川上宗一(かわかみ・そういち)氏/電通デジタル 代表取締役社長執行役員。
電通デジタルは「一人の天才を求めない。集合知で勝ちにいく」川上社長インタビュー
デジタル化が加速度的に進む現在。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を経営目標として掲げる企業が増えているが、課題も多くその道のりは容易ではない。企業のDXに関する課題に向き合い、一気通貫で支援するのが電通デジタルだ。
広告会社に由来する生活者視点を持ち、戦略からIT、クリエイティブまで各分野の強い専門性を持った人材を集めることで、幅広い事業領域に対応する。電通デジタルはこれからの社会変化をどう読み解き、どういった未来を目指すのか。川上宗一社長に話を聞いた。
電通の本質は課題解決業「今はデジタルの時代」
電通デジタルの話をする前に「電通は何の会社か」と問われれば、多くの人は「日本最大手、世界でも最大級の総合広告代理店」と答えるだろう。しかし、電通デジタルの川上社長は「一般の方々のイメージと実情は大きくかけ離れています」と語る。
「電通の本質は、課題解決業です。その時代において企業が活躍するための課題を特定し、解決する。その手段は時代によってさまざまですが、今の時代は、デジタルです」(川上氏)
日進月歩で進化するデジタル技術を使い、スピード感を持って企業の課題を解決する。「時代についていくだけでなく、追い越すための決断」として誕生したのが、電通デジタルだ。
そんな電通デジタルには、「企業のビジネスモデルを変革するDX」「最適なシステム基盤/データ環境の構築」「デジタルを活用した新たな顧客マーケティング」といった3つのケーパビリティと、それを事業に落とし込んだDX、Data&Technology、Commerce、Media&Communication、Creative——といった5つの軸がある。
① DX
デジタルを起点にして、顧客や従業員といった“人”に注目したDXを推進。事業やマーケティングの課題を、戦略→仕組み化→組織定着化の各レイヤーにおいて変革する。
② Data&Technology
DXによる事業変革を推進するために、最適なITプラットフォーム環境を構築し、さまざまなデータソリューションを提供する。
③ Commerce
オンライン・オフラインを横断して購買行動に関わるすべてを最適化する統合コマースコンサルティング、実施に向けた戦略策定、基盤の構築、制作、分析、改善を実行する。
④ Media&Communication
クッキーフリー時代を見据え、プラットフォーマーデータと企業のファーストパーティデータを結合し、マスメディアも統合した最適なメディア運用で投資対効果を最大化する。
⑤ Creative
YouTube、Instagram、Twitter、オウンドメディア、実店舗などあらゆる顧客接点で最適なコンテンツを開発・運用し、顧客体験を向上させる。
川上社長は「この五本柱によってクライアントをサポートし、人間社会の中で光輝く企業となるお手伝いをします」と意気込みを語る。
Afterコロナはデジタルを活用しなければサバイブできない
この5本柱は、コロナ禍においてより重要性を増しているという。
「コロナ禍以降、デジタルなしにビジネスの成長はない、と自覚して相談してくださる企業経営者が増えました。自分たちの企業が10年後、20年後も生き残るために、デジタルをどう活用すべきか、真剣に自分ごととして考えるようになったと感じます」(川上氏)
その顕著な例が、コロナ禍による対面営業の縮小やキャッシュレス決済の浸透だ。電通デジタルもDXやCommerceなどで後押しをする。
「人との接触が少なくなったコロナ禍の2年間で、対面営業は縮小しました。これだけ長引いたことで生活者の行動変容が起こり、Afterコロナの世界でもデジタルを武器としなくてはサバイブできないことに経営者も気付いています。ECの充実やリモート接客の活用、キャッシュレス決済の浸透——これらデジタルを活用した変化によって、購買データを起点にしたマーケティング戦略も変わります。特にECやキャッシュレス決済では、どういった生活者が何に興味を持って、どんな価値観で買い物をしているかが分かるので、今後はさらなる活用が見込まれます」(川上氏)
電通デジタルは一人の天才を求めない。集合知で勝ちにいく
コロナ禍による行動変容によって、どの業種業態も、デジタルなしにビジネスの成長はないと気付き始めた。多くのコンサルティングファームもDXの手助けをビジネスチャンスと捉えている。電通デジタルは、それらとどう違うのだろうか。川上社長に問うと、「そもそも、私たちはコンサルと競合しているとは思っていない」と語る。
「コンサルと電通デジタルの違いは、よく聞かれる質問です。コンサルの仕事は、効率化によるコスト削減です。一方、僕らの仕事は人間と企業をつなぐこと。5つの事業領域で企業と人の関係性をアップデートして、企業の価値を高めていきます」(川上氏)
人をしっかりと見ることこそ、電通デジタルの強みの一つだ。そして、もう一つの強みが、共創にあるという。
「デジタル社会では、共創が最も重要。電通グループ内の共創はもとより、外との共創ネットワークも拡張しています。志が同じならば、ありとあらゆる企業と組んでいくつもりです」(川上氏)
多種多様な業種が組むことで、そこにはイノベーションが生まれる。電通デジタルだけでは不可能なソリューションも共創によって可能になることもあるだろう。そして、多様性が必要なのは、人材も同じだ。社員数700人で始まった電通デジタルは、電通アイソバーとの統合で2000人にまで増えた。そこに集う才能も幅広いという。
「社員の国籍は10カ国以上。中途入社率も 49%(2021年12月現在)となり、戦略コンサル出身やデータマネジメントに長けた人材、プロジェクトマネージャーやエンジニア人材など、さまざまなバックボーンを持った社員が在籍しています。私たちは、一人の天才を求めている訳ではありません。集合知で勝ちたい。そういった意味では、2000人の社員ではまだまだクライアントへの価値を高めきれていません。もっと多くの仲間、倍の4000人は必要です」(川上氏)
“Performance Based Working”で個人とチームの両方の働き方を底上げ
人材に重きを置く電通デジタル。実力を引き出す働き方やデジタル人材の育成に注力する取り組みを推し進めている。
「働き方では、“Performance Based Working”をテーマに掲げています。僕の理想は、朝起きたときの気分やコンディションに合わせて、自由に働く場所を選べること。誰かと話をしたいなら出社してもいいし、集中したいなら在宅勤務やシェアオフィスで働けばいいと思っています」(川上氏)
もちろん、これはただの個人主義ではない。出社日はしっかりと設けており、ある部署のメンバーが出社する日や入社年度が同じ社員が出社する日など、軸を決めることでさまざまな社員同士が顔を合わせられる仕組みをつくっているという。
「個人とチームの両方の働き方を底上げするのが、本当の意味での“Performance Based Working”。電通デジタルの仕事はチームプレーです。サッカーでも個人技が上手い選手がいるだけでは、試合に負けてしまいます。チームで勝つためには、メンバーの実力だけでなくチーム力が重要です。それは教えたり、教えあったりという育成の文化で高めることができます」(川上氏)
この育成の文化にも、電通デジタルは力を入れている。最も重要視するのは、社員のやり甲斐を高めることだ。その一端に研修の充実がある。
「数百本の研修動画を準備しており、毎日のように何かしらのオンライン研修を行っています。一例を挙げると、毎週水曜日、約600人が参加する2時間ほどの勉強会を開催。前週にあった成功事例や失敗事例やプラットフォーマーの最新知見を凝縮して共有します。毎週のように生きた事例や情報を浴び続けていると、自ずと実力があがっていくものですよ」(川上氏)
もちろん、それだけに自己研鑽は大変だ。「デジタルの習得には知識と経験が必要。しかし、コツコツ学ぶ忍耐力と志があれば、スキルアップは可能です」と川上社長は言う。
強くて志を持った仲間と楽しいことをやっていきたい
最後に、川上社長は電通デジタルが目指す未来、それに伴い強化する領域について展望を示してくれた。
「我々は、生活者である人を見る力があります。世の中にボールを投げ、それを投げ返してもらい、生活者が本当に求めるものを見極める。そして、そこから企業の本質的な課題を見出し変革に着手します。私たちは、本当の変革を見据えた未来戦略をクライアントと一緒に立てられると自負しています。そのために企業の経営層としっかりと向き合い、上流の戦略領域にさらに力を入れていきたいと考えています」(川上氏)
もう一つの強化領域は、グローバル展開だ。それを支えるのは、早くから海外進出していた電通アイソバーとの合併がある。
「日本企業の海外進出だけでなく、外資系企業の日本進出の支援も視野に入れています。諸外国から見ると、日本はデジタル化に遅れておりチャンスの塊で、引き合いは多い。来年には、5本柱に『グローバル』を加えて、6本柱になる予定です」(川上氏)
取材終了後、川上社長はこう話した。
「取材中は、控え目に4000人の仲間が必要と言いましたが、本当は1万人くらいいないと私たちが目指す未来を実現できない。今後は採用も強化していくので、強くて志を持った仲間たちと、たくさん楽しいことをやっていきたいですね」(川上氏)