NFTのロゴ。
出典:楽天
国内の大手プラットフォーマーである楽天も2022年春にNFTサービス「Rakuten NFT」を展開予定。
独自ブロックチェーンを基盤とし、購入者は楽天IDによるカード決済でNFTを購入できる予定。
楽天ポイントも貯まる・使える予定があることから、その他の楽天サービスとの連携や送客効果が期待できる。
楽天は仮想通貨取引所の「楽天ウォレット」も展開しているが、Rakuten NFTとこのウォレットは直接関係はしない。
現在の想定では「NFTの売買は楽天IDの登録とサービス利用規約の同意のみ」(楽天広報)で利用開始できる(ただし、購入したNFTの二次流通など、他のユーザーとの取引で発生する売上金を出金する際には本人確認を実施する方針)。
流通予定のNFTは、楽天が発行するもののみで、外部のIPホルダーと連携し、スポーツ、アニメ・マンガ、アイドル、ゲームといったファンコンテンツに注力する予定になっている。
「OpenSea」のような“開拓地”はまだない
現在のNFTのムーブメントとして、まるでアメリカンドリームのようなプロアマを問わないアーティストが一攫千金を夢見る自由市場というイメージがある。
その代表例と言えるのが「OpenSea」で、すでに日本国内の複数のアーティストが活躍、成功をおさめている例もある。
一方で、今回まとめたいずれの事業者も一次流通(最初にNFTに出品すること)は、自社や公認パートナーやアーティストなど、「出自がはっきりしているNFT」に限定している。
特にLINEや楽天のような、既に大きなプラットフォームを持つ事業者は独自のブロックチェーンで、取引自体にも安全・安定性を確保している。
一方で、イーサリアムなどを採用するCoincheckやnanakusaのようなプラットフォームは自社の技術やノウハウを活かし、オープン性と使いやすさを両立しようとしていると言えるだろう。
もちろん、提供中の国内サービスでもベータ版を名乗るものもあり、現時点もビジネスの模索が続いている段階であることは留意する必要がある。
未だアーリーアダプター向けという印象の強いNFTだが、国内でこれだけの大手プラットフォーマーが参入することもあり、2022年に向けては「盛り上がり」が続くのは想像に難くない。
(文・小林優多郎)