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DX時代の「ESG広告」の実証実験スタート。「広告を見るだけ」で寄付できる仕組みは教育格差を解消できるか

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広告を通じて持続可能な教育支援を行う新たなビジネスモデル「ONGAESHI」の実証実験がスタート。

撮影:湯田陽子

世界第3位の経済大国でありながら、7人に1人の子どもが貧困状態にある日本。経済格差によって引き起こされる「教育格差」は、いまや大きな社会課題となっている。

それを解決するために新たなビジネスモデルを開発したのが、教育・人材評価ツールを手掛けるスタートアップ、Institution for a Global Society(以下、IGS)だ。

IGSは独自のブロックチェーンシステムによって、広告をクリックすることで誰もが生徒や学校を援助できる新発想の「ESG型広告モデル」を構築。経済産業省の「未来の教室」事業の一環として2021年12月から、広告サービス「ONGAESHI(おんがえし)」の実証実験を開始している。

実験には、大塚製薬、河合塾グループ、セガ、三井住友信託銀行が広告出稿企業として参画。さいたま市と三重県の教育委員会も協力する。

ONGAESHI ビジネスモデル イメージ ESG 広告 社会課題 教育格差 支援

「ONGAESHI」ビジネスモデルのイメージ。

提供:Institution for a Global Society

広告出稿費の一部で生徒・学校を支援

ONGAESHIでは、生徒(中学・高校生)や保護者が広告を閲覧すると、広告出稿費の一部がトークン「ONGAESHIコイン」として発行される。

生徒は、オンライン教材に表示される広告を見るたびにコインを獲得。獲得したコインのうち、2/3は生徒本人に、残りの1/3はONGAESHIプロジェクトに参加する地域の学校に寄付されるというスキームだ。獲得したコインは、EdTech(エドテック:教育へのテクノロジー活用)企業が提供する教材と交換することができる。

保護者の場合も同様だ。保護者は教育情報サイト(実証実験ではIGS運営の「MeLab」)に表示される広告を閲覧してコインを獲得。保護者自身の「学び直し」用の教材に交換できるだけでなく、自分の子どもの教材を入手するために利用できる。

また、生徒と保護者という「当事者」だけでなく、一般の社会人が参加できる点も見逃せない。

社会人は、保護者と同じく「MeLab」に表示される広告を見て獲得したコインを、データサイエンスや英語といった自分用の教材と交換。さらに、コインの一部は、自分が選んだ地域の学校(実証試験では三重県かさいたま市)に寄付される。

ONGAESHI コイン 用途 表

獲得したコインの用途とその狙い。生徒・保護者・社会人それぞれが、自身の学びと同時に社会貢献できるスキームになっている。

出所:IGS発表資料と取材をもとに筆者作成

つまり、生徒にとっては、広告を見ることで自分の勉強の教材が手に入る上、学校の教材入手をサポートするという社会貢献につながり、保護者にとっても子どもの教育費を補うことができるメリットがある。

さらに、子どもがいない、あるいはすでに自身は学校と縁遠くなってしまったという人(社会人)も、広告を介して次世代を担う子どもたちの教育を支援できるというわけだ。

「通常の事業活動」通じた持続可能な援助スキーム

企業としても、ONGAESHIを使うことで、教育に関心のある層を狙ったターゲティング広告を展開できるだけでなく、広告出稿という「通常の事業活動」によって、教育分野への社会貢献が可能になる

日本では長らく、公教育に「ビジネス」を持ち込むことがタブー視されてきた。

しかし、SDGsやESGが重視されるようになり、企業活動の目的として社会課題の解決を打ち出す動きが加速している。

その一環として、人材育成や教育格差解消に取り組みたいという企業のニーズを、広告という一種の「緩衝材」を通して実現するのが、ONGAESHIプロジェクトの狙いだ。

プロジェクトの責任者を務めるIGSの取締役兼ビジネス開発部統括部長、中里忍氏はこう話す。

「寄付やボランティアといった支援活動は企業の利益に左右されるため、業績が悪化して途絶えてしまうことも少なくありません。営利を目的とする企業としては、仕方のないことです。

でも、子どもの貧困や教育格差が深刻化している現実がある。そして、それを解決するために支援したがっている企業もいます。このふたつをブリッジし、しかも持続可能な資金の流れを構築することが、ONGAESHIの目的です」(中里氏)

東大 教育格差 大学進学率 グラフ 親の収入

両親の年収別に見た高校卒業後の進路。親の年収によって大学進学率に開きが出ていることがわかる。

出所:東京大学 大学経営・政策研究センター「高校生の進路追跡調査 第1次報告書」

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