ツイッター前最高経営責任者(CEO)のジャック・ドーシー。CEOを兼務していたモバイル決済大手スクエア(Square)の経営に注力する。
U.S. House of Representatives Energy and Commerce Committee/Handout via Reuters
エリオット・マネジメント(Elliott Management)は2020年3月、ツイッター(Twitter)の共同創業者兼最高経営責任者(CEO)ジャック・ドーシーを追放すべく、同社の株式を大量に保有し、最有力アクティビスト(物言う投資家)ファンドらしい圧倒的な影響力を行使して(=圧力をかけて)きた。
それから20カ月がすぎた2021年11月29日、運用資産残高480億ドル(約5兆3000億円)のエリオットはようやく望んでいた結果を手にした。ドーシーのCEO退任だ。
エリオットがツイッター株式の取得を発表してから一貫して要求してきた成長、イノベーション、売上高目標を達成して完全なる成功にたどり着けるかどうか、あとはパラグ・アグラワル新CEOの手腕次第と言える。
エリオットが保有するツイッター株式は約3000万株(発行済み株式の約4%)。ドーシーの部下として数々の重要な決定に関わってきたアグラワルが、元上司であり友人でもある前職者と大して変わらないということになれば、エリオットが失うものは大きい。
今回の件に詳しい関係者は、ドーシーが「(自ら率いるモバイル決済サービス「スクエア」の経営との)選択による麻痺」に陥っていたと語る。
その点で、最高技術責任者(CTO)からCEOに昇任したアグラワルにはドーシーとまったく異なるふるまいが求められており、取締役会もアグラワルならそれができると考えている模様だ。
アグラワルはさっそく取締役会の信任に応え、12月3日、アカウンタビリティ(説明責任)やスピード、業務効率の向上を目指して大規模な組織再編に着手する計画を発表している。
ただし、アグラワルの名前も力量もあまり知らないウォール街関係者は、新CEOがツイッターに必要な(あるいはエリオットが要求する)変革を本当に実現できるのか懸念を抱いている。
ツイッターは2021年初頭、2023年末までに(収益源となる)デイリーアクティブユーザー数を3億人超、年間売上高を75億ドル(約8300億円、2020年は37億ドル)超に成長させる目標を打ち出した。第3四半期(7〜9月)の業績をみる限りでは、その道のりはまだまだ長い。
エンジニアリングやプロダクトに詳しい比較的無名の経営幹部がトップに就任し、大手テック企業へと躍進させた前例もなくはない。
取材に応じた関係者によると、サティア・ナデラがマイクロソフト(Microsoft)の、シャンタヌ・ナラヤンがアドビ(Adobe)の経営状況をそれぞれ好転させたように、エリオットがアグラワルに期待しているのも、ツイッターを新たな高みに引き上げることだ。
ナデラは2014年にスティーブ・バルマーの後任としてマイクロソフトCEOに就任。当初はその能力を疑問視されていたが、その後リンクトイン(LinkedIn)やギットハブ(GitHub)など大型買収に次々成功。マイクロソフトをクラウドコンピューティング分野のトップ企業に押し上げ、その企業価値を飛躍的に高めた。
またナラヤンは、クリエイター向けのニッチなソフトウェアを開発してきたアドビを、時価総額3000億ドル(約33兆円)というクラウドサービスの巨人へと成長させた。
今回の件に詳しい関係者は、ナデラとナラヤンの成功が、ツイッターの株式取得から経営陣への要求までエリオットの一連の思考に直接的な影響を与えたと語る。
内情に詳しい別の関係者によれば、アグラワルは常に熟考してから動くタイプで、多くの従業員から敬意を集める人物でもあり、2020年11月時点でトップ昇格が決定していた。
取締役会のほうも、外部から敏腕経営者を招へいしたり、ツイッターを「完全リセット」したりする必要はないと考えていたようだ。必要とされていたのは、会社を次のステージに進めてくれる人材だったと、同じ関係者はInsiderに証言した。
エリオットが「物言う投資家」としてツイッターの経営に関与するようになってから、同社は数多くの新たなプロダクトを世に送り出してきたが、いずれもアグラワルはCTOとして中心的な役割を担った。
2020年は、フォロワー向け限定コンテンツを提供して収入を得る「スーパーフォロー(Super Follows)」、リアルタイム音声コミュニケーション機能の「スペース(Spaces)」、プレミアム機能およびアプリカスタマイズ機能にアクセスできる有料サブスク「ツイッターブルー(Twitter Blue)」など、ユーザー数増加と収益源の拡大を狙ったツールをリリース。
さらに、オランダのニュースレター配信サービス「レビュー(Revue)」を買収し、ツイッターに統合している。
こうした動きは現時点ではまだ業績に大きなインパクトをもたらしていない。それでも、プロダクトのイノベーションさえ継続できれば、売上高とユーザー数の増加はあとからついてくる、エリオットはそう考えているようだ。
エリオットは新CEOより新会長に期待?
ツイッターの新CEOに就任したパラグ・アグラワル。
アグラワルは2011年にエンジニアとしてツイッターに入社し、広告宣伝やプロダクトをリードするチームにジョインした。
エリオットはアグラワルの能力に全幅の信頼を寄せているようにみえるが、実際には彼がCEOに就任することより、新たに取締役会議長(会長)にブレット・テイラーが就任することのほうが重要なのかもしれない。
テイラーは12月1日に顧客関係管理(CRM)システム大手セールスフォース(Salesforce)の共同CEOに就任したばかり(直前はプレジデント兼最高執行責任者)。テック業界の重鎮かつ実力者で「シリコンバレーの帝王」と呼ぶ者もいる。
エリオット・マネジメントは一切の妥協を許さない厳格なアクティビストとして知られる。ツイッターとドーシーは真っ向から戦う道を選んだが、ターゲットにされたら最後とばかり無条件で要求を受け入れる企業も多い。
例えば、米通信大手AT&Tはエリオットによる株式取得からわずか2年の間にCEOをすげ替え、メディア事業(ワーナーメディア)を分割して同じく米メディア大手のディスカバリーと合併させるきわめて大規模な決断を下した(統合後の新会社設立は2022年半ば予定)。
また、ツイッターの株主に名を連ねる米フロリダ州年金退職金基金は、同社取締役会によるエリオットの要求受け入れが拙速として異議を唱え、2021年1月に同社を提訴している。
ツイッター取締役会は訴訟を受け、新たな委員会を設置して調査を行うこととして態度を保留中。そのこともアグラワル新CEOの悩みの種になりそうだ。
(翻訳・編集:川村力)