3COINSのオリジナル家電がヒットを飛ばしている。新たにオープンした原宿の旗艦店を取材し、その秘訣を探った。
撮影:小林優多郎
3COINS(スリーコインズ)の躍進が止まらない。
パルグループが運営する同ブランドは「スリコ」の略称で親しまれ、300円(税抜)の生活雑貨商品が8割を占める。全国230店舗を展開し(2021年12月)、コロナ禍で増え続けた売上高は2021年2月期(2020年3月~2021年2月)には259億6000万円に。さらに2021年3~8月期の売上高は前年同期83.8%増の187億円と急伸した。
売上に貢献しSNSでも注目されているのが、ワイヤレスイヤホンや電子メモパッドなどオリジナルの軽家電だ。
早速、軽家電の売り上げベスト5を見ていこう(価格は全て税込)。
5位:ライト付きスマホクリップ式ホルダー / 1100円
撮影:小林優多郎
自在に動くケーブルで好みの高さや角度に調整してスマホを固定する。3タイプ10段階の明るさに調節できるライト付きで、顔映りもバッチリ。ビデオ通話に加え、画質の悪いパソコンのウェブカメラの代わりにスマホを使う人も多く、コロナ禍のオンライン会議需要で人気商品になった。累計販売数は約8万個。
4位:防滴ワイヤレススピーカー / 1100円
撮影:小林優多郎
生活防水仕様。吸盤付きでガラスやタイルに取り付けられるため、バスルームで音楽を聴くのに最適。マイクが内蔵されており、ハンズフリーで通話もできる。オフィスでのオンライン参加者のいるグループ会議の際にスピーカーとして利用する人もいるそうだ。累計販売数は約12万個。
3位:8.5インチ電子メモパッド / 550円
撮影:小林優多郎
ワンプッシュで消せる電子メモパッド。筆圧で文字の太さを変えることもできる。2020年12月の初回入荷後、即完売。その後も完売する店舗が続出し、「こんなに需要があるとは思わなかった」と担当者を驚かせたヒット商品。
コロナ禍で在宅勤務しながら子どもを見る必要に迫られた保護者は少なくない。子どもの1人遊び用、また家族の伝言メモツールとして購入する人が多かったという。累計販売数は約26万個。
2位:ワイヤレス三脚自撮り棒 / 1100円
撮影:小林優多郎
自撮り棒としても三脚としても使える2WAYタイプ。Bluetooth搭載で離れた場所からでも撮影ができる。累計販売数は約30万個。
1位:ワイヤレスステレオイヤホン / 1650円
撮影:小林優多郎
累計販売数約116万個を超える、3COINS家電最大のヒット商品。充電ボックスに出し入れするだけで自動でON/OFF、ペアリングできる。形はインナータイプとカナルタイプがあり、連続再生時間は約4時間30分。リニューアルして電池の残量がデジタル表示されるようになったため、オンライン会議での電池切れの不安からも卒業できる。
発売当時(2020年3月)のワイヤレスイヤホンの相場は5000円前後。約1500円という手を出しやすい価格に加え、購買者からブログやSNSを通じて好感触のレビューが多数発信され、人気に火がついた。
家電が苦手な人でも使いやすい商品を
撮影:小林優多郎
3COINSの購買層は女性が9割で、年齢は30代を中心に20代から40代までと幅広い。同ブランドのPRを務める矢八有香子さんは言う。
「3COINSの家電は、最新のツールに苦手意識を持つ人でも生活に取り入れやすく、かつ簡単に使っていただけることにこだわって開発しています」(矢八さん)
初心者でも挑戦しやすい低価格、なのに「思ったより使える」。この「ちょうどよさ」が、まさにスリコ家電がウケている理由だ。
3COINSの商品は9割がオリジナル。自社工場は持たず、全てメーカーと共同で開発している。
高価格な美容家電も好調
撮影:小林優多郎
オリジナル家電の開発に着手したのは、コロナ禍が始まる前の2019年。
従来の50坪平均の店舗から大型店に切り替える戦略の中で、商品の幅を広げる必要があったからだ。顧客層とも親和性が高いスマホ関連アクセサリーに狙いを定め、担当者が中国に飛び価格を抑えて生産できる工場を足で探し回った。
その後、本格的な販売にこぎつけたのは2020年3月。コロナ禍の巣ごもり、在宅ワーク需要でヒットが連発し、今に至る。
家電のニーズに後押しされ、2021年7月からは美容家電の販売も始めた。
くすみピンクで統一されたデバイスは、温冷フェイスケアやピーリングができる商品など多くが2000円以上。中には3850円(税込)の商品もあり3COINSの中では高価格だが、コロナ禍でエステに行けない人も多く売れ行きは好調だ。
電源アダプタは手持ちがあることを想定して同封しないなど、コストダウンの工夫も欠かさない。
毎月の新商品700超でも無駄を出さない工夫を
撮影:小林優多郎
売り上げが好調な3COINSだが、100円均一、無印良品、IKEAなど競合は多い。中でもダイソーの新業態「Standard Products」は商品の7割が300円とあって、今後は強力なライバルになるだろう。
「軽家電や美容家電は1つの強みですが、ダイソーさんがさらに安い1100円(税込)のワイヤレスイヤホンを発売されるなど、さらなる差別化が必要だと感じています。その1つとして、今は白と黒というシンプルなカラー展開のみの軽家電も、今後はカラーバリエーションを増やす予定です」(矢八さん)
加えて「鮮度の良さ」にもこだわっていく。3COINSが毎月発売する新商品は約700〜800個。
大量生産で無駄も多いのでは? と心配になるが、決してそうではない。作り過ぎず、在庫は基本的に1カ月分のみ。本当に売れた商品だけ再販をかける方針だ。
人気商品はすぐに売り切れるため、最近では新商品が入荷する月曜日のほうが週末より客足が増えているという。
売り切れた場合、再販まで客は2カ月ほど待つことになるが、余剰を出さないサステナブルな経営のため、2年ほど前からこの方式を採用してきた。
初の旗艦店を原宿にオープン、その店内は
撮影:小林優多郎
そんな3COINSが2021年11月、東京・原宿に初の旗艦店をオープンした。店内はこれまでの同ブランドのポップなイメージを刷新する「倉庫」がコンセプト。
撮影:小林優多郎
約2500点の商品の中でも目を引くのは、よくある原色やパステル調ではない、「くすみカラー」に徹底的にこだわったというキッズ用品だ。
撮影:小林優多郎
「アヒルもくすんでますよ」(矢八さん)という通り、お馴染みのアヒルも寒色のくすみカラーに。
撮影:小林優多郎
他にもフルーツサンドや、
撮影:小林優多郎
プライベートブランド「おかしもん」などの食料品も。
撮影:小林優多郎
ちなみに330円の商品の中でトップの売り上げを誇るのは、食器用洗剤の詰め替えボトル。スポンジで上部を押すと洗剤が出てくる仕組みで、濡れた手でボトルを持ち上げる手間が省けるのがポイントだ。
軸は300円。広告費ゼロでも170万人超にリーチ
撮影:小林優多郎
「値段の驚きを大切にしたい」という3COINS。軽家電や美容家電に注力する一方、300円以上の商品は7割までにとどめる方針だ。
「広告費にかける予算の分で、よりリーズナブルで、より良い商品にしたい」(矢八さん)とも言い、広告も一切打たない。広告の代わりに積極的に発信している公式SNSは、インスタグラム150万人、Twitter約15万人、Facebook約12万人のフォロワーがいる(2021年12月8日時点)。
雑貨ブランド戦国時代。差別化を図る各社の動向から、ますます目が離せない。