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解決したいテーマを上手に分解し、「本当の課題」を特定することができれば、課題解決は驚くほど簡単にできます。
課題を発見する際に活用すると便利な方法は大きく2つあります。1つは、前回、前々回ご紹介した「マトリックスで分ける」というものです。
そしてもう1つが「プロセスで分ける」という方法です。プロセスとは、仕事の手順を時間軸で整理することで現状を把握しやすくした図のこと。マトリックスを使った方法に加えて、プロセスでも課題を分解できるようなると課題解決力が一気に上がります。
なぜこれらの方法が有効なのかというと、両方とも戦略に紐づいていることが多いからです。戦略を検討する際には、まずマトリックスで大枠をつかみ、戦略を実行に移す際に最適なプロセスを決めるというのがオーソドックスな手順です。
「分けたつもり」の人があまりにも多い
解決したいテーマを「分解する」と聞くと、「分解? そんなのいつもやっている、簡単だよ」と言う人がいます。
その通り。分解だけならほとんどのビジネスパーソンがやっていることです。
ただし、その分解のレベルには雲泥の差があります。例えば会社の業績が低迷しているという、こんな役員のように——。
当社は売上が低迷しています。ですから課題はとにかく「売上拡大」。コスト削減はできるかぎりのことをやったので、いま営業担当に発破をかけて拡販営業を指示しているところです。
この役員は、「利益=売上-費用」と2つに分解したことをもって「課題を分解した」と考えているのかもしれません。そして、費用の削減は十分に行ったので、利益を増やすためには売上拡大が必須だと考えたのでしょう。
確かにそうです。分解はしています。しかし、「どうやって売上拡大をすればいいのか」という肝心かつ具体的な方法の部分については、現場に丸投げしてしまうのです。
現場にしてみれば、改めて上司から発破をかけられなくたって、どうすれば売上が拡大できるだろうといつも考えている。でもそれができないから困っているのです。
この役員が「売上拡大をしろ!」と号令をかけるのは、最近調子の出ないバッターに向かって「ヒットを打て!」と檄を飛ばすようなもの。バッターボックスに立つ選手にしてみれば、どうやったらヒットが打てるのかを教えてくれよ、とボヤきたくもなるものです。
課題(このケースでいうと売上拡大)を明確にしているのに現場が動かないのだとしたら、それは「上手に分解」できていないということ。具体的な打ち手を示せていないのです。
課題を「プロセス」で分ける
テーマを分解する際に大切なポイントは、課題を解決する当事者が、課題解決できる大きさにまで分解することです。私はこれを、「現場が持てる荷物の大きさにする」と言っています。
「現場が持てる荷物の大きさにする」際にぜひ覚えておいていただきたいのが、「闇夜の鉄砲」でも「CTスキャン」でもなく、適度な粒度にするということです。
「闇夜の鉄砲」とは要するに、数字的な根拠もなく当て推量で方針を決めること。これで仮にうまくいったとしても偶然でしかありませんから、再現性がありません。
では逆に時間をかけて丁寧にやればいいのかというと、そういうわけでもありません。ときどき、まるで「CTスキャン」のように全ての内容を細かく調べようとする人を見かけますが、これでは調べなくていい箇所まで調べる分、時間を無駄にしてしまいます。
そこで「プロセス」です。
仕事を進める手順や過程を時系列で整理しながら、本当の課題がどこにあるかを突き止めていきます。このとき「正しい持てる荷物の大きさにする」理想的なイメージはどんなものかというと、例えば次のように、重要なポイントのみ詳細化する方法です。
「営業活動」というプロセス(分解1)のうち、課題は「営業」にあることが分かりました。営業のプロセスを分解したところ(分解2)、「プレゼンテーション」に課題があること分かりました……というふうに課題をたどっていくわけです。
分解1(営業)→分解2(プレゼンテーション)→分解3(資料作成)……と進むにつれて、現場は具体的に何をすればよいのかイメージが湧いてきます。その結果、例えば「提案資料の作成(分解4)の仕方に問題があったのか!」などと真の課題を把握できるわけです。
以降では、「プロセス」で分解する際の典型的なパターンを3つご紹介します。あなたの組織の課題解決にも、ぜひこれらの方法を応用してみてください。
1. ビジネスの基本は「創る→作る→売る」
多くのビジネスは、ごく単純化するとたった3つのプロセスで表現できます。新しいビジネスアイデアを「創る」、それを実際に「作る」、そしてそれを「売る」という3つです。
筆者作成
これをきちんと回している会社は利益が出るはずです。利益が出ているなら、「他社との差別化ポイントはどこにあるのか」という視点でプロセスを分解してみることで自社の強みを言語化することができます。
もし利益が思うように出ていないなら、「強化すべきポイントはどこか」という視点から3つのプロセスを細かく分解して原因を特定していきます。
一般的に、イノベーションを起こしたいメーカーにとっては「創る」が、量販製造が得意なメーカーは「作る」が、そして小売業や商社は「売る」が競争優位ポイントになる傾向が高いはずです。
同じ「創る」「作る」「売る」でも、競争優位ポイントはさらに細分化できます。例えば「作る」が得意な会社の中には、他社が簡単に入手できない素材を調達することが得意な会社もあれば、他社が思いつかない独創的な製法を編み出すことが得意な会社もあるでしょう。
また、差別化ポイントは1つよりも複数あるほうが競争優位を長く維持できます。さらに言えば、他社がどうでもよいと思っているポイント、あるいは気づかないポイントで差別化を図れている会社ほど、競争優位を長く維持できます。
「創る」は目利き力がモノを言う
「創る→作る→売る」の中でも「創る」、つまり研究開発から新商品・サービスを生み出す力はいつの時代も重要です。優良企業の代表としてよく取り上げられる3Mは、過去5年間に開発された新商品の売上が3分の1以上あるそうです。「創る」が得意な会社の典型ですね。
あなたの会社はどうでしょうか? もし新商品からの売上が1割以下だったら要注意です。商品・サービスにも寿命がありますから、新商品の売上比率が低いということは近未来に全社の売上が低下していく恐れがあります。
そんなときは「創る」の部分をさらに細かく分解して、どこに課題があるのかを特定してみてください。例えばこんな具合です。
筆者作成
「創る」のプロセスで重要なのは、どのアイデアを採用するかを見立てる“目利き力”です。
多くのノーベル受賞者を輩出したことでも知られるベル研究所では、優秀なエンジニアに15%の自由時間を与えて思い思いに研究開発をさせ、それを研究所長が、親会社からの雑音を遮断しながら目利きをしていたそうです。極論すると、この研究所長に騙されても良い額を渡し、見守っていたわけですね(実際、この所長が辞めて以降はベル研究所もかつての輝きを失いました)。
グーグルも同様に、従業員に「就業時間の20%を自由に使ってよい」というルールを設けています。そして半年に1回、予算をつける会議があり、そこを通過すると予算と人がつくという仕組みになっています。その判断は合議ではなく、担当副社長が独断で実施しているそうです。
このように、「創る」のプロセスではゲートウェイ管理とそれを見立てるキーパーソンの存在が特に重要です。
「売る」の課題発見は「比較」で
では「売る」についてはどうでしょうか。売る、つまり営業プロセスは、単純化すると次の6つのプロセスに分解できます。
- ターゲティング:対象顧客を決める
- アプローチ:対象顧客と接点を持つ
- ヒアリング:対象顧客の課題やニーズを把握する
- プレゼンテーション:課題解決できる企画提案を行う
- クロージング:契約締結する
- デリバリー:納品する
このようにプロセス化するとき、同時に数値化もしておくと課題が特定しやすくなります。ここでいう「数値化」とは、それぞれのプロセスの実数値と次のステップへのCVR(Conversion Rate:歩留まり)です。
プロセスの中で課題を発見するうえでのコツは「比較」すること。昨年や前月の数値と比較する、組織間の数値と比較するなど、何かと何かを比較して、その差分が大きいプロセスほど課題候補である可能性が高まります。
なお、営業における課題はプロセスの前半にあることが多いものです。私がそれに気づいた事例を「売れる営業と売れない営業はこんなに時間の使い方が違う」という記事の中でご紹介していますので、ぜひあわせて読んでみてください。
2. 「サブスクモデル」は後ろからカイゼンする
会員からの定額課金で成り立つサブスクリプション(サブスク)モデルは、単純化すると次のようなプロセスで表現できます。
筆者作成
効率的に「集客」して「入会」を促し、「利用」者を増やして、できるだけ「退会」抑制することがサブスクモデル成功の鍵です。
このプロセスの課題を把握する際には、「穴の空いたバケツモデル」として視覚的に理解するのが役に立ちます。
バケツに溜まった水の量が「会員数」を表しています。このバケツの水の量は3つの変数により決定します。
- 蛇口からバケツに入る水の量
- 入る水のうちバケツの外に出ていく水の量
- バケツの底の穴から出ていく水の量
バケツの水の量を増やすには、蛇口からバケツに入る水の量をできる限り増やし、バケツの外に出ていく水の量を極力減らすに限ります。つまり——
- 蛇口からバケツに入る水の量を増やす = 集客を強化する
- バケツに入る水の量を増やす = 入会率を改善する
- バケツの底から出ていく水の量を減らす = 退会率を改善する
ということですね。この3つはどれも重要なのですが、ことサブスクビジネスの業績を拡大させるという意味では、プロセスを改善させる際の王道のステップがあります。それが以下です。
- 退会率を改善する(バケツの底から出ていく水の量を減らす)
- 入会率を改善する(入る水の量を増やす)
- 集客を強化する(蛇口からバケツに入る水の量を増やす)
このステップを間違えると、収益改善ができません。なぜだか分かりますか?
一般的に、「3. 集客を強化する」にはそれなりにお金をかける必要があります。しかしせっかく集客しても、入会につながらなかったり、入会しても次々に退会されてしまっては集客効率が悪く、利益を圧迫してしまいます。しかも、これでは担当者たちのモチベーションも上がりません。
このような事態を起こさないためにも、まずは「退会率」を下げたうえで「入会率」を改善し、これらが実現したところではじめて「集客」を強化するという手順をとったほうがよいわけです。
しかし現実はどうかというと、多くの企業では「集客の強化」と「入会率の改善」を中心に実行しているものの、「退会率の改善」はないがしろにされているケースが散見されます。
理由のひとつは、「退会率の改善」と言っても具体的にどうすればいいのかが分かりにくいからでしょう。確かに、退会を申し出た会員を引き留めるのはかなり難易度が高いものです。10%でも残ってくれればいいほうです。
では、どうすればいいのか? 会員の利用頻度を高めればよいのです。頻繁に利用する会員は退会しませんから。
ただしこの施策は、短期では効果が見えにくいのが難点です。例えば、半年で利用顧客が低減するサービスがあったとして、利用頻度を高める施策が本当に効いたかどうかは半年後にならないと分かりません。
これをやり続けられる組織は、間違いなく「ABCD(当たり前のことを馬鹿にせずにちゃんとできる)組織」と言えるでしょう。こういう組織ほど競争優位性が高いものです。
なお、サブスクビジネスの運営を軌道に乗せるための勘所については、この連載でも過去に取り上げていますので、そちらも参考にしてください。
3. 「プロジェクト」は最初のステップが肝心
極論すると、すべての仕事は「プロジェクト」です。プロジェクトも下図のようにプロセスで表現できます。
これは「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」と呼ばれる、プロジェクトマネジメントの10のプロセスです。
我流でプロジェクトマネジメントをやっている人たちは、(1)(6)(7)(8)(10)のあたりでつまずく人が多いようです。しかし、プロジェクトマネジメントもこうしてプロセスとして表現すれば、苦手なポイントを探り当ててスキルを磨くことができます。
例えば、「(1)目標を明確にする」が不得意な人がいるとしましょう。
プロジェクトマネジメントを学んでいないとついここを曖昧にしたり、後回しにしがちなのですが、目標(つまり目指すべき場所)が明確でなければ、プロジェクトの成功はまず無理ですよね。では、どういうふうに明確にすればよいのでしょうか?
プロジェクトマネジャーの立場に立つと、「目標を明確にする」は次の7つに細かく分解することができます。
- プロジェクトオーナー(発注者)の真のニーズ(目的)を把握する
- 最終成果物を決める
- Q(品質)、C(コスト)、D(納期)の優先順位を決める
- プロジェクト目標を文章にする
- 変更管理の手順を決める
- 基本ルールを決める
- プロジェクトファイルにまとめる
このように分解すると、何をすればよいのか分かりやすくなります。
これら7つの中でも、特に「3 QCDの優先順位を決める」は注意が必要です。プロジェクトオーナーは、できればプロジェクトのQ(品質)は高く、C(コスト)は小さく、D(納期)は短くしたいと考えるものです。プロジェクトマネジャーにとってもそれが実現できるに越したことはありませんが、「Qを高めるには、Cを増やすかDを長くすることが必要」という具合に、これらは往々にして同時には実現しないものです。
したがって、Q・C・Dの優先順位をプロジェクトの初期にあらかじめ決めておくことが大切です。これをやらないと、後になって揉めるという不幸が発生してしまいます。
以上、今回はプロセスで分けることで課題を解決する方法をご紹介しました。いかがでしたか? 次回は、具体的な事例を使ってこの方法を使いこなす際のポイントをお話しします。
※次回は、2022年1月14日(金)を予定しています。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェローも兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。