ドイツポストDHLの子会社ストリートスクーターの最も大型の電動配送トラック、WORK XL。以前はフォードが製造していた。
Deutsche Post DHL Group
ここ2年間、自動車業界を直撃し続けたサプライチェーン危機の真っただ中で、テスラの事業戦略のある側面には先見の明があったようだ。
イーロン・マスク率いるテスラは、外注と何層にもなる下請け構造のサプライチェーンに依存する自動車業界で、その製造機械の多くを自社で開発し、自動運転のソフトウェアも自分たちで設計し、今後は電池の生産も内製化することを計画している。
2021年に入ってから、投資会社のアーク・インベスト(Ark Invest)は、「テスラはいつか世界で『最も統合された自動車メーカー』になるかもしれない」と述べている。テスラの企業価値は最近1兆ドルを超えた。
今や競合他社も、マスクの戦略から学ぼうとしているようだ。つまり、テスラの成功に倣って、製品開発から生産・販売まで、すべてのプロセスを自社内に取り込む垂直統合をしようとしているのだ。
自動車メーカーによる外注構造から内製化へのシフトは加速していると調査会社のIHSで自動車分析部門のエグゼクティブ・ディレクターを務めるマイク・ウォール(Mike Wall)は言う。そして、その共通の目標は、「サプライチェーンをより根本的に理解すること」だと言う。
ゼネラル・モーターズ(GM)は最近、リチウム生産事業に対して初期投資を行った。社長のマーク・ロイス(Mark Reuss)はこれを垂直統合への動きの一環だとアピールしている。これ以前にもGMは、ブライトドロップ(BrightDrop)という商用車事業の立ち上げと、LG化学と提携するアルティアム(Ultium)と呼ばれるバッテリー事業について発表している。
電気自動車(EV)のスタートアップであるルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)はすでに自社を垂直統合型企業だとブランディングしており、またリビアン(Rivian)のCEO、R・J・スカーリンジは、ソフトウェアや駆動技術など重要な機能については「自社でコントロールするために垂直統合型であることが非常に重要」だとTechCrunchに話している。
このような内製化への急激な動きに後押しされたとみられるのが、そこまで有名ではないあるグローバル企業3社の提携だ。
情報筋によると、インドネシア・バッテリー・コーポレーション(Indonesia Battery Corporation:IBC)は、ルクセンブルクを拠点とする投資会社オディン・ホールディングス(Odin Holdings)とともにドイツポストDHL(DPDHL)グループの電動トラックおよびバンの製造会社であるストリートスクーター(StreetScooter)を買収することになったという。
1億7000万ドル(約187億円)というこの買収案件は、数週間以内に成立する予定だ。
ドイツポストDHLはもともと、自社フリートの脱炭素化のため2014年にストリートスクーターを買収したのだが、うまくいくことばかりではなかった。現在、2万台以上のストリートスクーターの商用車が市場に出回っており、また年間1万台の生産能力を持っているにもかかわらず、ドイツポストDHLは2020年に電動バンの生産中止を発表した。フランク・アッペル(Frank Appel)CEOはプレスリリースで、「適切なパートナーなしではストリートスクーターの規模拡大は困難」だったと述べている。
今回、売却という流れになったのは、IBCという適切なパートナーが見つかったからのようだ。競争が激しく巨額の投資が必要になる自動車業界において、この買収は3つの理由から意味があると言える。
まず、IBCはストリートスクーターの既存の生産ラインを手に入れることができる。生産ライン確保は、EV生産にとって最も資金が必要になる先行投資のひとつであり、EV市場参入への実質的な障壁にもなっている。
次に、ストリートスクーターにとってはIBCが持つインドネシア内のバッテリー生産や鉱業権に直接アクセスできるようになる。例えば、インドネシアで生産されるニッケルの供給は、EVのバッテリーに大きな意味を持つのだ。
最後に、IBCのバッテリー事業にオディンの持つ技術的知見を応用することができる。オディンの最大株主はムーブ(Moov)のCEOステファン・クラウゼ(Stefan Krause)だ。クラウゼはEVのスタートアップであるカヌー(Canoo)を創業し、別のEVスタートアップのファラデー・フューチャー(Faraday Future)の役員を務めたこともある人物だ。
ドイツポストDHLは今回の売却後もストリートスクーターへの持ち分は維持するという。
この件についてストリートスクーターとIBCからはコメントを得られなかったが、ムーブの広報によれば、会社として具体的な情報は出せないが、「多数の車を所有する企業に対して、EV化のための包括的なワンストップサービスを提供できるように、いくつかの取引を模索しています」とのことだった。
ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のアナリスト、ダン・アイブス(Dan Ives)は言う。
「テスラやGMをまねた垂直統合の好例ですね。バッテリーに直接アクセスできることは、成功につながる大きな一歩ですから」
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)