ツイッターのCEOを退任したジャック・ドーシー。
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15年前にツイッター社を創業し、最高経営責任者(CEO)を務めるジャック・ドーシー(Jack Dorsey)は現地時間の11月29日、全社員宛のメールで退任を発表し、その後メールはツイッターに掲載された。
ドーシーはメールで、後任のパラグ・アグラワル(Parag Agrawal)を信頼していると述べ、ブレット・テイラー(Bret Taylor)を取締役会の会長に任命することを発表した。また、創業者主導の事業モデルは「発展を大きく阻む」と批判した。
ツイッターはフェイスブック(現メタ)やグーグルと同様に、ネット上の偽情報やヘイトスピーチを防止するよう強まる圧力を受けて対策を講じてはいたが、規約違反が疑われる行為への対応をめぐってドーシーへの批判は高まっていた。
2021年初めには、ドナルド・トランプ前大統領の支持者が暴徒化し、米連邦議会議事堂に乱入した事件を受けて、ツイッターはトランプ氏のアカウントを永久停止する措置を取っている。
Insiderはドーシーの退任発表について、フォーチュン500企業をクライアントに持つコミュニケーション・コンサルティング企業のエリック・ヤバーバウム(Eric Yaverbaum)CEOと、危機管理対応PR会社レビック(Levick)の会長兼CEOであるリチャード・レビック(Richard Levick)に話を聞いた。
ヤバーバウムは、ドーシーが送ったメールは会社の将来性に対して安心感を与えるとともに、後任を成功に導くためのものだと話す。「メールの内容はとても力強く、的を射ていると思います。彼がいなくても会社は今後も成長し続けていけると、はっきり伝えています」
一方で、ドーシーはCEOを兼任していたデジタル決済サービス会社スクエア(Square、2021年12月に「ブロック(Block)」へ社名変更)のトップにはとどまると思われるが、このメールにはドーシーの今後についての重要な情報が含まれていないとヤバーバウムは指摘する。
後を任せられる優秀な人材
ドーシーはメールの冒頭で、退任は自らの決断であることを表明し、追い出されるのではないかという憶測を一掃している。
「ついにツイッターを去る時が来たと判断しました」と述べ、「これはあくまでも私の決断であり、自ら判断したことを皆さんに知っていただきたい」と付け加えている。
ドーシーは突然の退任に対する懸念を打ち消したい考えがあるとヤバーバウムは見る。また、新CEOとなる現CTO(最高技術責任者)のアグラワルを全面的に信頼しているとも書いている。
ドーシーの文面はこうだ。「彼は当社とそのニーズを深く理解していることから、以前から私は彼が適任だと考えていました。パラグはさまざまな重要な決断を下し、会社の立て直しに貢献してきました」
「創業者主導の会社は成功しやすい」という神話を払拭
ドーシーは、ツイッターが創業者主導のモデルを超えて成熟しているという。
メールによると、「創業者主導の会社の重要性が叫ばれています。しかし、それは発展を大きく阻み、単一障害点(訳注:単一箇所が働かないと、システム全体が障害となるような箇所)になると私は考えています」と主張している。
ここでもドーシーは、自分がいなくても会社は前進していけることを読み手に伝えている。
ヤバーバウムは次のように分析する。
「彼は間違いなく意図的にそう書いたんでしょう。このメールでは、会社の発展のためには創業者は関わらないほうがいいと主張しています。これは明らかに、会社の将来に対する懸念を和らげようという思惑ですね」
創業者主導の企業が成功するかどうかについては、さまざまな調査結果がある。ロイター通信が2020年10月に発表したレポートによると、同年における創業者主導のテック企業の業績は、非創業者のCEO率いるテック企業を上回っていた。
一方で、創業者のCEOは業績が良くても交代させられることが多いという調査結果もある。大企業を率いるには、ゼロから会社を立ち上げるのとは異なるスキルが必要だからだ。実際、アマゾンのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)やグーグルのラリー・ペイジ(Larry Page)といったテック企業の創業者も、ここ数年でCEOの座から退いている。
ドーシーはメールの最後に、「自分のエゴよりも会社のためを思って選択できる創業者はそう多くない」と記している。レビックもこれに同意し、こう話す。
「会社のCEOになったことのある人でなければ、エゴがどれほど影響するのか理解するのは難しい。彼は謙虚な気持ちで書いただけでなく、実際に謙虚な姿勢を示しました」
しかしヤバーバウムは、この1文に「やや受け身」の態度を感じるという。自分がビジネス界で最も無欲な起業家であることを暗に認めるような内容なので、ただ謙虚さを装っているだけのように見えるとヤバーバウムは話す。
透明性を強調
退任のメールをツイッターで公開することで、「本来はごく内輪で済ませる発表に、世間を巻き込んでいる」とヤバーバウムは話す。一般の人もツイッターの社員と同じ情報を得られるので、ツイッターファミリーの一員であるように感じられる効果があるとヤバーバウムは指摘する。
また、最後に付け足された「やあ、母さん!」という一言は、ドーシーの本来の持ち味を効果的に表しているとヤバーバウムは言う。
一方で、ヤバーバウムは、ドーシーが退任した理由と今後の方針についての説明が不足していると言う。「ドーシーが最終的に何をもって退任の時期と判断したのか、疑問が残ります。世間の人は賢いので、裏では常に何かが起こっているなと察知しています」
だがレビックは、ドーシーがCEOを降りた後に「何をしないか」は指摘できるという。ドーシーの資産の85%はスクエアの株式で構成されているものの、「持株会社を設立して、スクエアとツイッターを傘下に入れるような改革はしないでしょう」と話し、こう続ける。
「そのうち、『なぜ(CEOのマーク・)ザッカーバーグはまだメタにいるのか』と言われるようになるでしょうね。創業者であるCEOたちが去っていくのを見るにつけ、シリコンバレーでは今、第二世代に突入していると感じます」
ヤバーバウムは、今回のメールは社員や一般の人々に好印象を与えたと結論づける。「(退任の理由については)すべてが語られているとは思いません。しかしこのメールはよく練られたものだと思いますよ」
ドーシーが退任を発表したメールの全文
社員の皆さん
約16年間にわたり、共同創業者、CEO、非常勤会長、常勤会長、暫定CEO、CEOと役割を担ってきましたが、ついにツイッター社を去る時が来たと判断しました。それはなぜか。
創業者主導の会社の重要性が叫ばれています。しかし、それは発展を大きく阻み、単一障害点になると私は考えています。私は、この会社がいつか創業者と創業時から続く体制から脱却できるように努めてきました。今がまさにその時だと考えている理由が3つあります。
まずは、パラグがCEOに就任したことです。取締役会は、あらゆる選択肢を検討した厳格なプロセスを経て、全会一致でパラグを任命しました。彼は当社とそのニーズを深く理解していることから、以前から私は彼が適任だと考えていました。
パラグはさまざまな重要な決断を下し、会社の立て直しに貢献してきました。好奇心旺盛で探究心が強く、合理的でクリエイティブ、要求レベルは高く、自己認識力があり、謙虚です。彼は全身全霊をかけて周りをリードし、私はそんな彼から日々学ぶことが多くありました。CEOとしてパラグを非常に深く信頼しています。
2つ目の理由は、ブレット・テイラーが取締役会長への就任に同意してくれたことです。私がCEOに就いた時、ブレットに取締役の就任を依頼して以来、彼はあらゆる面で素晴らしい働きをしてくれました。
彼は起業家精神、リスクの取り方、大企業の経営を理解しており、テクノロジーやプロダクトを熟知しているエンジニアでもあります。今、取締役会や当社には、彼のような人材が必要なのです。ブレットがリーダーシップを発揮してくれることで、今後の取締役会が強固な布陣になると絶大な自信を持って言えます。私の喜びがどれほどのものか、皆さんには想像もつかないでしょう!
3つ目の理由は、皆さん自身です。皆さんには大きな野心と可能性があります。考えてみてください。パラグはエンジニアとして入社し、仕事にとても熱心に取り組み、今ではCEOになっています(私も同じような道を歩んできましたが、彼の方が順調でした!)。
このことだけでも、私は誇りに思います。パラグは自身の経験から何をすべきか理解しているため、その行動力を最大限に発揮することができるでしょう。皆さんは会社が進むべき道をより良いものにする可能性を秘めています。私は心の底からそう信じています!
パラグは本日付けでCEOに就任します。私は任期が満了(5月頃)するまでは取締役を務め、パラグとブレットの引き継ぎをサポートしていきます。そして、その後は取締役も退きます。なぜ会社に残ったり、会長職に就いたりしないのか? パラグが自由に采配を振るえるのが、とても重要なことだと思っています。先ほどの話に戻りますが、会社は創業者の影響や指示を受けずに自立することが大事だと考えているからです。
これは、あくまでも私の決断であり、自ら判断したことを皆さんに知っていただきたいと思います。もちろん、難しい決断でした。私はこの仕事と会社を愛しています。そして皆さんのことも、とても大切に思っています。
本当に悲しい半面、実のところ嬉しい気持ちもあります。ここまで成長できる会社はそう多くはありませんから。そして、自分のエゴよりも会社のためを思って選択できる創業者はそう多くないでしょう。この判断が正しかったことを、いずれ証明できると思います。
明日の午前9時5分(太平洋時間)、あらゆる質問に答えるために全社員参加のミーティングを開きます。皆さんが私を信頼してくれたこと、そしてパラグと信頼を築こうとする皆さんの広い心に感謝します。皆さんのことを愛しています。
ジャック
追伸:このメールをツイートする予定です。ツイッターが世界一透明性の高い会社になることが、私のただひとつの願いですから。やあ、母さん!
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)