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「石炭依存」の中東欧諸国が脱炭素化に反対しないワケ…背景に原発新設の動き

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ポーランドのトゥロフ石炭火力発電所。

REUTERS/David W Cerny

脱炭素化を重視する英国と欧州連合(EU)といったヨーロッパ主要国勢は、先日開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の場で、資源国や新興国に対して非現実的な削減目標の履行を迫った。

ヨーロッパ主要国勢の中では、「環境大国」とされるドイツが電源の3割近くを石炭火力発電に頼っているという事実がある。

一方、ヨーロッパにも新興国が存在する。具体的には、かつて旧ソ連の影響が色濃かった中東欧の国々だ。そうした国々は、依然として石炭火力発電に対する依存度が高い。中東欧諸国は国民の所得が低いため、豊富に埋蔵されている安い石炭を使った「火力発電による安価なエネルギー源」のニーズが非常に強い。

その筆頭が、電源構成の実に72%を石炭火力発電に頼っているポーランドだ。南部のウジェク(Wujek)やトゥルフ(Turów)などはヨーロッパ有数の炭田として有名だ。人口1000万人に満たない小国が多い中東欧の中で、ポーランドの人口は約3800万人と突出。EUが排出する温室効果ガスの11%をポーランドが占める(2019年時点)。

図表1 石炭依存度が高いEUの国々(電源構成に占める石炭火力発電の割合、2019年)。

図表1:石炭依存度が高いEUの国々(電源構成に占める石炭火力発電の割合、2019年)。

出典:欧州連合統計局(Eurostat)

ポーランドはEUきっての製造業立国でもある。最大の輸出先はドイツで、品目は自動車の部品だ。

ドイツを中心とするヨーロッパの自動車産業を考えるうえで、ポーランドの石炭火力発電が大きな役割を果たしていることは、実はあまり知られていない事実だろう。いずれにせよ、ポーランドの石炭火力発電の削減はEUにとって大きな意味を持つ。

中東欧諸国の「脱石炭」は原発新設とセットだ

チェコ共和国の首都・プラハ。

チェコ共和国の首都・プラハ。

Uwe Michael Neumann / Shutterstock

ポーランドと国境を接するチェコもまた、石炭火力発電への依存度が高い国(石炭火力発電の割合43%)の一つだ。ドイツ東部からポーランド、チェコ及びスロバキアにまたがる地域は、歴史的にシュレジエン地方と呼ばれ、一帯に石炭(褐炭)が豊富に存在することで知られる。そのうちチェコ西部にあるカルヴィナーもまた、ヨーロッパ有数の炭田だ。

ブルガリア(同39%)やスロヴェニア(同28%)、ギリシャ(同25%)、ルーマニア(同23%)は、山がちな地形で知られるバルカン半島に属する。こうした諸国には鉱物資源が豊富で、石炭もその一角を占める。国内で安価に入手できる石炭を利用することは、こうした中東欧諸国にとっては合理的な選択肢だ。

冒頭で述べたが、こうした中東欧諸国はかつて旧ソ連の強い支配下に置かれた。

そして、各国とも計画経済に基づく重化学工業路線を模索、そのための電力源として石炭は重要視された。各国とも1980年代末に計画経済を放棄、市場経済の導入と欧州連合(EU)への加盟を目指して構造改革に努めたが、巨額の費用を要する発電所の更新はなかなか進まなかった。

ある意味、やむを得ずに石炭火力発電を利用し続ける中東欧諸国だが、なぜ、脱炭素化の流れに異を唱えないのか。

その答えは明白で、結局のところ中東欧諸国の多くが今後、原発の新設を予定しているからだ。

中東欧諸国で進む原発計画

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ブルガリアのコズロドイ原発(2009年撮影)。

REUTERS/Oleg Popov

石炭火力発電「大国」であるポーランド(同72%)の場合、2033年には同国としては初となる原発を1基稼働させ、2043年までに追加で5基を稼働させる計画を立てている。合わせてポーランドはバルト海沿岸の洋上風力も増設を進める予定だ。こうしたことから、ポーランド政府は2050年に定められた排出削減を、十分に達成可能と目論んでいる。

チェコもまた2040年までに原発を増設する計画を立てている。

2021年6月には、チェコ側の企業群が韓国側の企業群との間に原発の建設及び運営などに関する覚書を交わした。ルーマニアも米国の協力の下、チェルノボーダ原発の増設と近代化に着手する。同様にブルガリアも米国のサポートを受けて、コズロドイ原発の増設に取り組む。

中東欧諸国での原発の建設に弾みをつけた最大の推進力は、欧米と中露の対立にあると言っても過言ではない。

拡大志向を強める中国や旧ソ連の後継であるロシアにとって、中東欧諸国は戦略的に重要な意味を持っている。とりわけ中国は、中東欧諸国への影響力を強めようとインフラの建設に資金と技術の両面で協力的な姿勢を見せていた。

一方、米国やEUは、中東欧諸国のインフラ建設支援に対して消極的な態度だったが、中国やロシアに対する不信感を高めるにつれて、中東欧諸国を取り込むために態度を改めるようになった。

脱炭素化に代表される環境対策が国際政治そのものとなって久しいが、中東欧諸国での原発の建設増もまたその流れの中で生じた現象だ。

脱炭素化で取り残された「最終処分」問題

スイスの中間貯蔵施設にある核廃棄物コンテナ(2014年撮影)。

スイスの中間貯蔵施設にある核廃棄物コンテナ(2014年撮影)。

REUTERS/Ruben Sprich

中東欧諸国では、現在でも原子力発電所が少なからず稼働している。

しかし、その多くが旧ソ連で開発されたロシア型の旧式原子炉(VVER)であるため、経年劣化に伴う非効率化への対処が長年の問題となっていた。もともと原発の更新ニーズがあった中で、国際政治色が強い脱炭素化の潮流を受けて、中東欧諸国は原発の更新を進めやすくなった。

なお、米国は次世代原子炉であるSMR(小型モジュール炉)の開発競争をリードすべく、中東欧諸国に接近している。ルーマニア政府はこうした流れを受けて、2014年の入札に唯一参加した中国広核集団有限公司(CGN)と交わした覚書を廃棄、米ニュースケール・パワー社製のSMRを導入すると11月2日に米国との間で合意に達した。

EUもまた、フランスの原子力企業オラノを中心に拡大を図る。

オラノは開発で遅れをとるSMRの開発をはじめ、かつて挫折したEPR(欧州加圧水型炉)の普及を再び目指している。オラノを擁するフランスのマクロン大統領は、手始めにフランスの原子炉の新設に着手する旨を表明しているが、彼らが中東欧の市場を視野に入れていることは明白だ。

2011年の東日本大震災の記憶がまだ残る日本では、原子力発電に対しての議論は慎重にならざるを得ない。しかしグローバルな視野に立てば、脱炭素化の潮流の中で、「原子力発電の強化」が模索されているという事実もある。

もっとも、各国とも先送りし続ける論点がある。それは「核燃料の最終処分の問題」だ。原発の増設推進は、すなわち、処分の目処がつかない使用済み核燃料を大幅に増やすことになる。

各国首脳は、脱炭素化のために核のゴミを増やすことの是非に、正面から向き合うべきではないか。

(文・土田陽介

電源構成比のデータ出典:Euro stat


土田陽介:2005年一橋大経卒、2006年同修士課程修了。エコノミストとして欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行う。主要経済誌への寄稿(含むオンライン)、近著に『ドル化とは何か‐日本で米ドルが使われる日』(ちくま新書)。

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