アップルのティム・クックCEO。
Apple
アップルが「App Tracking Transparency(ATT)」というトラッキング防止機能を2021年4月にリリースして以来、アップルは3000億ドル(約33兆円)規模のモバイル広告市場で優位に立ってきた。すでに10億ドル(約1100億円)以上も同社の収益は上振れしていると、ウォールストリートでトップのインターネットアナリストは新しいレポートの中で述べている。
この機能はアップル製品で使われるアプリに、他のアプリやウェブサイトにおけるユーザーのアクティビティを追跡する前に、ユーザーに許可を取るよう義務付けるものだ。ほとんどのユーザーはこうしたアクセスを拒否するため、アプリマーケティングキャンペーンの生命線ともいえるターゲット広告、数値測定、属性把握のために使える貴重なデータへのアクセスを、アップルのみが独占する状況になっている。
バーンスタイン・リサーチ(Bernstein Research)のマーク・シュムリク(Mark Shmulik)は、最近発表されたレポートの中で、ATT機能がモバイル広告市場にどのような影響を与えているかを分析している。多くのアプリ開発者はATT機能導入により打撃を受けているが、アップルの広告事業は絶好調なのだ。
「アップルの広告事業ではAppStore内でのSearch Ads(検索連動型広告)の割合が大きく、今後も恩恵を享受し続けるものと思われる」とシュムリクらは書いている。「アップルの自社アプリはユーザーに追跡許可を取る設定にはなっておらず、自社のAPIをアドネットワークに使っているため、より粒度の高いデータを取得できる」
第2四半期のアップルのSearch Adsの広告クリック単価(CPC)は67%も上昇。「より効果の高いターゲット広告を行うことで、広告主の関心が高まったためだ」とバーンスタインのアナリストは書いている。ATTの導入により、同事業の収益は通期で30億ドル(約3400億円)の予想だったのに対し、今後10億ドルほど上振れし40億ドル(約4500億円)で着地すると見られているという。
アップルは自社のプラットフォームを活用することで、ディスプレイ広告事業を成長させることができる、と同レポートは記している。また、アップルがモバイルアプリ収益化のために自前のアドネットワークを導入する可能性も指摘している。そうなれば、フェイスブックのオーディエンスネットワーク、グーグルのGDNなどと直接競合しかねない。
バーンスタイン・リサーチは、「アップルは立ち位置が独特だ。IDFA(Identifier for Advertisers)に紐づいた競合優位性を享受しつつ、アプリ広告支出市場でシェアを拡大する可能性がある」と述べている。IDFAは、ターゲット広告を表示させたり、キャンペーン効果を測定する際に端末を識別するために使われているアップルのツールだ。また、アップルは「積極的に」同社のプライバシールールに代わるものの出現を阻んでいるという。
アップルが2020年にATTについて初めて発表した際、開発者、広告主、その他ターゲット広告に依存する企業からの反発を受けたが、一方でプライバシーを重視する人々からは賞賛された。
また、このトラッキング防止機能を発表したことで、アップルとフェイスブック(現メタ)の確執は激化した。マーク・ザッカーバーグは決算説明会の中でATTを批判。表向きはユーザーのためとしながら、実際にはアップルが競争上有利な立場に立つために導入したものだと主張した。
スナップ(Snap)、ペロトン(Peloton)、ツイッター(Twitter)といった主要企業の幹部は、このアップルの新ルールにより自分たちの事業にマイナスの効果が出たというが、このプライバシー保護の取り組みが長期的にどのような影響をもたらすのか見極めたいとしている。
[原文:See how Apple's privacy push could help it generate billions of dollars in profit]
(翻訳:カイザー真紀子、編集:大門小百合)