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2012年のある日、マイケル・ゴード(Michael Gord)は 「ビットコインの興亡」という見出しのワイアード(Wired)の記事を読んだ。6カ月かけて徹底的に調べた結果、ビットコインは 「世界で最もエキサイティングなテクノロジー」 だと判断し、彼はビットコインの 「伝道者」となった。
それ以来、ゴードはブロックチェーン技術と暗号通貨の普及に携わってきたが、それは必ずしも簡単な道のりではなかった。
「私はこれまでプロとしてのキャリアを通じて、友人や家族だけでなく、みんなから頭がおかしくなったと言われ続けてきました。ですからある段階で、誰かに間違っていると言われようが構わないと思うようになりました」と彼はInsiderに語った。
その心境の変化が、ゴードが世界初のバーチャル不動産会社の1つを設立するにあたって功を奏したのかもしれない。ゴード自身はこの会社を「仮想空間の取引を扱うブルックフィールド(訳注:カナダの大手資産運用会社)」 と呼ぶ。
メタバースの土地を売買するという考えは、以前はニッチであり、限られた人々の間でしか知られていなかったが、最近フェイスブック(Fecebook)がメタ(Meta)に社名変更したことやNFT(非代替性トークン) ブームによって、メジャーになりつつある。アーティストがパフォーマンスを行ったり、ブランドが広告宣伝したり、企業が会議を開催したりできるメタバースの土地は最近、記録的な取引件数に達している。
バーチャル不動産会社、メタバースグループCEO兼共同創業者、マイケル・ゴード。
Metaverse Group
分散型アプリ(dApps)のデータを提供するダップレーダー(DappRadar)によると、11月最終週の1週間だけで、仮想通貨SANDを利用するザ・サンドボックス(The Sandbox)、仮想通貨MANAを利用するディセントラランド(Decentraland)、クリプトボクセルズ(CryptoVoxels)、ソムニウムスペース(Somnium Space)などのメタバース空間で、1億ドル(約110億円)以上に相当するメタバースの土地がNFTとして売却されたという。
カナダの仮想資産投資会社トークンズ・ドットコム(Tokens.com)に株式の50%を170万ドル(約1億9200万円)で売却したゴードの会社、メタバースグループ(Metaverse Group)は11月最終週に、ディセントラランドの仮想土地区画を243万ドル(約2億7400万円)で購入した。同じ週に、遊びながら仮想通貨などの報酬を得ることができるプレイ・トゥ・アーン(play-to-earn)プラットフォームのアクシー・インフィニティ(Axie Infinity)の仮想土地区画が230万ドル(約2億6000万円)で売却された。
仮想空間上の土地がなぜ数百万ドルで売られているのか
仮想不動産投資の突然のブームに対し、投資家の多くは投機的であり持続的なものではないだろうという印象を持っているが、ゴードによればこのトレンドは非常に初期の段階にあるため、仮想土地区画を購入することはインターネット黎明期にウェブサイト上のコンピュータ画像の最小単位、「ピクセル」を購入するようなものだという。
「広告スペースに対して支払いをするのではなく、またウェブサイトへの訪問者数単位で支払いをするのでもなく、その仮想空間の所有権を実際に購入する。つまり、世界で最も主要なネットワークであり続けるFacebookのウェブサイト上で仮想不動産を購入することができれば、その不動産の所有権は計り知れない価値を持つことになるでしょう」 とゴードは述べている。
ゴードの会社では、ディセントラランドとザ・サンドボックスの両方で仮想不動産資産のポートフォリオを管理しており、当面はデジタル資産の大半をディセントラランドに置くという。
彼は2017年のイニシャル・コイン・オファリング(ICO、訳注:資金調達を目的に仮想通貨を新規発行すること)のブームのときにディセントラランドのことを初めて知ったが、当時はまだ技術が成熟していなかったので投資は見送ることにした。
2020年初頭に、新型コロナウイルスの感染拡大で人々がほとんどの時間をオンラインで過ごすようになったことを受け、ゴードはディセントラランドの独自トークンであるMANA を2セント程度で購入し始めた。仮想通貨の評価・情報提供サービスのコインゲッコー(CoinGecko)の価格変動表によると、2021年12月3日の午後にニューヨークで4.2ドルで取引されていたこのトークンは、過去1カ月間では34%、過去1年では4493%も急騰した。
ユーザーはディセントラランド内で仮想不動産を売買できる。
Decentraland
ゴードは、ディセントラランドはFacebook、WeChat、WhatsAppをしのぐ「世界で最も価値あるソーシャルネットワーク」になると確信している。メタバースの機能は単なるコミュニケーションツールとしてのものにとどまらないからだ。
「もしメタバースでファッションショーやコンサート、会議を開いたら、短期間で何万人もの人々が集まるでしょう。さらに中長期的に見れば、こうした体験に参加する人が何千万人にもなる可能性は十分にあると思います」と彼は言う。
ゴードによると、ディセントラランドのプラットフォームのユーザー数は、2021年初頭の1万6000人から同年11月末時点で38万4000人へと、30倍以上増加している。
メタバースの土地の目標価格が数百万ドルに達する要因のひとつは希少性にある、とゴードはみる。例えば、ディセントラランドには9万区画以上の土地があるが、それぞれの区画面積は2500平方フィート(約232平方メートル)となっている。
もちろん、希少性の度合いは需要の高さによる。「ディセントラランドに世界中のどこからでもサインインできる人々がいるなら、ディセントラランドはどんな都市よりも大きなビジネス拠点になる可能性は大いにあると思います」とゴードは指摘する。
「メタバースで価値が16カ月で200倍になる可能性も」
実世界での商業不動産投資と同じように、ゴードのチームはデジタル資産の提案をする前に、ロケーション、人通り、中心街への近さ、過去取引での価値、区画の大きさを評価している。
同社は17の物件を保有しており、メタバース上でファッションショーを開催したり、NFTの高級ハンドバッグなどのNFTウェアラブル商品を展開する優良ブランドにスペースを貸し出す計画だ。
仮想メタバース「ザ・サンドボックス」内の土地のスナップショット。
The Sandbox
「私たちは1日に文字通り数百人もの人たちから賃貸について問い合わせを受けています」と彼は言い、ディセントラランドで最安値の土地区画でも現在もおよそ2万ドル(約220万円)から値下がりしていないと付け加えた。
この仮想空間での土地取引において、530億ドル(約6兆円)規模のデジタル資産を扱うグレースケール・インベストメンツ(Grayscale Investments)は、メタバースで年間1兆ドル(約110兆円超)の収益機会が生まれる可能性があると述べる。アーク・インベスト(Ark Invest)のキャシー・ウッド(Cathie Wood)CEOはさらに大胆な予想をしており、メタバースは数兆ドル(数百兆円)規模の市場になる可能性があると語っている。
ゴードにとって、メタバースは2012年におけるビットコインのようなものだ。
「メタバースでの価値が、今後16カ月で200倍になる可能性もあると思います」と彼は言う。「これは少なくともインターネットが出現した時と同じくらいのスケールなのは間違いありません」
「バブルじゃないかって? 確実にそうですね」
数百万ドル規模の取引が行われているにもかかわらず、暗号通貨に強気な投資をしている一部の投資家たちは、現在のようなメタバースの土地取引のブームが続くとは考えていない。
「バブルなのかと言えば確実にそうでしょう。住宅バブルと同じようなものです」とイミュータブル・ホールディングス(Immutable Holdings)のジョーダン・フライド(Jordan Fried)CEOはInsiderの取材に対して語っている。
ブロックチェーン持株会社、イミュータブル・ホールディングスのCEO、ジョーダン・フライド。
Immutable Holdings
「現在の価格を確実に維持するには、ディセントラランド内でのゲームへの参加者も観客も足りていません。完全な思惑買いであり、熱狂であり、単にここで抜けたら損するのではないかという恐れに過ぎません」と指摘する。
しかしフライドは、メタバースのトレンドは現実でありチャンスを象徴するものだという。消費者がネット上で過ごす時間が増えるにつれ、ビジネスチャンスが増大しているからだ。
「NFTではないのにゲーム『ロブロックス(Roblox)』内のバーチャルのグッチのバッグに喜んで4000ドル(約45万円)を支払う人がいるのも、何ら不思議なことではありません。ロブロックスで長い時間を過ごしているなら、ロレックスの時計やグッチのバッグを本当に身に着けているような、ステータスを示すことができる魅力的なアイテムが欲しくなるでしょうから」と語っている。
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)