※この記事は2021年7月19日初出の記事の再掲です。
無印良品がリノベーションして販売する築47年の一室。外観のビンテージな雰囲気、一歩中に足を踏み込めばまるで新築というギャップがリノベ物件がもつ独特の魅力だ。
撮影: 横山耕太郎
無印良品の住宅事業を展開するMUJI HOUSEは2021年7月から、団地やマンションの一室をリノベーション(大規模なリフォーム工事)をして販売する事業をスタートさせた。
MUJI HOUSEではこれまでも、賃貸物件のリフォームや、個別の住宅リフォーム事業を持っていたが、今回の新事業では“無印良品が物件を取得し、リノベーションを終えた状態で販売する”という、さらに一歩踏み込んだビジネスモデルになっている。
まずは関東で2住戸(横浜市内と府中市内の団地の一室)を発売するが、今後は物件数を拡大し、数年以内に年間100件ほどの販売を目指すという。
新事業の第1号物件となる、築45年超の一室を現地で取材した。
玄関を開けてびっくり「MUJIのリノベ住宅」
港南台めじろ団地。棟と棟が離れており、開放感がある。
新宿駅から電車で約1時間。JR根岸線「港南台駅」から、歩くこと約15分の位置にある横浜市港南区の「港南台めじろ団地」が目的地だ。
団地一帯は、5階建の横に長い長方形の集合住宅が立ち並ぶ。ただ、集合住宅の間隔が広く取られており、また団地内には緑も多いため、独特の開放感を感じられる立地だ。
無印良品が手掛けたのは、最上階・5階にある広さ51.18平方メートルの部屋。ベースとなる建物は1974年に建設され、築年から47年が経過している。
玄関を開けてまず驚くのが、真正面に靴棚があり、左右どちらにも進める作りになっていることだ。
玄関の左右に入口があり、回遊できる設計になっている。
撮影: 横山耕太郎
左に行けばリビング、右に行けば洗面台に進めるため、すぐに手洗いができる構造になっている。
収納のないキッチン
UR都市機構と無印良品が共同開発したキッチン。キッチンの下の空間が空いているのが特徴。
撮影: 横山耕太郎
リビングに入り、すぐに目を引くのが白色で統一されたキッチンだ。
キッチン下は自由に使える空間になっており、ごみ箱などを配置できる。一般的なキッチンであれば、こういった場所に食品や調理器具を収納する棚があるが、固定の収納スペースはあえて備え付けない。
キッチンの壁際に設置された棚。
撮影: 横山耕太郎
コンクリート打ちっぱなしとした壁には、取り外し可能な棚を設置している。
ちなみに、この部屋にある無印良品の棚や家具は、販売価格に含まれており、寝具や家電を用意すれば生活できる状態という。
壁をなくして間取り変更
リノベーション前の住居。キッチンの壁の向こうにもう一部屋ある間取りだった。
提供:MUJI HOUSE
リノベーションのため、内装を解体した時の様子。
提供:MUJI HOUSE
リフォーム前には2LDKだった間取りは、1LDKに変更。個室とLDKを隔てていた壁を取り除いた。
「他の物件でも、壁をなくすことで外の光が部屋の中に届くようにデザインしている」
MUJI HOUSEリノベーション事業部の2級建築士・浅見一也さんはそう話す。
リノベーション後は、壁をなくしてリビングの広さを確保した。
撮影: 横山耕太郎
寝室を想定している個室にも、備え付けの収納はなく、取り外し可能な棚が設置されている。
リビング隣の個室の収納も、取り外し可能な棚を設置している。
撮影: 横山耕太郎
「この部屋は20代から30代の2~3人暮らしを想定している。寝室にはリモートワークに対応できるように、仕事用のデスクを置いたが、コロナが落ち着けば、今後また生活スタイルが変わることも予想される。収納エリアや机も、自由に配置ができるように設計している」(浅見さん)
築年数が経過した躯体でも寒くない「断熱性の高さ」
2重になり、断熱性を高めた窓。
MUJI HOUSEによると、無印良品の統一されたデザイン性に加え、断熱性が高いこともリノベーション物件のセールスポイントだという。
既存の窓を2重窓にして遮音・断熱性を高めたほか、壁には断熱性の高い素材を使用することで、冷暖房の効率を高めている。
「新型コロナの影響で在宅時間が長くなり、住環境の快適さを求める声は増えているように感じている。こうした意識の変化は、無印良品の物件には追い風になる」(浅見さん)
団地の魅力は「住環境」
リビングには3面の窓があり、明るい光が差す。
撮影: 横山耕太郎
「築年数が経過した集合住宅は、管理状況によって状態は全く異なる。今回の物件に関しては、これまできちんと管理されてきている」(浅見さん)
MUJI HOUSEの浅見一也さんは、「団地には都市部のマンションにない魅力もある」と話す。
とは言え、団地はその古さから敬遠されることも少なくないという。
そうした不安に応えるため、無印良品ではUR都市機構との協働で培ってきた実績をアピールしている。
UR都市機構と無印良品は、2012年から共同で団地リノベーションプロジェクト「MUJI×UR」を開始。2021年3月には供給戸数が1000戸に到達するなど、特に若い世代から支持されているという。
「団地の魅力は住環境が良いこと。大きな樹木があり、日当たりや風通しを考えて建物の配置計画がされているのは、最近のマンションにはない価値。
古さを心配する人もいますが、(耐震基準など)安全性のチェックをしていることに加えて、断熱性など住みやすさも評価してもらいたい」(浅見さん)
1000戸を突破した「MUJI×UR」の物件は実際人気が高く、希望しても入居が難しいことも少なくない。今回の分譲販売によって、より身近に「無印良品のリノベ―ション物件」を感じてもらいたいという。
販売価格1990万円、その相場感は?
トイレのドアを開け撮影。トイレの中には配管が見えている。
撮影: 横山耕太郎
今回の物件の販売価格は1990万円だ。
「リノベーションの費用や物件取得の金額は公表していませんが、今回の販売価格は、フルリノベーション物件としては、相場からすると極端な値段設定ではない」(浅見さん)
ちなみに、同じ団地内の空き物件は、リノベーションをしていない状態ではおよそ1000万円程度。フルリノベーションをした物件は1700万円程度。無印良品のブランド力も加味すれば、極端に相場より高いというわけではなさそうだ。
コロナで郊外人気、インテリアも好調
めじろ団地内には公園もあり、緑が豊かだった。
めじろ団地内には公園もあり、緑が豊かだった。
コロナによる住環境への意識の変化も、追い風になっている。
ヤフー・データソリューションが、2020年3月から11月にかけて「〇〇 (地名) 賃貸」「〇〇 マンション」などの検索データを検証したところによると、関東・関西ともに都心の地名ほど検索が減少傾向にあり、逆に郊外は検索の高まりがあることがわかった。
また、家具の販売も好調だ。帝国データバンクの発表によると、2020年度の家具・インテリア販売市場(売上高ベース)は、2019年度から6.1%増えて1兆5000億円だった。
無印良品のリノベーション新規事業は、こうしたコロナ後の需要を取り込む狙いがあるのだろうか。
「リノベーション物件の分譲自体は、約3年前から計画していたもので、コロナによる需要を受けての事業ではない。ただ、これまでよりも手軽に無印の家に住めるようになるという点では、将来性が大きい事業だと思っている」(MUJI HOUSEリノベーション部長 豊田輝人氏)
今後は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で発売し、反応を見ながら名古屋や福岡などの都市での販売も検討するという。
生活雑貨だけでなく、衣料品や食品、リフォームでも存在感を増す無印良品。中古マンションの販売でも無印ブランドを確立できるのか注目したい。
(文・写真、横山耕太郎)