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いきなり戻った「あの頃の日常」 はなぜツラいのか? コロナうつの次にくる「日常うつ」にも心のケアを

悩む女性

緊急事態宣言解除後、あんなに「誰かに会いたい」と思っていたはずなのに、会ってみると、圧倒的な情報量に腰が引けてしまった。

Shutterstock/Horth Rasur

10月の一時期、私はひっそりとメンタルの不調を迎えていた。

頭の中が考え事でいっぱいになって夜眠れない、かといって起き上がって活動的にもなれない、時には逆に寝込んでしまう。

原因は、急に戻ってきた”あの頃の日常”だった。10月1日に緊急事態宣言が解除されてからというもの、いきなり日常が押し寄せてきた。打ち合わせのために外に出る、大勢で集まって話をする、混雑する公的機関で移動する —— 。

あんなに「誰かに会いたい」と思っていたはずなのに、会ってみると、圧倒的な情報量に腰が引けてしまった。他人の表情や仕草、空気を読み取るのに必死になるわ、反対に自分が話しているときの所作が気になって仕方ないわ、大勢の人と集まった次の日にはぐったりと重い気分になってしまうことが続いていた。

こんな風になってしまう自分は、繊細すぎるのだろうか。そう思っていたが、SNSを見たり、友人に聞いてみると、少しずつ戻っていく日常に、逆に戸惑いを感じている人もいるということがわかった。

SNSで多くの共感を集めていた「コロナ前には戻れない」には「他人の存在を押し付けられるものへの恐怖」という点で共感した。

友人は、会社で出社日が増えたものの、他人のいる環境では仕事に集中できず、広々とした社内カフェで毎日仕事していると聞いた。

「家では全然集中して仕事できないんだよね〜」と言っていた友人も、2日連続で出社すると、「なんだか集中しすぎたのか疲れちゃったわ……」と言って次の日半休をとって昼まで寝ていた。

国内で日々報告される陽性者の数の少なさ・緊急事態宣言の解除に喜ぶ声に隠れて、元の日常に疲れている声が聞こえてくるたびに確信が強くなる。

私たちのうち一部は、2年間の “連続する非日常”を経験して、いつの間にか日常に適応できなくなっているのではないか。このまま、この疲労感が続くのではないか。そういう気持ちの人は、実は多いのではないか。

産業医に聞いた「外に出る生活は疲れる」そのワケ

都会

仕事を休職していた人が出社を始めると体力的にも精神的にも疲れてしまうのと同じ環境に、コロナ禍で引きこもっている人も陥っている。

Shutterstock/aslysun

今回この記事を書くにあたって、産業医の大室正志氏に相談する機会を得た。大室氏は、「環境変化は、どんな人にとってもストレスになるもの」ということを前提に私の相談に乗ってくれた。

大室氏曰く、仕事を休職していた人も、同じようなケースに陥ることがあるという。

それまで少数の人にしか会わなかった人が突然出社を始めると、体力的にも精神的にも疲れてしまうそうだ。まさに、コロナ禍で引きこもっている人と同じ環境である。

「休職していた人も、復帰する際には少しずついつもの生活に慣らしていきます。まずは睡眠時間などの生活リズム、その後は体力面、そして集中力。最後に一番元に戻すのに疲れるのが、誰かに気を遣うことです。これは自分のペースを戻すだけではなく、相手に合わせることでもあるからです」

さらに、しばらく室内の刺激が少ない環境にいると、外の世界の情報の“重み付け”が難しくなってしまうという。

「例えば、田舎から渋谷や新宿に出てくると、疲れてしまうでしょう。あれは、大量の情報に対して処理する『重み付け』ができずに疲れているんです。新宿駅も行き慣れてくると、目の前の看板も風景にしか見えなくなってきて疲れなくなる。それは情報を取捨選択していらない情報をシャットダウンできるようになっているわけです」

「コロナの流行以前、日常的に出社していた頃は、情報の重み付けができて、同僚とのコミュニケーションもある種、省エネモードでできていたはず。それが久々に色んな人に会うと、自分がコントロールできない相手の大量の情報に重み付けできずに、疲れてしまう人がいるんじゃないかと思いますね

まさに思い当たるとおりだった。以前は気にならなかったあらゆる情報が気になって、落ち着かないし疲れてしまう。

ハイヒールを履く女性

情報の取捨選択をして省エネモードでいられた以前とは違い、疲れてしまう人がいる。

Shutterstock/Marharyta Gangalo

そういった状況の解決策としては2つあるという。

一つは、環境を変えないために、働く場所を変えること。

つまり、出社再開によって環境が変わることで心が疲れてしまうなら、転職するのもアリなのだ。実際、多くの人がより快適なリモートワークの仕事を探そうとしている。求人検索をするにあたって「テレワーク」の仕事を検索している人は急増しているのだという。(参考1)(参考2

そしてもう一つが、当たり前のようだけれど、環境に少しずつ慣れること。

まずは気のおけない友人と少人数からオフラインでコミュニケーションしてみる。大人数が集まる環境にいきなり行く機会をできるだけ避ける。少しずつリハビリしていくことで、自分の心地よい環境を見極めていく

むしろ、自分の心地よい環境を探すという点においては、オンラインという選択肢が生まれたということもあって、良い時代になったのかもしれない。

この話を聞いて、私は改めて友人とふたりきり、ランチを食べに行くことから仕切り直した。おかげで今は、少しずつ誰かと会うことに対する恐怖感も和らいでいる。

コロナうつと同様、“日常うつ”にも、心のケアを

飲み会

突然戻ってきた、ハイカロリーな日常に心が追いつかない人は多いのではないだろうか。

Shutterstock/lansa

オフラインコミュニケーションはやっぱり盛り上がるし、久々の飲み会は楽しい。しかし、やっぱりどこか、突然戻ってきた騒がしい日常に、心が追いつかない。そんな人は多いのではないだろうか。

今後は、新たな変異株の登場などのリスクを鑑みつつも、大きな方向性としては、日常を取り戻そうとする方へ、世間は動いていくだろう。

しかし、今回の一時的な緊急事態宣言の解除の事例を見たところ、その過程では、いつかは訪れると思っていたハレの日より先に、日常がやってくる。「祝祭」の雰囲気は一切ない。ただ、楽しくもハイカロリーすぎる日常が、いつの間にか、ぬるっと戻ってくるのだ。

あるいはさらに悪いケースとして、外出自粛の再開と解除を繰り返し、環境の変化を感じ続けることもあるのかもしれない。

「何がオフラインコミュニケーションであるべきか」がいまいち言語化出来ていないのも問題だ。

このまま、何がオフラインであるべきなのかわからないまま、「やっぱりオフラインじゃなきゃ」という空気感だけを頼りに、元の生活に戻るのだろうか。

コロナ禍の生活にはビフォア・アフターがあったように“期間限定”感があったが、新しい日常にはそれがない。「この疲れる生活がずっと続くのだろうか」という恐怖には、終りが見えないつらさがある。

私たちは適応力のある動物だ。確かに、いつか少しずつ新しい元の日常にも慣れるのかもしれない。しかし、その日常への回帰に対して、喜ぶ声だけがあるわけではないことを私たちは知っておかないといけないと思うのだ。

産業医の大室氏が言っていたように、環境変化は誰にとってもストレスである。

急速に日常が戻りつつある今、コロナうつが叫ばれ、心のケアが必要だと話題になったあの頃と同様、日常の帰還に伴う心のケアも必要なのではないだろうか

(文・りょかち

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